アイヌ語に漢字表記をあてたもの
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/06 06:57 UTC 版)
「北海道の地名・駅名」の記事における「アイヌ語に漢字表記をあてたもの」の解説
漢字の当て方には、次の2通りが見られる。 音訳 - アイヌ語の「音」を流用し、漢字を当て字(仮借)したもの 意訳 - アイヌ語の「意味」を解釈し、似た意味の日本語を割り当てたもの 音訳したもの 音訳の例としては、「ホッキ貝の多い所」を表す「ポク・オ・イ」からとった母恋や、「河口が泥で汚れている所」を表す「オ・トイネ・ㇷ゚」からとった音威子府・音稲府(枝幸町)などがある。また、アイヌの地名をそのまま日本語地名としては冗長であったりごろが悪かったりする場合には一部短縮・省略したものもある(オペレペレケㇷ゚→帯広、ピウカ→美深))。 これらは音のみに着目した「当て字」である。漢字は表意文字であるが、あてられた漢字の意味にアイヌ語原義との直接的な関連性があるとは限らない。例えば、道内に数多く見られる「内」「別」は、それぞれアイヌ語で川を意味する「ナイ」「ペッ」に当て字されたものであり、「内側」「別れる」の意味は持たない。同じように「幌」は「大きい・広い」を意味する「ポロ」の当て字で、「幌」の字の持つ意味とは関係がない。 アイヌ語地名の発音に当てられる漢字には、以下の例がある。 アイヌ語漢字意味アイ 愛 矢 イワウ 岩尾 硫黄 ウㇱ 牛、臼 存在する オイ 生、追 〜のあるところ オタ 歌 砂浜 オッ 乙 たくさんいる オマイ 舞 〜のところ カㇷ゚ 冠 皮 クマ 熊 魚干し棚 サッ 札 乾く サㇽ 猿、去 葦、湿原 シ 士、支 大きい、本来の シュマ 島 岩 シㇼ 尻、知、後 峰、島 チライ 知来 イトウ ト 当 湖 ナイ 内 小川 ヌプル 登 濁る パラ 原 広い ピ 美 小石原 ピラ 平 崖 プトゥ 太 川の合流点 ペッ 別 川 ポロ 幌 大きい ホㇿカ 幌加 後戻りする ポン 本 小さい モ 茂、望 小さい ワッカ 若、稚 質の良い水 ただ、漢字をあてる際にはできるだけ見た目をよくするような配慮がされたといわれているものもある。たとえば、道南地方今金町美利河(ぴりか)はアイヌ語地名では「美しい川」を意味する「ピㇼカ・ペッ」で、語意に即した当て字がなされている。また、千歳は、もとはアイヌ語で大きな窪地を意味する「シ・コッ」であったが、「死骨」に通じ縁起が悪いとされたことから、周辺にタンチョウヅルが飛来することにちなみ、「鶴は千年」から千歳に改名された。「シコッ」の語は、千歳川の水源である支笏湖として今も残っている。 漢字をあてることによって、漢字の一般的な読みが浸透して地名の読みが変化したものもある。札幌市にある月寒(つきさむ)は、もとは「つきさっぷ」と読んだが、今では「寒」の一般的な読みにより「つきさむ」となった。 地名アイヌ語意味赤平(あかびら) ワッカ・ピラ(wakka-pira) 飲み水のある崖 磯谷(いそや) イソ・ヤ(iso-ya) 岩礁の岸 歌志内(うたしない) オタ・ウㇱ・ナイ(ota-us-nay) 砂のある川 恵庭(えにわ) エ・エン・イワ(e-en-iwa) 頭の尖った岩山 遠軽(えんがる) インカルㇱ(inkar ush) 眺望する所 歌棄(うたすつ) オタ・スッ(ota-sut) 砂浜の端 長都(おさつ) オ・サッ・ナイ(o-sat-nay) 川尻が乾いた川 小樽(おたる) オタ・オㇽ・ナイ(ota-or-nay) 砂浜の中を流れる川 釜谷臼(かまやうす) カマ・ヤ・ウㇱ(kama-ya-us) 岩盤が岸にあるもの 札幌(さっぽろ) サッ・ポロ・ペッ(sat poro pet)サル・ポロ・ペッ(sar poro pet) 乾いた広大な川葦原の大きな川 沙流川(さるがわ)沙流(さる) サㇽ(sar) 葦原 知床(しれとこ) シレトク、シレトコ(sir etok) 地の果て 豊平(とよひら) トウィエ・ピラ(tuye-pira) 崩れた崖 苫小牧(とまこまい) ト・マㇰ・オマ・ナイ(to mak oma nay) 沼の奥にある川 美唄(びばい) ピパ・オ・イ(pipa-o-i) カワシンジュガイのあるもの 美馬牛(びばうし) ピパ・ウシ(pipa-us) カワシンジュガイがいるところ 富良野(ふらの) フラヌイ(huranuy) 臭い匂いのする所 古平(ふるびら) フレ・ピラ(hure-pira) 赤い崖 真駒内(まこまない) マㇰ・オマ・ナイ(mak oma nay) 奥にある川 幕別(まくべつ) マㇰ・ウン・ペツ(mak-un-pet) 奥にある川 鵡川(むかわ) ムカッ・ペッムツクアツ 川尻のたえず動くつるにんじんの多いところ 室蘭(むろらん) モルラン 小さな下り坂のあるところ 藻岩山(もいわやま) モ・イワ(mo-iwa) 小さな岩山 紋別、門別(もんべつ) モペッ 小さな、または静かな川 稚内(わっかない) ヤㇺ・ワッカ・ナイ(yam wakka nay) 冷水のある沢 意訳したもの 意訳の例としては、「細長い沼」を表す「タンネ・ト」からとられた長沼町、「峠の下」を表す「ルチㇱ・ポㇰ」からとられた峠下駅、「イタドリ(虎杖)の多い所」を表す「クッタㇻ・ウㇱ」からとられた虎杖浜駅(こじょうはま)などが挙げられる。これも、多くは見た目に対する配慮がなされたと言われるが、中には誤訳とされるもの(旭川市など)もあったという。 また、「砂浜の多い川」を表す「オタ・ウㇱ・ナイ」を意訳した砂川市、音訳した歌志内市のように、前記の方法で解釈した地名・駅名が両方とも存在する例も見られた。
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