とう【×沓】
くつ【靴/▽履/×沓/×鞋/×舃】
靴(履・沓・鞋)
『オズの魔法使い』(ボーム) ドロシーは、オズの国から故郷カンサスへ帰るために、魔法使い(実はペテン師の老人)の気球に乗ろうとするが、愛犬トトを捜していて乗り遅れる。魔女グリンダが「銀の靴には、世界のどこへでも3歩で運んでくれる魔力がある」と教え、ドロシーは銀の靴をはいて空中を3歩あるき、カンサスの草原に帰り着く。靴は空中で脱げ落ちて、どこかへいってしまった。
『親指小僧』(ペロー) 人食い鬼が7里の長靴をはき山や川を次々に越えて、親指小僧たち7人兄弟を追いかけるが、そのうち疲れて眠りこむ。親指小僧は人食い鬼の長靴を脱がせ、それをはいて人食い鬼の女房の所へ行き、人食い鬼の全財産をだまし取る。
『影をなくした男』(シャミッソー) 影も恋も失った青年シュレミール(*→〔影〕2a)が市場で偶然手に入れた古靴は、1歩あるけば7里を行く魔法の靴だった。彼は世界中を歩き回り、自然の中で植物学と動物学の研究に、残る生涯を費やした〔*長い髭をはやしたシュレミールは、ある時病気になり、病院でかつての恋人ミーナと再会する。しかし彼は名乗らぬまま、また旅に出る〕。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 セリポス島の王ポリュデクテスにゴルゴン退治を命ぜられたペルセウスは、ニムフたちの所を訪れ、翼のあるサンダルを得た。彼はサンダルを踵につけて空を飛び、ゴルゴン3姉妹の棲処へ行って末娘メドゥサの首を取った。
『土(ど)まんじゅう』(グリム)KHM195 悪魔が、死者の魂を取ろうと墓地へ来る。百姓と兵隊が土まんじゅうの夜番をしており、「長靴の片方いっぱいに金貨を詰めてくれるなら死体を渡そう」と言う。長靴は底が抜いてあり、しかも穴の上に置いてあったので、悪魔がいくら金貨を入れても筒抜けで、長靴は空っぽのままだった。悪魔は何度も金貨の袋を持って来るが、そのうちに夜が明け、悪魔は逃げて行った。
『水鏡』中巻 天智天皇10年(671)。9月、天皇は病み、譲位の意志を示した。12月3日、天皇は馬に乗って山科へ向かい、林の中に入って姿を消した。行方はわからず、ただ沓だけが落ちていたのを、陵(みささぎ)におさめた〔*『日本書紀』巻27天智天皇10年では、12月3日、天皇は近江宮で崩御された、と記す〕。
*天智天皇の死の伝承は、バハラーム王の死の物語を連想させる→〔死体消失〕5の『七王妃物語』(ニザーミー)第44章。
*若い娘が、木の下に草履を脱ぎ置いたまま行方知れずになる→〔神隠し〕の『遠野物語』(柳田国男)8。
『ラーマーヤナ』第2巻「アヨーディヤーの巻」 カイケーイー妃が継子ラーマを森に追放し、実子バラタを王にしようとはかる。バラタは王位につくことを拒否し、ラーマに帰国を願うが叶わなかった。バラタはラーマの履を請い受けて、それをラーマの身代わりに玉座に置いた。
『百姓女たよ』(木下順二) 封建時代は、妻から離婚を申し出ることはできず、縁切り寺に駆け込むしか方法がなかった。しかし途中でつかまったら、たいへんなことになる。追っ手が迫ったら、下駄を片方ぬいで、寺の門内へ投げ込めばよい。そうすれば寺がかくまってくれ、たとえ大名でも手出しはできない→〔縁切り〕3。
★3a.王が、靴の持ち主の女を捜して、妻とする。
『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻13-33 エジプトの美貌の遊女ロドピスが入浴中、鷲が降りて来て、彼女の靴の片方をつかんで飛び去った。鷲はメンピスまで飛び、プサンメティコス王の懐に靴を落とした。王は、「靴の持ち主である女を求めてエジプト全土を捜索せよ」と命令し、見つけ出すと妃にした。
『灰かぶり』(グリム)KHM21 真っ白な小鳥が、輝く衣裳と黄金の靴を「灰かぶり(=シンデレラ)」に与える。「灰かぶり」はお城の舞踏会へ行って、王子と踊る。日が暮れて「灰かぶり」は帰ろうとするが、王子は「灰かぶり」を逃がさないために、前もって階段にべたべたのチャン(=瀝青)を塗っておいた。左の靴がくっついて残り、王子は「この黄金の靴が合う娘を妻とする」と言う。「灰かぶり」の足が靴にぴったり合い、王子と結婚する。
*ガラスの靴が合う娘を捜す→〔ガラス〕1の『サンドリヨン』(ペロー)。
『酉陽雑俎』続集巻1-875 継母にいじめられる娘・葉限(しょうげん)は、不思議な魚の骨に祈って、宝玉や衣裳など望みのものを得る。祭日に葉限は美しく着飾って出かけるが、継母に見とがめられて慌てて帰る時、金の履を片方落とす。隣国の王がそれを手に入れ、履に合う足の娘を捜して葉限を見いだす。葉限は美貌であったので、王の上婦となる。
*靴の持ち主の女を捜すと、豚だった→〔豚〕1aの『太平広記』巻439所引『集異記』。
★3b.靴の持ち主を捜されると困るので、他人の靴と取り替える。
『笑府』巻6⑪「認鞋」 夜、人妻が隣人と通じているところへ、夫が帰って来る。隣人は窓から逃げ、夫はその鞋をつかみ取る。夫は妻を罵り、「明日、鞋の主をつきとめる」と言う。妻は、夫が眠っている間に、隣人の鞋を夫の鞋と取り替えておく。翌朝、夫は鞋を見て驚き、妻に謝る。「私は勘違いしていた。昨夜、窓から逃げたのは私だったのだ」。
『白雪姫』(グリム)KHM53 白雪姫と王子の結婚式に、継母(妃)が招かれる。継母は、毒りんごで殺したはずの白雪姫が花嫁姿でいるのを見て、驚く。その場で継母は、炭火で真っ赤に焼けた鉄靴をはかされる。継母は踊り狂い、やがて息が絶えて倒れる。
『赤いくつ』(アンデルセン) カレンのはいた赤いくつは足にくっついてぬぐことができず、しかも彼女の意志にかかわりなく踊る。くつがカレンの身体を運び、カレンは畑をこえ草原をこえて、晴れた日も雨の日も、昼も夜も踊り続けなければならない。剣を持つ天使が「おまえは死ぬまで踊り続けるのだ」と、カレンに宣告する。
『日本書紀』巻24皇極天皇3年正月 中臣鎌子(なかとみのかまこ)は、逆臣蘇我入鹿を倒すために、中大兄(なかのおほえ)に近づきたいと考える。法興寺の槻の木の下で中大兄が打毬(ちょうきゅう)を行なった時、彼の皮鞋(みくつ)が脱げ落ちた。鎌子はそれを掌中に取り持ち、跪(ひざまづ)いて奉り、中大兄も跪いて受け取った。それ以来、2人は親密になり、ともに入鹿暗殺の計画を練った。
『義経記』巻5「吉野法師判官を追ひかけ奉る事」 昔、天竺波羅奈(はらない)国の王が戦争に負けた時、沓を前後逆さに履いて逃げた。不思議な足跡を見た敵軍は、「何か計略があるのか?」と疑い、追跡をやめた。雪の吉野を逃げる源義経主従が、この故事に倣って沓を逆に履く。しかし追手は、「これは波羅奈国王の先例に従ったものだ」と見破り、追撃の手をゆるめなかった。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「逆沓(さかぐつ)」 丹後の由良の湊に「逆沓」という故事がある。つし王丸が、三荘太夫の許(もと)から脱出して京へ上る時、沓を前後逆にはいて、雪中を逃げた。そのため、雪についた足跡は奥丹後へ向かうように見え、追手は奥丹後方面を捜したので、つし王丸は無事に京へ入ることができた(『譚海』巻2)。
『椿説弓張月』後篇巻之1第16回 鎮西八郎為朝が、三宅島沖の「女護の嶋」を訪れる。磯辺には、木の皮で編んだ草履がいくつも並び、「漂流して来た男がここで草履をはくと、草履の持ち主である女がその男を夫とする」との伝説を思わせる光景だった〔*後に嶋の娘・長女(にょこ)が、「草履を磯辺に置くのは『男(を)の嶋』に住む夫たちの無事を祈るためで、日本の陰膳(かげぜん)と同じです」と、為朝に説明する〕。
*飢えて靴を食べる→〔飢え〕2aの『黄金狂時代』(チャップリン)。
靴
(沓 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/20 07:41 UTC 版)
- ^ a b c d e f g h i j k l 意匠分類定義カード(B5) 特許庁
- ^ 「店員を大声で呼ぶ」 「チップを払わない」 「公共の場で飲酒」 アメリカで絶対やらない方がいいNG行動が話題に(1/2ページ) まいどなニュース 2021.07.18 (2024年3月14日閲覧)
- ^ “雑貨工業品品質表示規程”. 消費者庁. 2013年5月23日閲覧。
- ^ “The Scottish Ten”. The Engine Shed. Centre for Digital Documentation and Visualisation LLP. 2017年10月14日閲覧。
- ^ “Lady's Shoe, Bar Hill” (2015年9月25日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ “Child's Shoe, Bar Hill” (2015年9月22日). 2018年5月24日閲覧。
- ^ Connolly, Tom. “The World's Oldest Shoes”. University of Oregon. 2012年7月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年7月22日閲覧。
- ^ a b Ravilious, Kate (2010年6月9日). “World's Oldest Leather Shoe Found—Stunningly Preserved”. National Geographic. オリジナルの2012年7月24日時点におけるアーカイブ。 2012年7月22日閲覧。
- ^ Petraglia, Michael D.; Pinhasi R; Gasparian B; Areshian G; Zardaryan D; Smith A; 他 (2010). Petraglia, Michael D.. ed. “First Direct Evidence of Chalcolithic Footwear from the Near Eastern Highlands”. PLoS ONE 5 (6): e10984. Bibcode: 2010PLoSO...510984P. doi:10.1371/journal.pone.0010984. PMC 2882957. PMID 20543959 . Reported in (among others) Belluck, Pam (2010年6月9日). “This Shoe Had Prada Beat by 5,500 Years”. The New York Times. オリジナルの2010年6月11日時点におけるアーカイブ。 2010年6月11日閲覧。
- ^ アルメニアで発見の靴は「世界最古」=研究チーム ロイター 2010年6月10日
- ^ "Old Shoe- Even Older". The Norway Post, 2 May 2007. Archived 8 March 2016 at the Wayback Machine.
- ^ Johnson, Olivia (2005年8月24日). “Bones Reveal First Shoe-Wearers”. BBC News. オリジナルの2012年6月3日時点におけるアーカイブ。 2012年7月23日閲覧。
- ^ Trinkaus, E.; Shang, H. (July 2008). “Anatomical Evidence for the Antiquity of Human Footwear: Tianyuan and Sunghir”. Journal of Archaeological Science 35 (7): 1928–1933. doi:10.1016/j.jas.2007.12.002.
- ^ Laubin, Reginald; Laubin, Gladys; Vestal, Stanley (1977). The Indian Tipi: Its History, Construction, and Use. Norman, Oklahoma: University of Oklahoma Press. ISBN 978-0-8061-2236-6. オリジナルの2018-04-27時点におけるアーカイブ。
- ^ Kendzior, Russell J. (2010). Falls Aren't Funny: America's Multi-Billion-Dollar Slip-and-Fall Crisis. Lanham, Maryland: www.govtinstpress.com/ Government Institutes. p. 117. ISBN 978-0-86587-016-1. オリジナルの2017-03-19時点におけるアーカイブ。
- ^ Kippen, Cameron (1999). The History of Footwear. Perth, Australia: Department of Podiatry, Curtin University of Technology
- ^ a b DeMello, Margo (2009). Feet and Footwear: A Cultural Encyclopedia. Santa Barbara, California: ABC-CLIO, LLC. pp. 20–24, 90, 108, 130–131, 226–230. ISBN 978-0-313-35714-5
- ^ 聖武天皇愛用の鏡など56件「正倉院展」開会式読売新聞ニュースサイト(2018年10月26日)2018年10月26日閲覧。
- ^ a b c Frazine, Richard Keith (1993). The Barefoot Hiker. Ten Speed Press. p. 98. ISBN 978-0-89815-525-9
- ^ “Unearthing the First Olympics”. NPR. (2004年7月19日). オリジナルの2010年7月28日時点におけるアーカイブ。 2010年7月1日閲覧。
- ^ Krentz, Peter (2010). The Battle of Marathon. New Haven and London: Yale University Press. pp. 112–113. ISBN 978-0-300-12085-1. オリジナルの2018-04-27時点におけるアーカイブ。
- ^ Turpin, Zachary. “Winning the Boston Marathon, With or Without Shoes”. Book of Odds. 2012年6月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年7月18日閲覧。
- ^ 'Greece and Rome at War' by Peter Connolly
- ^ Genesis 14:23, Deuteronomy 25:9, Ruth 4:7-8, Luke 15:22
- ^ 'Shoes and Pattens: Finds from Medieval Excavations in London' (Medieval Finds from Excavations in London) by Francis Grew & Margrethe de Neergaard
- ^ Blair, John (1991). English Medieval Industries: Craftsmen, Techniques, Products. London: Continuum International Publishing Group. pp. 309. ISBN 978-0-907628-87-3. オリジナルの2016-04-25時点におけるアーカイブ。
- ^ a b “Dangerous Elegance: A History of High-Heeled Shoes”. Random History. 2010年7月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年7月1日閲覧。
- ^ The Encyclopaedia of the Renaissance. Market House Books. (1988). ISBN 978-0-7134-5967-8
- ^ Yue, Charlotte (1997). Shoes: Their History in Words and Pictures. New York City: Houghton Mifflin Company. pp. 46. ISBN 978-0-395-72667-9. オリジナルの2016-05-27時点におけるアーカイブ。
- ^ a b c “History of Shoemaking in Britain—Napoleonic Wars and the Industrial Revolution”. 2014年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月31日閲覧。
- ^ Richard Phillips, Morning's Walk from London to Kew, 1817.
- ^ R. A. McKinley (1958年). “FOOTWEAR MANUFACTURE”. British History Online. 2014年2月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月31日閲覧。
- ^ Charles W. Carey (2009). American Inventors, Entrepreneurs, and Business Visionaries. Infobase Publishing. p. 27. ISBN 9780816068838
- ^ O'Sullivan, Gary B (2007). The Oak and Serpent. Lulu. p. 300. ISBN 978-0615155579 2019年1月24日閲覧。
- ^ Clark, Brian (2009年10月24日). “Biodegradable... Shoes??”. The Daily Green. オリジナルの2012年9月20日時点におけるアーカイブ。 2012年7月23日閲覧。
- ^ “What is Nike Considered?”. Nike, Inc. 2012年7月23日閲覧。
- ^ “Ground-breaking Technology Brings World's First Biodegradable Midsole to Runners”. CSR Press Release. (2007年11月15日). オリジナルの2012年7月28日時点におけるアーカイブ。 2012年7月23日閲覧。
- ^ “Global Footwear Manufacturing Industry Market Research Report”. PRWeb. (2012年6月7日). オリジナルの2013年3月13日時点におけるアーカイブ。 2012年7月24日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o エコマーク商品類型No.143 分類A.革靴 公益財団法人日本環境協会
- ^ 静電気帯電防止靴の試験方法の評価と改正(PDF)発行:独立行政法人労働安全衛生総合研究所
- ^ 今倉 章 『靴が人を不健康にする』 株式会社希望 2019年 ISBN 9784909001030
沓
沓
「沓」の例文・使い方・用例・文例
- 大都会の雑沓には田舎者が目をまわす
- ここは市中の雑沓を離れて閑静だ
- 馬に金沓を打つ
- 肩と肩と擦れ合うような雑沓だ
- 市街は雑沓している
- 雑沓せる巷
- 沓冠りという,和歌や俳諧の折句
- 沓冠りという,様々な形式をもつ遊戯的な俳諧文学の一つである雑俳
- 謡曲で,沓冠りという謡い方
- 古代建築で,沓形という屋根飾り
- 沓取りという,主人の靴をもって供をする役目
- 沓取りという,主人の靴をもって供をする役目の人
- 玄関に置く,沓脱ぎ石という石
- 矢の幹の部分としての沓巻き
- 沓巻きという,柱の下部の化粧金具
- 主人の沓を持って,供をする役目の人
- 毛皮製の乗馬用沓
- 沓の下に用いる履き物
- 下沓という履物
沓と同じ種類の言葉
- >> 「沓」を含む用語の索引
- 沓のページへのリンク