音韻の変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/09 21:38 UTC 版)
ギリシア祖語以来、以下の音韻の変化はほぼすべての古代ギリシア語方言に見られる。 音節主音的子音 /r/, /l/ は、ミケーネ語とアイオリス方言で /ro/, /lo/ に、それ以外の方言では /ra/, /la/ に変化した。ただし、共鳴音の前では /ar/, /al/ と発音された。例) インド・ヨーロッパ祖語の *str̥-to- は、アイオリス方言では στρότος となり、他の方言では στρατός となった(どちらも「軍隊」の意)。 /h/ と /j/ が、原形の /s/(初期は例外)から脱落した。例) τρεῖς「3」は *tréyes から、ドーリス方言の nikaas「征服した」は nikasas から nikahas への変化から、それぞれ脱落して形成された。 多くの方言で、/h/, /j/ が脱落するまでには /w/ が脱落した。例) ϝέτος から ἔτος への変化(どちらも「年」の意)。 両唇軟口蓋音の多くが両唇音に変化した。一部は歯音や軟口蓋音にもなった。 /h/ と /j/ の脱落の結果(/w/ の影響は小さい)、母音の隣で融合が起きるようになった。これはアッティカ方言で最も顕著な現象である。 融合などの影響で特殊なサーカムフレックス(曲アクセント)が作られた。 上記の制約とともに、アクセントを最後の3音節のいずれかに付すという規則が誕生した。 /s/ の前で /n/ が脱落し(ただしクレタ方言では不完全)、直前の母音で代償延長が起きた。 /w/, /j/ は脱落する傾向が強かったが、完全に消失していたわけではない。初期には母音の後ろにあるとき、その母音と結合して二重母音の形をとっていた。子音の後ろでの /h/ と /w/ の脱落は、直前の母音の代償延長に伴って起こった。一方、子音の後の /j/ の脱落には、直前の母音の二重母音化、口蓋化、子音のほかの変化など、多くの複雑な変化が絡んでいた。以下はその例である。 /pj/, /bj/, /phj/ → /pt/ /lj/ → /ll/ /tj/, /thj/, /kj/, /khj/ → /s/ - 子音の直後のとき。それ以外の場合は /ss/ か /tt/(アッティカ方言)。 /gj/, /dj/ → /zd/ /mj/, /nj/, /rj/ → /j/ - このときの /j/ は子音の前で置換され、直後の母音とともに二重母音をなす。 /wj/, /sj/ → /j/ - 同時に直後の母音を二重母音化する。 母音融合の結果は方言ごとに複雑であった。多数の異なる種類の名詞や動詞の屈折語尾に起こる融合は、古代ギリシア語文法の最も難解な面を体現している。母音融合した動詞の分類、名詞から作られた動詞、母音の屈折語尾において、このような融合は非常に重要になってくる。実際、現代ギリシア語では母音融合動詞の発達形(たとえば、古代ギリシア語の母音融合動詞を受け継いだ動詞の組み合わせ)が、動詞の主要な2つの分類を象徴している。
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