カーシエリ対サラザール法廷戦
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「ロードアイランド州」の記事における「カーシエリ対サラザール法廷戦」の解説
ナラガンセット族は、1970年代に州政府と連邦政府への公式認定要求を強め、1983年に連邦認定を受けてインディアン部族として「復活」し、同州で唯一、アメリカ連邦政府から「インディアン部族である」と認定された。 彼らは1988年に、連邦政府から1800エーカー(7285㎢)の保留地を獲得し、続く1991年に、老齢の部族員のための住宅団地を建てるため保留地とは別に、ロードアイランド州チャールズタウンの土地31エーカー(約0.13 ㎢)を購入した。1998年にアメリカ連邦内務省は部族の要求に従い、この土地を連邦信託地とした。しかし、ロードアイランド州がこれを認めなかったため、土地の連邦信託を求める部族・連邦とこれを認めないロードアイランド州政府との争いは米国最高裁にまで持ち込まれ、ロードアイランド州知事のドナルド・L・カーシエリと内務省長官ケン・サラザールの名から、「カーシエリ対サラザール法廷戦(Carcieri v. Salazar)」と呼ばれる法廷闘争となった。 ナラガンセット族と白人入植者との関係悪化は1675年と翌年に「フィリップ王戦争」で激化し、数千人が虐殺されて壊滅した部族は、1709年にロードアイランド入植政府の正式な保護下に置かれた。1880年にロードアイランド州は、部族員を白人住民に同化させるため、部族権限の放棄を迫り、ナラガンセット族の保留地を2エーカー(8094㎡)だけ認め、残りの土地すべてを5000ドルで州政府に売り、「部族を解消する」ことに同意させた。こうしてナラガンセット族は「絶滅」した。 部族はその後すぐにこの決定に不服申し立てを始め、土地と部族の権利の回復要求運動に乗り出した。20世紀初期に、貧困にあえぐナラガンセット族はアメリカ連邦政府に対して経済面その他の援助を求めたが、連邦政府は1927年から1937年までの10年にわたってのこの部族の要請を断った。 裁判でロードアイランド州は、ナラガンセット族が連邦から再認定されて「復活」したのは1983年のことであり、1934年に連邦政府が「インディアンに土地を与える」目的で「インディアン再編成法(IRA)」を制定した際には、彼らがナラガンセット族をインディアン部族として認めず、上記のように無視していたことを指摘、むしろナラガンセットの権限の裁量権は州にあると主張。この係争の中で、1934年制定の「インディアン再編成法(IRA)」の条項にある、「この法で用いられる『インディアンである』という文言は、1934年6月1日現在、連邦の管轄権の下にある((now under Federal jurisdiction)、どのインディアンも、どのインディアンの保留地内に住む部族員の子孫も、すべて含んで、混血の者も含み、(中略)組織化されたバンド、集落をも言及するものである」という文言の中の「現在(now)」が、いつを指すのかが問題となった。この法律の、インディアンを「インディアンである」と認定する「現在」という言葉が「1934年6月1日」のことを指すならば、50年後の1983年に連邦認定を受けたナラガンセット族は連邦の言う「インディアン」に含むのか含まないのかという論争に発展したのである。 これに対し、米国連邦地方裁判所は連邦の処置を是認し、上記の文言が、1934年にインディアン部族員を「インディアンという存在」に含めるための定義ではあるが、その日付に連邦認定されたかどうかまでを部族に要求するものではないと断定。ロードアイランド州が法に対し不必要に狭義の解釈を採ったと批判した。米国控訴裁判所も地方裁判所の決定に対し、是認賛成した。一方ロードアイランド州は「州政府とインディアン部族間の、潜在的に無制限に存在する土地領有に関する民事・刑事上の管轄配分は、これで不安定な状態になった」とコメントした。 2009年2月24日、米国最高裁判所はこの裁定を逆転させた。クラレンス・トーマス最高裁判所判事は、6対3の多数の意見で「インディアン再編成法にある『現在、連邦政府の管轄下にある』(now under Federal jurisdiction)という文言は、法令の制定時点で、連邦レベルでの司法管轄権でいた部族を意味する」と主張し、「その結果、この文言は書記官の権限を、インディアン再編成法が1934年6月に制定されたときに、連邦レベルでの司法管轄権下にあった部族員に土地を領有する目的のための、土地信託に限定する」と述べた。 2009年4月1日、ワシントンDCのインディアン問題監督庁である「連邦政府天然資源委員会」は、この「カーシエリ対サラザール法廷戦」に関する、米国最高裁判所による2月24日の判決について聴聞会を開いた。最高裁判所の判定において、ナラガンセット族を支持して要約を書いたミシガン法科大学のコレット・ローテル教授は、「最高裁判所のこの解釈は、インディアン部族を『持てる者と持たざる者』の2つに分けた」とコメントした。 元・インディアン管理局(BIA)員のマイケル・アンダーソンは、「インディアン再編成法」はもともとインディアン部族が部族会議や住宅、学校や医療センターを建設するためのものだ」とし、「カーシエリ知事の意向は、土地領有権のないインディアン部族の発展をじわじわと蝕み、彼らを脅迫するものだ」と述べている。 ナラガンセット族とロードアイランド州政府との一連の係争と最高裁判所の判定は、ナラガンセット族の「インディアン・カジノ」構想を制限するどころか、全米のインディアン部族の今後の行方を決定しかねないものであり、「アメリカという国がインディアンという民族をどうするつもりなのか」という国家的問題をもはらんでいる。現在「絶滅した」としてアメリカ合衆国で存在しないことになっている多数のインディアン部族が、いつまでも部族の土地を取り戻せず、国家から無視され続けるのかもしれないのである。 2009年11月5日、「連邦政府天然資源委員会」は下院のもと再び公聴会を開き、BIAを追求した。 BIA副長官ドナルド・レイバーデュアはBIAを代表して、オバマ政権が検討している「インディアン再編成法の改正」と、「内務省長官のインディアン領土信託権限の強化案」の2つの法案を支持すると証言した。
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