セーリング・クルーザー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/08 04:08 UTC 版)
「竜骨 (船)」の記事における「セーリング・クルーザー」の解説
ヨットにおける「キール」は、「竜骨」と呼ばれるような船体の応力を受け持つ部材ではなく、翼のような働きをする水面下の構造である。帆走の際に、水から抗力を得て、船の横滑りを減少させる役割がある。 セーリング・クルーザー(ヨット)では、抗力および復原力を発生させる役割を荷う。キール内に錘を入れており(例えば艇の長さ20~30フィートのものでは数百kg程度)、復原力つまり船体を水平に戻す力も生む。キールを重くすると復原力が増す。 前後に長いタイプを「ロングキール」と言う。しばしば舵と一体化している。ロングキールの船は直進性に優れるが、舵を切っても方向転換しにくい性質を持つ。 前後は短く上下に長いタイプを「フィンキール」と言う。舵とは独立している。舵を切った時の反応の良さ、旋回性能は優れるが、直進性では劣る。また上下に長いため喫水も深くなる。競技用のヨットではこのフィンキールが採用されている。 キールが二つあるタイプ、特に左右に二つ配置されたタイプを「ツインキール」と言う。2つにしたことにより、ひとつ当たりの上下の長さは短くすませることができ、喫水が短くて済む。また、干潮時やビーチングと言う浜への乗り上げをした時でも艇が水平に保たれ、左右に倒れない。 特に世界的なヨットレースなど、高度なレベルで熾烈な戦いが行われているレースにおいては、キールの形状も勝敗の一大要因となる。最近の技術としてはカンティングキールと称するもので、キールを風上側に傾けることで、より強い風に対しても傾き(ヒール)を小さく抑えることができる。 最近ではさらにキールで揚力を発生させて浮力を発揮させるとともに、風下側に水中翼(ハイドロフォイル)を設置して風下側でも浮力を発生することで、スターン以外は船全体を水上に浮かして速力を上げる機構が世界一周レースVendee Globe(ヴァンデ・グローブ)などでは上位の船は殆どがカントキールと水中翼を備えるに至っている。 またアメリカスカップのような高速レースでは双胴船の風上側と風下側にL字型の水中翼(ダガーボード)を備え、高速では船体を完全に浮上させて戦われるようになっている。一方、カンティングキールや水中翼は海上の異物に接触することで破壊されやすく、長距離レースではこれらの損傷によるリタイアする例も増えている。 さらに2021年からのアメリカスカップではAC75と呼ばれる単胴船に左右および船尾(スターン)に合計3個の水中翼を設置し、高速では完全に船体を浮上させ、また左右の可動式キールで重量をバランスさせるような機構が採用され、2017年に用いられた双胴船AC45F、AC45S、ACCよりさらに高速化され最高速度は時速80キロを超えている。ここにいたり、キールが浮上中には安定性を保つ機能を完全に失うまでに至っている。 各出場チームが様々な工夫をこらした設計を行い、一般にその形状は極秘事項で図面閲覧や写真撮影も、さらに肉眼で見ることも許可されず、上架の時にはカバーシートで隠される。そのため、極秘裏にダイバーを雇い潜らせ競合チームのキールの形状の情報を得る、などということが行われることもあったが、最近のアメリカスカップでは各チームが全く同じクラスの船体を使い戦うようになっている。
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