擬環の圏
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/09 05:13 UTC 版)
文献によっては、環の定義に単位元の存在を仮定せず、環準同型の定義にも単位元を保つことは(仮に単位元が存在する場合でも)課さないというものがある。そのような定義に基づけば Ring とは異なる環の圏が得られる。ここでは区別のため、そのような代数構造を擬環(あるいは必ずしも単位的でない環、非単位的環)(Rng) と呼び、それらの間の準同型を擬環準同型 (rng-準同型) と呼ぶことにすれば、すべての擬環の成す圏 Rng を考えることができる。 環の圏 Ring が Rng の充満でない部分圏となることに注意せよ。充満でないことは、擬環準同型が必ずしも単位元を保たないことにより、Ring の射とはならないことによる。包含函手 Ring → Rng は左随伴を持ち、それは任意の擬環に対して形式的に単位元を添加する函手として与えられる。これにより Ring は Rng の充満でない反映的部分圏(英語版)となる。包含函手 Ring → Rng は極限を反映するが余極限は反映しない。 零環 {0} は Rng の始対象および終対象を与える(すなわちそれは零対象である)。これにより、Rng が(Grp と同じく、そして Ring と異なり)零射を持つことが従う。実際に零射は、すべての元を 0 に写す擬環準同型として与えられる。零射が存在するにもかかわらず、やはり Rng は前加法圏にならない(二つの擬環準同型の点ごとの和は一般には擬環準同型でない)。Rng における余積(圏論的直和)は、擬環の直和と同じものではない。 アーベル群の圏 Ab から擬環の圏 Rng への忠実充満函手が、各アーベル群を、それに自明な積を入れた零擬環に対応させることで与えられる。 Rng において自由構成(英語版)を考えるのは、それを Ring において考えるよりもやや不自然である。例えば、一点集合 {x} で生成される自由擬環は x を不定元とする定数項を持たない整係数多項式の全体であり、他方 {x} の生成する自由環はちょうど整係数多項式環 Z[x] になる。
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