普遍主義の後退
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/07 05:24 UTC 版)
アングロサクソンは絶対核家族であり、差異主義である。すなわち、人間や諸民族をそれぞれ違っているものと見なす。かつては普遍主義のソビエト連邦の脅威があったため差異主義は抑えられていたが、冷戦終結によりアメリカの普遍主義的態度は消え去りつつある。 すでにトッドが『移民の運命』 (1994年) で指摘したように、アメリカにおいて黒人が白人と結婚する率は異常に低い。アメリカ黒人女性が白人と結婚する率は、1980年に 1.3%、1990年に 1.6%、1999年に 2.3% である。現在、子を持つアメリカ黒人女性の半数以上が未婚であることを考慮すると、むしろ低下していると言える。また、アメリカ黒人の乳児死亡率は、1997年に 14.2‰ であったのが 1999 年には 14.6‰ に悪化している。1970年代のソビエト連邦の乳児死亡率の悪化により、トッドが『最後の転落』 (1976年) でソ連崩壊を予測したように、乳児死亡率は社会の中で最も弱い個人の状況を表すものであり、人口学的に決定的な指標である。アメリカ黒人の乳児死亡率の悪化は、人種差別の解消についに失敗したことを示している。 アメリカは黒人とインディアンを差別することで白人の平等を実現した。ユダヤ人は白人に分類される。これによりイスラエルへの過剰な支持とアラブ人に対する敵意が生まれる。ユダヤ系アメリカ人の過半数は民主党支持であり、イスラエルを強硬に支持する共和党右派と異なる。したがってアメリカの親イスラエル外交はユダヤ人によるものではなく、差異主義でアラブ人に不正を働くイスラエルに自己同一化した結果であるとトッドは分析する。しかしユダヤ人は白人としては周辺的であり、アメリカの差異主義はユダヤ系アメリカ人を不安にさせ、トッドの言うホロコースト崇拝に陥らせる。トッドによれば、ユダヤ系フランス人にはこのような不安と恐怖感は見られないという。 このような差異主義は、同盟国をも不安にさせる。一方的行動によりヨーロッパの面目を潰し、NATO を成り行き任せにし、また日本を軽蔑して後進的と決めつけているとトッドは言う。真の帝国はギリシャ人やゲルマン人を吸収したローマ帝国のように開かれた存在だが、アメリカはますますアメリカ人だけが優れていると思うようになっているのである。
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