インプラント科学、治療学、および学術における光機能化の意義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/07 16:12 UTC 版)
「インプラントの光機能化」の記事における「インプラント科学、治療学、および学術における光機能化の意義」の解説
インプラントが骨と結合する能力に関して、インプラント表面積に対する造られた骨の比、つまり、骨インプラント被覆率は、いくら治癒期間をまっても、通常45-65%であり、最も高い場合でも70%程度にとどまるのがこれまでの報告である[30-33]。つまり、理想的な100%被覆は得られないというのが、インプラント科学の共通の理解であり、技術的な限界でもあるとされてきた。インプラント治療の失敗はインプラント周囲の不十分な骨被覆、あるいは何らかの要因による低下した骨被覆率によることから、この問題の克服は大きな課題であった。 光機能化は、近似100%の骨被覆率、事実上、最高のレベルの骨被覆を達成したという観点から、インプラント科学において現状打破的改善をもたらしたとされる。チタンと骨の骨接触、すなわち、骨結合(オッセオインテグレーション)の概念は、約50年以上前、スウェーデンの整形外科医ブローネマルク博士によって発見されたが、光機能化は、チタンの能力を最大限引き出す手法を用いることにより、骨結合の概念を大きく発展させ、ほぼ完成させたとも理解される。 もう一つ重要な科学的意義は、チタンの生物学的老化(バイオロジカルエイジング)の解決法として光機能化の位置づけである。近年、チタンあるいはチタンインプラントの、時間経過に伴う骨結合能力の著しい低下が報告された[1][2][5][34][35]。この思わしくない現象は、インプラントの使用前に起こるものであり、チタン、あるいはインプラントの生物学老化と定義された。 この生物学的老化は、材料学的には、時間経過に伴う、外界からチタン表面への継続的な炭素の付着とチタン表面の親水性の消失などで特徴化される。また生物学的老化は時間とともに進行するため、現状では、チタンの能力を最大限引き出せていないのではないか、あるいは、個々のインプラント間で潜在的に生じる骨結合能力の差があるのではないかという考察がなされた[1][2][5][20][23][34-37]。 その解決法として発見されたのが光機能化であり、チタンを適正な条件下の光で処理することにより、炭素を分解・除去し、さらに親水性も回復させることができる。もちろん前述のように、低下した骨結合能力も最大の状態まで増加させることが可能となった。 インプラントの治療学的にかんがみると、光機能化は、新たに浮上したチタンの生物学的老化の問題を克服し、常に高い生物学的能力のインプラントを、一貫して使用することを可能にした技術と考えることができる。また、世界には非常に多くの種類の表面形状をもつインプラントが存在する。光機能化は、これまでテストされたどの形状のチタンインプラントにも応用可能であることが示されていて、ユニバーサルな技術革新としても大いに期待されている[18]。 光機能化の発見ならびに発明は、学術的にもたいへん注目されている。まずは生体材料の分類としてチタンの位置づけである。これまでチタンは生体不活性と分類されてきた。積極的に細胞を付着させたりしないという意味である。しかし、光機能化によって、細胞やたんぱく質の付着は大幅に向上し、またこの現象を裏付けるメカニズムの多くが明らかになったことから、光機能化したチタンに特化しては生体活性とすべきであるという提案がなされた[1][6][10-14]。そして、チタンの生物学老化という新たな問題と、その解決法である光機能化は、ドイツ、オーストリア、スイスの国家教育要綱に公式に掲載された[38]。インプラント表面の違い、あるいは表面改質法による生物学的効果の有意な差や優劣を公の教育要綱が取り上げることはこれまで稀であった。今回の光機能化のこのような形での掲載は、光機能化の効果の高さとそれを支持する科学的エビデンスの質と量が認められた結果かもしれない。実際、光機能化に関する論文は、米国・世界インプラント学会Academy of Osseointegrationより、最高論文賞の名誉を受け、William R. Laney賞を受賞している。その他、光機能化の発明者であるUCLAの小川隆広は、国際歯科研究学会IADR よりWilliam J. Gies 賞、米国補綴学会ACPの最高学術者(Researcher/Clinician)賞を受賞している。
※この「インプラント科学、治療学、および学術における光機能化の意義」の解説は、「インプラントの光機能化」の解説の一部です。
「インプラント科学、治療学、および学術における光機能化の意義」を含む「インプラントの光機能化」の記事については、「インプラントの光機能化」の概要を参照ください。
- インプラント科学、治療学、および学術における光機能化の意義のページへのリンク