プラネタリウムの要素・機能
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/15 05:55 UTC 版)
「エイセ・エイシンガ・プラネタリウム」の記事における「プラネタリウムの要素・機能」の解説
エイシンガのプラネタリウムは、コペルニクスの体系に基づくもので、最大の特徴は、それ以前のものはほぼ卓上型の装置であったプラネタリウム、或いは太陽系儀を、天井を見上げる形で作ったことと、その大きさであった。 エイシンガのプラネタリウムは、エイシンガ邸の居間の、本来の天井の下に見せかけの天井を、金属製の棹で繋げて取り付け、その見せかけの天井に円形の細い刻み目を7つ付けて、それを惑星の軌道とした。惑星の軌道は、縮尺が1兆分の1、つまりプラネタリウム上の1mmが実寸の100万kmとなるように設計されている。内側から6つの刻み目は、当時既知であった太陽系の惑星、つまり水星、金星、地球、火星、木星、土星の軌道に対応している。土星軌道の外にある7番目の刻み目は、黄道と暦を示す目盛りとなっており、天球上の太陽の位置と日付がわかるようになっている。なお、プラネタリウムが完成する直前に、ウィリアム・ハーシェルが天王星を発見していたが、プラネタリウムの機械部分は天王星発見よりだいぶ前に完成しており、そこに天王星を追加する余力はエイシンガにはなかったし、エイシンガ邸の居間にも天王星軌道を収める余地はなかった。 各惑星は、短い金属製の棹で吊り下げられた小さな球体で表現され、中央に絵で描かれた太陽の周りを、ほぼ実物と同じ周期で回転している。惑星を表す球体は、太陽側の半球が装飾され、反対側の半球は黒く塗られている。地球、木星、土星には衛星も示されており、木星にはガリレオ衛星の4つ、土星には環を示す円盤とテティス、ディオネ、レア、タイタン、イアペトゥスの5つの衛星が付属している。木星と土星の衛星は、小さな球体が針金で固定されているだけだが、月は地球の周りを回る仕掛けが施されている。実際の惑星の軌道は円ではなく楕円であり、各惑星が固有の軌道傾斜角を持つ、つまり全ての惑星が一つの平面上にあるわけではないので、エイシンガは軌道の近日点と遠日点に印を付け、軌道の円周に沿って太さの変わる白い円を描き、それによって軌道傾斜角を表現した。また、太陽の絵と地球を表す球からは、端に球体が結ばれた紐が垂れ下がり、2本の紐を使って地球から各惑星がみえる方向を求めることもできる。 エイシンガのプラネタリウムには、惑星軌道模型だけでなく、天井と壁にいくつもの文字盤が設置され、年、曜日、日の出・日の入り・月の出・月の入りの時刻、月齢、月の昇交点・近点の歳差運動がわかるようになっている。 プラネタリウムを作動させるのは、見せかけの天井の「天井裏」に構築された時計仕掛けで、百枚を超える車輪・歯車、1万本に上る歯車用の鉄釘など、殆どの部品をエイシンガが自らの手で製作した。時計仕掛けの核心は、重錘の動力で駆動する振り子で、このたった一つの振り子によって、惑星の運行と暦の表示の全てを制御している。他に、歯車の回転に使われる8つの重錘が備わっている。エイシンガのプラネタリウムは、実時間でのみ駆動し、加減速はできない。そのため、各部が実際に動いていることを視認することは難しい。エイシンガのプラネタリウムは、完成から239年にわたって、やむを得ず中断した間を除いて作動し続けており、その間主要な機構は置き換えられておらず、現役で作動する世界最古の機械式プラネタリウムとなっている。 エイシンガのプラネタリウムはたいへん精巧で、18世紀の当時としてはとても正確に太陽系を再現している。プラネタリウムの主な設定と、実際の太陽系における天体の軌道要素を比較したものが、下表である。エイシンガは、息子達に遺したプラネタリウムの説明書の中で、プラネタリウムの設定とエイシンガが求めた各要素の詳細な数値との差についても記している。説明書の中では、各天体、各文字盤を調整する頻度についても記されていて、閏年の2月29日がないため4年に1度調整が必要な日付の表示が最も高頻度で、惑星の中で最も頻度が高い金星では、歯車の歯1つ分誤差が蓄積するまで7年半以上、文字盤の指針では半永久的に調整不要のものもある。また、エイシンガのプラネタリウムでは、日食・月食の発生を読み取ることができるようになっており、完成から今日まで実際に起きた日食・月食を再現できなかったことはない。 表: エイシンガのプラネタリウムと実際の太陽系のパラメータ比較天体直径公転周期エイシンガ(mm)実際の軌道長半径×2(×1012mm)エイシンガ(設定)(日)エイシンガ(計算)(日)実際の周期(日)水星139.7 115.82 88 87.96835 87.969 金星234.95 216.42 225 224.69551 224.701 地球330.2 299.20 365 365.24219 365.256 月(公転)― ― 27.3215748 ― 27.3217 月(朔望)― ― 29.53002 29.53059 29.53 火星456.2 455.84 686.93 687.192 686.980 木星1,562.1 1,557.14 4,335 4,330.373611 4,332.589 土星2,908.3 2867.06 10,760 10749.6347222 10,759.22 エイシンガには、数学・天文学の才だけでなく絵心もあり、エイシンガのプラネタリウムは意匠も凝っていて、みる者の理解をたすける。そのため、科学的に優れた装置であるだけではなく、芸術作品ともいえるものになっていて、プラネタリウムの解説書を執筆したファン・スウィンデンもそのように述べている。
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