グィネヴィアの誘拐
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グィネヴィアについて言及した最初のものは(おそらく11世紀頃作られた)『クルフッフとオルウェン』 (en:Culhwch and Olwen) というウェールズの話で、グィネヴィアはアーサー王の妻として登場はするものの、それ以上のことは何も触れられていない。1136年以前に書かれたカラドック・オヴ・ランカルヴァンの『ギルダス伝』では、グィネヴィアがいかにして「夏の国 Aestiva Regio」(おそらくサマセットのことと思われる)の王メルワス (en:Maleagant) に誘拐されたか、さらに、グラストンベリー (英語: Glastonbury) でどのような囚われの生活を送ったかを描いている。この後、物語は、1年かけてアーサー王はグィネヴィアを捜し出したこと、メルワスの要塞を攻撃したこと、聖ギルダスの調停で平和的解決を迎え、夫婦が再会できたことを語っている。これが「グィネヴィアの誘拐」を描いた最初のものであり、以降、この主題は初期のアーサー王伝説で最も一般的なエピソードとなった。イタリアのモデナ大聖堂のアーキボールト(飾り迫縁)のレリーフはこの話に関係したもののようで、その制作時期はカラドックより前の時代と思われる。そこには、Artus de Bretania(ブリタニアのアルテュス)とIsdernusが、MardocがWinlogeeを閉じこめた塔に近づく絵と、Carrado(おそらくカラドス)がGalvagin(ガウェイン)と戦っている絵、GalvaginやChe(ケイ)たち騎士が近づいている絵がある。Isdernusとは『クルフッフとオルウェン』にその名前が出てくるケルトの英雄イデール(Yder)の化身で、ベルール は『トリスタン』の中で、忘れ去られそうになっていた伝説の中で、Isdernusはグィネヴィアの恋人だったと言及し、後の時代の『Roman de Yder(イデール物語)』では、その場面が再現されている。ウェールズの詩人ダヴィッズ・アプ・グィリム (en:Dafydd ap Gwilym) も、2つの詩の中で、グィネヴィアの誘拐のことをほのめかしている。さらに中世研究家ロジャー・シャーマン・ルーミス (en:Roger Sherman Loomis) は、この話は「彼女はケルト版ペルセポネーの役割を受け継いでいた」ことを表していると言っている。 ジェフリー・オヴ・モンマスの語る「グィネヴィアの誘拐」はこうである。グィネヴィアはローマ帝国の貴族の血筋を引いていて、誘拐したのは、コーンウォール公カドール (en:Cador) になっている。アーサーがグィネヴィアを 甥 のモルドレッドに預けた目的も、(架空の)ローマ帝国の皇帝代官ルキウス・ティベリウスと戦うべくヨーロッパに渡るためだった、ということになっている。以後、アーサーの留守中に、モルドレッドはグィネヴィアを誘惑し、結婚し、王を宣言。アーサーはブリテンに帰国、モルドレッドとの宿命のカムランの戦い、と続く。 クレティアン・ド・トロワが『荷車の騎士ランスロ』の中で語る、「グィネヴィアの誘拐」の首謀者はマリアガンス(Maleagant。おそらくメルワスからの派生語だと思われる)で、誘拐の場面のほとんどはカラドックの焼き直しである。しかし、グィネヴィアを救出するのはアーサーではなくランスロットに変わっている。2人の不倫を扱ったのは、この作品(詩)が最初で、クレティアン・ド・トロワがそれを創造したのは、グィネヴィアに夫以外の騎士の愛(貴婦人崇拝)を与えたかったからだと思われる。モルドレッドでは救出劇以上の出番があるのでその役は務まらなかった。イデールは完全に忘れ去られてしまった。 ドイツの『Diu Crône』での誘拐者は、グィネヴィアの兄弟のGotegrimである。正当な夫と主張するGasozeinとの結婚を拒んだことで妹を殺害しようとした。ウルリッヒ・フォン・ツァツィクホーフェン (en:Ulrich von Zatzikhoven) の『ランツェレット』 (en:Lanzelet) では、Tangled Woodの王Valerinが、学者たちがグィネヴィアは後々ブリテンの繁栄と支配を約束していると気付いたことに起因する権力闘争の結果、グィネヴィアと結婚する権利を主張し、彼女を誘拐して、自分の城に連れて行く。アーサーたちはいったんグィネヴィアを救出するが、Valerinは再びグィネヴィアを誘拐し、たくさんの蛇に取り囲まれた別の城で彼女を魔法で眠らせる。その城からグィネヴィアを救い出すことが出来るのは、凄腕の魔法使いMalducだけだった。求婚者は違えど、これらと類似の物語のすべては、「ハーデースによるペルセポネーの誘拐」以降何度も物語に現れるモチーフの1つと見られ、たとえば、(アイルランド神話の)冥界の王メディール (en:Midir) に地上から誘拐され、過去を失った、冥界の花嫁エーディン (英語: Étaín) に、グィネヴィアはよく似ている。(ちなみに、この寓意は、不倫の罪で火あぶりにされかかったグィネヴィアを救出するランスロットの場面にもあてはまる)。
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