サケ科魚類の伝染性膵臓壊死症ウイルス [Infectious pancreatic necrosis virus (IPNV) of salmonids]
この魚病は親魚から伝染する場合が多いが、病魚からも伝染し、鰓(えら)や口から感染して、おもに稚魚(8週齢、体重1g以下)が冒される。成長につれて潜伏期は長くなるが、稚魚では約1週間の潜伏期のあとに特徴的な症状が現れると急速に死亡する。死亡率はしばしば80%を超えることもあり、飼育魚が一斉に斃死(へいし)することもあるという。急性では目立った症状はなく、回転して池に沈み、ときどき狂ったように動いて1-2時間以内に死亡する。また、病状がやや遅い魚では体が黒くなり、眼球が飛びだして腹が膨れたり、鰓や腹部に発赤がでたり、肛門から粘液状の便をたらすこともある。肝臓や膵臓が貧血し、消化管にはミルクのような粘液がでる。膵臓の細胞が壊死(えし)して崩れ、その細胞の中にウイルスによる封入体ができる。その他、肝臓、胃腸、腎臓の各組織に壊死などがみられる場合もある。
原因ウイルスはビルナウイルス科に属し、大きさが約60nmの正二十面体で、2本鎖のRNAをもっている。15-25℃でよく増殖するが、20℃付近が最適温である。ウイルス粒子は有機溶媒では変性せず、ほとんどのウイルス株はpH4-10の範囲や冷凍(-20℃)でも安定である。また、淡水や海水中でもかなり長期間安定であるという。血清型は多くあり、それによる魚類の感受性、耐性、病原性あるいは増殖温度などがある程度違っている。
現在、有効な治療法はないので、汚染を防止するなどの予防が第一である。魚類の伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)の場合と同様にウイルスをもっている親魚の検定、飼育施設、用水や器具などの徹底的な消毒がとられている。ワクチンについては研究されているが、まだ実用化されていない。なお、このウイルスはサケ科魚類以外にヨーロッパ・ウナギのシラスからも分離されたが、分離されたウイルスはニジマスに発病し、ウナギには発病しなかったという。また、静岡県下でヨーロッパから輸入して飼育されていたヨーロッパ・ウナギや別の日本ウナギからもこのウイルスとほとんど一致するウイルスが分離された。このウイルスのウナギに対する病原性はかなり弱いという。
サケ科魚類の伝染性膵臓壊死症ウイルスと同じ種類の言葉
ウイルスに関連する言葉 | 成人T細胞白血病ウイルス ヘルペス単純ウイルス サケ科魚類の伝染性膵臓壊死症ウイルス(IPNV) 一本鎖RNAウイルス バキュロウイルス |
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