トポス (数学)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/11 05:10 UTC 版)
数学におけるトポス(topos)とは、位相空間上の層のなす圏を一般化した概念である。アレクサンドル・グロタンディークによるヴェイユ予想解決に向けた代数幾何学の変革の中で、数論的な図形(スキーム)の上で有意義なホモトピー・コホモロジー的量が定義できる細かい「位相」を考えるために導入された。 その後数理論理学者たちによる更なる公理化を経て、集合論のモデルを与える枠組みとしても認識されるようになった。
定義
有限極限を持つ圏 Eがカルテシアン閉であるとは、任意の対象XについてXと直積を取る関手X × -: E→Eに右随伴関手(-)X: E→Eが存在する事をいう。 例えば集合の圏Setsや有限集合の圏FinSetsはカルテシアン閉だが位相空間の圏Topはカルテシアン閉でない。
一般に圏 E の対象Aの部分対象とはコドメインがAであるモノ射の同型類の事を言う。モノ射の引き戻しがモノ射になる事から、引き戻しを持つ圏Eについて各対象XにXの部分対象を与える関手Sub(-):Eop→Setsが定義される。圏Eの部分対象分類子(subobject classifier)とは、この関手を表現する対象の事をいう。
圏 E は(初等)トポス(elementary topos)であるとは、Eがカルテシアン閉で部分対象分類子を持つ事をいう。 たとえば、Sets やFinSetsは部分対象分類子として二点集合を持つのでトポスになる。
EとF がトポスのとき、関手 f*: E → F と完全関手 f*: F → E の対 (f*, f*)で随伴関係 f* ⊣ f*をみたすものはE から F へのトポスの射(geometric morphism)とよばれる。このときf*はfの直像部分、f*はfの逆像部分とよばれる。随伴性によりトポスの射の直像部分は左完全な関手になる。
グロタンディーク・トポス
C を小さな圏とする。C の各対象 X から HomC(-, X) の部分関手の族 J(X) への対応 J で以下の公理を満たすものはC上のグロタンディーク位相といわれ、対 (C, J) は景(site)とよばれる。
- HomC(-, X) ∈ J(X)
- S ∈ J(X) のとき任意の射 f: Y → X について S の f による引き戻し f*S = { g: Z → Y | fg ∈ S(Z) } は J(Y) に入る
- S ∈ J(X)、R ⊂ HomC(-, X)で任意の (f: Y → X) ∈ S(Y) について f*R ∈ J(Y) ならば R は J(X) に入る
たとえば、C の任意の対象 X について J0(X) = { HomC(-, X) } とおけば、J0は上の条件を満たす。このJ0はC上の自明なグロタンディーク位相とよばれる。
(C, J) を景とするとき、Cから Sets への反変関手のうちで J についての「張り合わせ条件」を満たすものは (C, J) 上の層と呼ばれ、それらのなす圏 Sh(C, J) (