ストリップ式装置への変更
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/30 22:02 UTC 版)
「キネトスコープ」の記事における「ストリップ式装置への変更」の解説
1889年8月初旬、エジソンはパリ万国博覧会へ出発した。エジソンは2ヶ月間ヨーロッパに滞在したが、その間もディクソンは実験を進めていた。パリ訪問中にエジソンはエティエンヌ=ジュール・マレーと出会い、彼が発明したクロノフォトグラフィ(英語版)の存在を知った。マレーのカメラは紙のロール・フィルムが一定間隔でレンズを通過する方法により、一連の連続写真を撮影する仕組みだった。アメリカに戻ったエジソンは、11月2日に4度目の特許保護願を提出した。そこでは従来のシリンダー式ではなく、クロノフォトグラフと同じストリップ式の装置が記述された。それはパーフォレーションを付けたロール・フィルムを、歯のついた輪にかみ合わせて動かし、レンズの前で毎秒10フレームの速度で撮影するという方法で、フィルムをスクリーンに映写することも想定されていた。多くの研究者はエジソンがシリンダー式からストリップ式に転換したのはマレーの影響であるとしているが、エジソンや従業員の証言では、エジソンのパリ出発前からストリップ式のキネトグラフを開発していたとしている。ロール・フィルムは、8月27日にイーストマン社が発売したセルロイド製を使用した。この保護願はストリップ式の移行とパーフォレーションの導入により、エジソンの映画システムの基本原理を確立した。 1890年2月頃からキネトスコープは新聞や雑誌に取り上げられるようになり、2月2日のニューヨーク・ヘラルド紙には「話し手の仕草を捉える」という見出しの記事で紹介され、キネトグラフは毎秒8~20フレームの撮影が可能と伝えられている。しかし、同年にエジソンはディクソンを連れて、鉄鉱石の磁気選鉱の研究に集中していた。そのため5月から10月までは、研究所のキネトスコープ事業のアカウントに支出や就労状況が記録されておらず、キネトスコープの開発作業は中断されていたと考えられている。10月にキネトスコープの開発に戻ると、ウィリアム・ハイスが新たにディクソンの助手に就いた。当時はフレッド・オット(英語版)、その兄のジョン・オット、ユージン・ロースト(フランス語版)などの従業員も開発に参加していた。 1891年春までにディクソンとハイスは、4度目の特許保護願に基づくストリップ式によるキネトグラフを開発し、ボクシングや体操選手、パイプをくゆらす従業員などを写した短いフィルムを撮影した。このキネトグラフはモーター駆動で、カメラ内のフィルムの間欠的な動きを実現するため、各フレームをレンズの前で露光するのに十分な時間停止させ、次のフレームに素早くスプロケットで送る仕組みになっており、この技術は現代の映画用カメラでも使われている。フィルムは幅が3/4インチ(約19ミリ)で、現在のフィルムと同じ縦送りではなく、水平方向に走る横送りであり、フィルムの片端にだけパーフォレーションが開けられていた。同時にディクソンとハイスは、横送り式のフィルムを使用したのぞき穴のキネトスコープを製作した。 1891年5月20日、エジソンは妻のマイナ・エジソンを訪ねて来たアメリカ婦人クラブの会員147人を研究所に案内し、そこでプロトタイプの横送り式のキネトスコープを披露した。この時に上映されたのは、ディクソンが帽子をとって挨拶をする姿を撮影した『Dickson Greeting』という短い作品だった。ニューヨーク・サン紙は彼女たちが見た映像について、「男はお辞儀をして微笑み、手を振り、自然かつ優雅に帽子を脱いでみせた。すべての動きが完璧だった」と記述している。6月13日のハーパーズ・ウィークリー(英語版)誌と、同月20日のサイエンティフィック・アメリカン誌には、横送り式のフィルムの図版が掲載された。 1892年夏までにキネトグラフは縦送り式に改良され、マッサー曰く「我々が現代的な映画カメラと呼ぶもの」が完成した。同年10月にフォノグラム誌の「新しい産業の予感」という記事にキネトグラフが公式発表され、縦送りのフィルムの図版が掲載された。フィルムは実質的に35ミリのフォーマットであり、パーフォレーションは両端に4個ずつ付けられた。この規格は後に映画フィルムの国際標準に採用され、現代までその基本構造はほとんど変化していない。エジソンは当初のイーストマン社ではなくブレア・カメラ社のフィルムを注文し、1896年まで同社がエジソンのフィルムの供給者となった。一方、キネトスコープは1892年6月にコインを入れて動く仕組みによる試作機が作られ、1893年2月に商品化に向けた耐久性のテストが行われた。
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