ドーリス方言
(ドーリア方言 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/27 16:02 UTC 版)


ドーリス方言[1][2](ドリス方言[3][4]、ドーリア方言[5]とも、英: Doric)は、古代ギリシア語の方言。スパルタ人を中心とするドーリア人に使われた。ギリシア文学における合唱歌などにも使われている[1]。
「西ギリシア方言」に属し[1]、「ラコニア方言」や「コリントス方言」の総称にあたる[2]。
使用例
使用地域は広く、スパルタ(ラコニア)やコリントス含むペロポネソス半島の大部分、メガラ、アイギナ島・クレタ島・ロドス島などエーゲ海の島々、小アジア南西沿岸、南イタリアやシケリア島のドーリス系植民市で使われた[6]。ヘレニズム期にコイネーが標準語になると、ドーリス方言は地方語・田舎語の象徴になった[6]。
アルクマン[3]、ステシコロス[3][6]、イビュコス[3][6]、シモニデス[3][7]、バッキュリデス[3][7]、ピンダロス[6][7]らの合唱歌にもドーリス方言が使われている。これは、合唱歌がスパルタとその植民市で多く作られたことに由来する[3]。合唱歌のドーリス方言は、本来のドーリス方言と異なりホメロス言語などの要素を含む、人工的な詩的言語である[3]。
その他、アルキメデス[8]、テオクリトス[7][4]、エピカルモス[9]、エリンナ[10]、新ピタゴラス派の偽アルキタスや偽ティマイオス[11]、『ディッソイ・ロゴイ』[12]、『ゴルテュン法典』[13]などに使われている。
高津春繁は薩摩方言風に和訳している(アリストパネス『女の平和』に登場するスパルタ人の台詞)[14][15]。
特徴
母音の e が a になる(アテナはアタナ、セレネはセラナ)などの特徴がある[4]。地域も使用者も広範なため方言内の変異が大きい[16]。
影響
オデュッセウスがラテン語で「ウリクセス」(羅: Ulixes)と呼ばれるのは、南イタリアのドーリス方言形(古希: Οὐλίξης)が由来とされる[17]。
現代ギリシア語のツァコニア方言は、他の方言がイオニア方言の系統にあるなか、唯一ドーリス方言の系統にある[18]。
脚注
- ^ a b c 田中利光、小学館、日本大百科全書(ニッポニカ)『ギリシア語』 - コトバンク
- ^ a b ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『ドーリス方言』 - コトバンク
- ^ a b c d e f g h 丹下和彦 訳『アルクマン他 ギリシア合唱抒情詩集』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2002年。ISBN 9784876981410。492-495頁。
- ^ a b c 古澤ゆう子 訳『テオクリトス 牧歌』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2004年。ISBN 9784876981557。左1頁。
- ^ 山川出版社、山川 世界史小辞典 改訂新版『ドーリア人』 - コトバンク
- ^ a b c d e 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年。ISBN 9784876989256。848f頁。
- ^ a b c d 逸身喜一郎『ギリシャ・ラテン文学 韻文の系譜をたどる15章』研究社、2018年。 ISBN 9784327510015。152;224頁。
- ^ 松本克己「アルキメデスのドーリス方言」、『科学の名著 9 アルキメデス』月報、朝日出版社、1981年。
- ^ 『エピカルモス』 - コトバンク
- ^ 『エリンナ』 - コトバンク
- ^ ブルーノ・チェントローネ 著、斎藤憲 訳『ピュタゴラス派 その生と哲学』岩波書店、2000年。 ISBN 9784000019231。199f頁。
- ^ 中澤務「ソフィスト文書『ディッソイ・ロゴイ』研究(一)」『關西大學文學論集』第65巻、第1号、2015年 。85頁。
- ^ “世界の文字”. www.chikyukotobamura.org. NPO法人 地球ことば村・世界言語博物館. 2025年6月27日閲覧。
- ^ 高津春繁 訳『女の平和』岩波書店〈岩波文庫〉、1975年。NDLJP:12575456/43。
- ^ 水谷智洋「古典に見えるギンバイカ(承前)」『プロピレア』第24号、日本ギリシア語ギリシア文学会、2018年 。 CRID 1050585039686672128。82頁。
- ^ マルティン・チエシュコ 著、平山 晃司 訳『古典ギリシア語文典』白水社、2016年。 ISBN 9784560086964。386頁。
- ^ 高津春繁「ギリシア合唱隊歌用語の發達」『言語研究』日本言語学会、1941年、7-8号。 CRID 1390001205121459968。104頁。
- ^ 宮川創. “Was ist die Muttersprache Jesu? イエスの母語は何か?—紀元1世紀ローマ帝国のポリグロシアについて | So Miyagawa 筑波大学エジプト学・コプト学研究室(宮川研究室)”. somiyagawa.com. 2025年6月27日閲覧。
関連項目
- ドーリス方言のページへのリンク