パストラル詩(田園詩)
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「パストラル」の記事における「パストラル詩(田園詩)」の解説
パストラル文学はヘレニズム期ギリシアのテオクリトスから始まった。テオクリトスの『牧歌(エイデュリオン)』の数篇は田園地方を舞台とし(おそらくテオクリトスの住んだコス島の景色を反映しているものと思われる)、牧夫たちの間の会話も含まれている。テオクリトスはシチリアの羊飼いたちの実際の民俗伝承を集めたのかも知れない。テオクリトスはドーリア方言でこれを書いたが、使った韻律は、ギリシア詩で最も有名な形式、つまり叙事詩のダクテュロス・ヘクサメトロスだった。この素朴さと洗練さのミックスは、後のパストラル詩でも主要な要素となる。テオクリトスの詩は、ギリシアの詩人スミュルナのビオン(en:Bion of Smyrna)やモスコス(en:Moschus)に模倣された。 ローマの詩人ウェルギリウスはこの形式の詩を『牧歌』でラテン語に適用させた。ウェルギリウスはテオクリトス以上に理想化した田園生活を叙述し、後のパストラル文学が好んでその舞台としたアルカディアをはじめてその舞台とした。さらにウェルギリウスは政治的なアレゴリー(寓意)の要素をパストラル詩に含めた。ウェルギリウスの理想郷は都会の人間の視点であり、都会と田園の概念的な対立や、都会と田舎絵をめぐる往還がみられる。 パストラル詩は、14世紀前くらいからペトラルカ、ポンターノ(en:Iovianus Pontanus)、マントゥアヌス(en:Baptista Mantuanus)といったイタリアの詩人たちがラテン語で復活させ、その後、マッテーオ・マリーア・ボイアルドがイタリア語で書いた。 パストラルの流行はルネサンス期のヨーロッパ中に広まった。スペインでは、ガルシラソ・デ・ラ・ベガ(en:Garcilaso de la Vega)がその重要な先駆者で、そのモチーフは20世紀のスペイン語詩人ジャンニナ・ブラスキ(en:Giannina Braschi)が蘇らせた中に見ることができる。フランスの指導的パストラル詩人にはクレマン・マロやピエール・ド・ロンサールなどがいる。 イギリスで最初のパストラル詩はアレクサンダー・バークレー(en:Alexander Barclay)の『田園詩(Eclogues)』(1515年頃)で、それはマントゥアヌスの強い影響を受けていた。イギリスのパストラル詩の金字塔は、1579年に発表されたエドマンド・スペンサーの『羊飼いの暦(The Shepheardes Calendar)』(en:The Shepheardes Calendar)である。この作品には1年12ヶ月に相当する12のエクローグで成り立ち、方言で書かれ、エレジー、寓話、当時のイングランドの詩の役割に関する論が含まれていた。スペンサーや友人たちも偽名で登場する(スペンサー自身の偽名は「コリン・クラウト」)。スペンサーの『羊飼いの暦』は、マイケル・ドレイトン(en:Michael Drayton)の『Idea, The Shepherd's Garland』やウィリアム・ブラウン(en:William Browne)の『Britannia's Pastorals(ブリタニアの羊飼いたち)』といった模倣を生んだ。英語詩で最も有名なパストラル・エレジー(pastoral elegy)は、ジョン・ミルトンがケンブリッジ大学で学友だったエドワード・キング(en:Edward King (British poet))の死に寄せて書いた『リシダス』(1637年、en: Lycidas)である。ミルトンがこの形式を用いたのは、作家という職業を切り開くためと、ミルトンが教会の職権乱用だと思っているものを攻撃する、両方の目的からだった。英語詩のパストラル詩は、アレキサンダー・ポープの『牧歌(Pastorals)』(1709年)あたりを最後に、18世紀にいったん死滅した。『Shepherd's Week(羊飼いの1週間)』を書いたジョン・ゲイのようにパロディ化する作家が現れる一方で、ジョンソン博士はその作為性を批判し、ジョージ・クラッブ(en:George Crabbe)はそのリアリズムの欠如を攻撃して、『The Village(村)』(1783年)という自作の詩の中で田舎の生活の真実の情景を叙述しようと試みた。それにもかかわらず、パストラルは生き残った。マシュー・アーノルドが友人の詩人アーサー・ヒュー・クラフ(en:Arthur Hugh Clough)の死に送った挽歌『Thyrsis』(1867年)といった作品がそうだが、ジャンルというよりむしろ雰囲気としてだった。
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