イタリア海軍向けダイバーズウォッチ
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「オフィチーネ・パネライ」の記事における「イタリア海軍向けダイバーズウォッチ」の解説
1930年代、パネライ社は精密機器納入業者であった縁でイタリア海軍より潜水部隊用時計の製作依頼を受けた。パネライ一族が経営していた「スイス時計店」(Orologeria Svizzera )が当時代理店だった縁でロレックスから防水ケースのノウハウやムーブメントの供与を仰ぎ、特殊潜水部隊のための軍事用ダイバーズウォッチ「ラジオミール」を1936年試作し1938年製品化した。名称の由来は1910年に自社開発した、ラジウムを含む夜光塗料“ラジオミール”を使用したことによる。 この“ラジオミール”は、潜水服の上から装着できるようベルトは長く、視認性を保つためケースはφ47mmもある。また、暗所での視認性を第一に考え、上述の夜光塗料“ラジオミール”の強い発光を最大限に活かすため、文字盤のインデックスに夜光塗料を塗布するのではなく、文字盤を二重式とし、夜光塗料を塗布した下板に、黒地にアラビア数字と棒形のインデックスを型抜きした上板を重ねる、という構造となっていることが特徴である。 第二次大戦中、ラジウムを含有するラジオミールに代わり、新たにトリチウムを用いた“ルミノール”が開発され、それを搭載したモデルが納入された。この“ルミノール”の特徴は、大型のリューズガードを装備するようになり、これにリューズを押さえるレバーを取り付けることによってリューズの密閉度を上げ、当初の100m防水から大幅に上回る200m防水を達成した点である。このリューズガードとレバーは現在も続くパネライデザインの特徴となった。 ラジオミール3646に搭載されている、ロレックス製 cal.618ムーブメント パネライ製腕時計の特徴である、二重式文字盤 大型リューズガードとリューズ押さえレバー 1943年には海軍将校向けクロノグラフの開発にも着手し、“マーレ ノストゥルム(Mare Nostrum)”の名称で少数の試作品が完成したが、本格的に量産されることはなかった。なお、パネライ製腕時計のムーブメントは1940年代にアンジェラス製に変更された。 ラジオミールはアレクサンドリア港攻撃を敢行したイタリア海軍特殊潜水工作隊(人間魚雷部隊)によって使用され、夜間の海中において高い視認性を発揮し、作戦に参加し捕虜となったエミリオ・ビアンキ(イタリア語版)は戦後「この時計がなかったら、作戦そのものが遂行不可能だったであろう」と証言している。パネライ製のダイバーズウォッチは、その後イタリア軍の他エジプト軍、イスラエル軍などで制式採用された。1956年に開発されたエジプト軍向けモデルは、φ60mmという大型のケースサイズに、ケースと一体化したデザインの回転ベゼルとリューズガードを備えており、“エジツィアーノ(Egiziano)”と呼称され、後に限定モデルの一つとして民生向けにも発売された。1960年代にはイスラエル軍潜水部隊の要求に応じて、ケース左側に回転ベゼルをロックするためのガード付きネジのついたモデルが試作され、このモデルは“ドッピオ ポンテ(Doppio ponte:「(眼鏡の)ダブルブリッジ」の意)”と通称されている。 2017年現在パネライがイタリア軍向けに開発した最後のモデルは、1985年に試作品が完成したダイバーズモデルで、発注にあたりこれまでのものよりも遥かに高い防水性に加え、高度な耐磁性と従来のものに対して軽量であることが求められていた。このモデルは設計耐圧深度1,000m、ケースにチタニウムを採用、ムーブメントにはETA製のものを使用し、ケースと風防ガラスの材質が異なる複数の試作品が製作されている。最終デザインとされたモデルは、ロックレバー付きの大型のリューズガードなど全体のデザインは従来の“パネライ・スタンダード”に則っているものの、文字盤は二重式ではなく、インデックスのアラビア数字の字体もそれまでパネライの製品に使われているものとは異なっていた。このイタリア軍向け新型ダイバーズウォッチは軍の試験に合格して採用が決定したものの、量産発注がなされず、試作のみに終わっている。 マーレ ノストゥルム(Mare Nostrum) 試作モデル エジプト軍向けモデル、エジツィアーノ(Egiziano) イスラエル軍向け試作モデル、ドッピオポンテ(Doppio ponte) 1985年に製作された試作モデル なお、軍事機密の指定は解除されているものの、21世紀においてもパネライのダイバーズウォッチはイタリア軍へ納入されているが、イタリア海軍特殊部隊(COMSUBIN)隊員に実際に使用している時計を質問したところ、圧倒的にカシオのGショックであるとの返答を得たとされる。
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