イギリス空軍の夜間爆撃
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 03:39 UTC 版)
「ブラッカムの爆撃機」の記事における「イギリス空軍の夜間爆撃」の解説
イギリス空軍は戦争が始まった頃は昼間爆撃を行っていた。昼間は目標を視認しやすいので爆撃精度は高まるものの、敵に発見されやすく、また爆撃機の飛行性能もそれほど高くなかったために大きな損害を出すことがあった。そこでイギリス空軍は方針を転換し、命中精度は劣るものの敵に発見されにくい夜間爆撃に重点を置くようになる。このようなことから、イギリスは一定の地域を目標として無差別に爆撃する地域爆撃を実施した。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」のようなものである。これは敵国民間人の犠牲を全く厭わない攻撃であり、当時のイギリス国内においても倫理的な疑念がもたれていたが、ドレスデン爆撃など都市そのものを狙った無差別爆撃も行われた。ゲアリーらが行ったのもこのような地域爆撃である。一方でアメリカ陸軍航空隊は的確に敵の継戦能力を削ぐことを重視し、敵の生産施設施設を確実に破壊する爆撃精度を確保するため、危険度の高い昼間爆撃を重視した。 ドイツ空軍戦闘機隊総監アドルフ・ガーランドは自著「始まりと終わり」において、昼間爆撃と夜間爆撃にはそれぞれ一長一短があるとしたうえで、それぞれの利点を生かそうとする米英両空軍の判断が、結果的にドイツ空軍とドイツを24時間悩ませることになったと評している。 イタリアの軍人ジュリオ・ドゥーエが論じた戦略爆撃はスペイン内戦における無差別爆撃を嚆矢とし、日本軍による重慶爆撃、ドイツ軍によるロンドン爆撃など「国家の戦争遂行の能力と意図」を破壊するために「民間人の犠牲を厭わず」行われた。アメリカ軍はこの考えをさらに推し進め「市街地に混在する従業員数名の町工場こそが日本の兵器生産を支えている」という分析から「国家の戦争を遂行する能力を担保する人間そのもの」を目標とした無差別爆撃を行い、その意味で東京大空襲は「大きな成果」を挙げた。 これを突き詰めたものが核戦略におけるカウンターバリュー(英語版)で、軍事目標(可能であれば核兵器そのものや投射手段、またはプラットフォームや基地インフラ)を核攻撃の目標とするカウンターフォース(英語版)と異なり、国家の構成員である国民そのものを核攻撃で抹殺し、国家の存続を不可能ならしめるまで人口を減らすというものである。第二次世界大戦における戦略爆撃、特に民間人に犠牲を強いる無差別爆撃は、より大規模に、より多くの民間人を殺傷した連合国側が裁かれなかったこともあって人道上の問題は今日に至るも論争の的であり、アーサー・ハリス卿に対する評価も未だに賛否両論が分かれている。現在もアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国によって配備されている、あるいは北朝鮮が開発を進めているという潜水艦発射弾道弾は、命中精度の問題からカウンターフォースではなくカウンターバリューとして最初から都市部を始めとした人口密集地、すなわち民間人への核攻撃を任務としており、戦略爆撃、無差別爆撃は過去の歴史ではなく現代における現在進行形の問題でもある。
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