松本克己
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松本 克己(松本 克巳[1]、まつもと かつみ、1929年10月25日 - 2025年4月19日[2])は、日本の言語学者、金沢大学および静岡県立大学名誉教授。
経歴
長野県生まれ。1953年に東京大学文学部言語学科を卒業、1956年3月に東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了[3]、同年4月以降、金沢大学法文学部講師、助教授を経て教授。筑波大学大学院文芸・言語研究科教授、静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授などを歴任した。
西洋古典語、印欧比較言語学、言語類型論を専門分野とし、1991年4月から1993年3月まで12代日本言語学会会長を務める。
1970年代、上代特殊仮名遣について、フェルディナン・ド・ソシュールの「内的再構」を用いた手法で「上代語5母音説」を提起し、注目を浴びた。
晩年は、日本語の起源・系統問題にも精力的に取り組み、従来とは全く違った独自説を提唱していた。
2025年、4月19日死去した[2]。95歳没。死没日付をもって正四位に叙された[1]。
著作
- 『古代日本語母音論―上代特殊仮名遣の再解釈 (ひつじ研究叢書 (言語編 第4巻))』(ひつじ書房)(1995年)
- 『世界言語への視座―歴史言語学と言語類型論』(三省堂)(2006年)
- 『世界言語のなかの日本語―日本語系統論の新たな地平』(三省堂)(2007年)
- 『世界言語の人称代名詞とその系譜 人類言語史5万年の足跡』(三省堂)(2010年)
- 『歴史言語学の方法―ギリシア語史とその周辺』(三省堂)(2014年)
翻訳書
- ロマーン・ヤーコブソン、リンダ・ウォー『言語音形論』(岩波書店)(1986年)
- バーナード・コムリー(松本克己 ・山本秀樹訳)『言語普遍性と言語類型論―統語論と形態論 第3版』(言語学翻訳叢書)(ひつじ書房)(2001年)
- グランヴィル・ブライス編(松本克己監訳)『ヨーロッパ言語事典』(東洋書林)(2003年)
脚注
出典
- 『現代日本人名録 2002』 日外アソシエーツ
学職 | ||
---|---|---|
先代 畑光夫 |
静岡県立大学大学院 国際関係学研究科研究科長 第3代:1994年 - 1998年 |
次代 小浜裕久 |
松本克己
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古代日本語6,7,8母音説は半ば定説となっていたが、1970年代に入りこれに異を唱える学説が相次いで登場する。その端緒が松本克己の「古代日本語母音組織考 -内的再建の試み-」である。内的再建とは、一つの言語の言語史を他言語との比較からのみ考えるのではなく、その言語内の共時態の研究を通じて求めていこうとするアプローチである。 松本は有坂の音節結合の法則について、「同一結合単位」という概念の曖昧さを指摘した上で甲乙2種の使い分けがある母音だけではなく全ての母音について結合の法則性を追求すべきだとして、1965年の福田良輔の研究をもとに母音を3グループに分けて検証を行なった。その結果、従来甲乙2種の使い分けがあるとされてきたオ段の母音は相補的な分布を示すなどしているために同一音素であり、表記のゆれに過ぎないとした。有坂の法則は松本の再定式化によると「同一語幹内に a と o は共存しない」ということになる。 一方、イ段とエ段の甲類と乙類については、イ段乙類は/ï/であるとしたが、エ段の甲乙の差は音韻的には母音ではなく子音の口蓋性/非口蓋性の対立であり、甲/Cje/、乙/Ce/とした(後にイ段についても甲/Cji/、乙/Ci/ とする5母音説も唱えている)。イ段乙類はごく限られた範囲でしか使われず、エ段の甲乙の対立には重要性がなかったので、9世紀になると区別されなくなった。その上で松本は先史時代からの変遷について i, a, u の3母音 i, a 〜 o, u の4母音 (aとoの母音交替によりoが生じる) i, e, ï, a, o, u の6母音 (u+iやo+iによりïが、a+iやi+aによりeが生じる) 現在の5母音 のような見通しを示した。 マーティンによると、オ段の甲乙の区別がもともと音韻的でなかったという説は Paul Sato も主張している。 松本説には実際にはかなりの例外があり、とくに単音節語ではオ段の甲乙による最小対が見られる。松本はこれらも音韻的対立ではなく、語の自立性の高さによって甲類か乙類かのいずれかが現れるなどとしているが、それでも説明できない例も存在する。
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