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ギリシア神話
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2012/01/29 06:05 UTC 版)
ギリシア神話(ギリシアしんわ、ギリシア語: ΜΥΘΟΛΟΓΊΑ ΕΛΛΗΝΙΚΉ)は、古代ギリシアの諸民族に伝わった神話・伝説を中核として、様々な伝承や挿話の要素が組み込まれ累積してできあがった、世界の始まりと、神々そして英雄たちの物語である。古典ギリシア市民の標準教養として、更に古代地中海世界での共通知識として、ギリシア人以外にも広く知れ渡った神話の集成を言う。
ローマ神話の体系化と発展を促進し、両者のあいだには対応関係が生み出された。またプラトーンを初めとして、古代ギリシアの哲学や思想、そしてヘレニズム時代の宗教や世界観に影響を与えた。キリスト教の台頭と共に神話の神々への信仰は希薄となり、やがて西欧文明においては、古代人の想像の産物ともされた。しかし、この神話は古代の哲学思想だけでなく、キリスト教神学の成立にも大きな影響を与えており、西欧の精神的な脊柱の一つであった。中世を通じて神話の生命は流れ続け、ルネサンス期、そして近世や近代の思想や芸術においても、この神話はインスピレーションの源泉であった[1] [2]。
目次 |
概説
口承
今日、ギリシア神話として知られる神々と英雄たちの物語は、およそ紀元前15世紀頃に遡る。その濫觴(らんしょう)においては、口承形式でうたわれ伝えられてきた。紀元前9世紀または8世紀頃に属すると考えられるホメーロスの二大叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』は、この口承形式の神話の頂点に位置する傑作である。当時のヘレネス(古代ギリシア人は、自分たちをこう呼んだ)の世界には、神話としての基本的骨格を備えた物語の原型が存在していた[3] [4] [5]。
しかし人々は、この地上世界の至る処に神々や精霊が存在し、オリュンポスの雪なす山々や天の彼方に偉大な神格が存在することは知っていたが、それらの神々や精霊がいかなる名前を持ち、いかなる存在者なのかは知らなかった。どのような神が天に、そして大地や森に存在するかを教えたのは吟遊詩人たちであり、詩人は姿の見えない神々に関する知識を人間に解き明かす存在であった。神の霊が詩人の心に宿り、不死なる神々の世界の真実を伝えてくれるのであった[6]。この故に、ホメーロスにおいては、ムーサ女神への祈りの言葉が、朗誦の最初に置かれた[7]。
口承から文字記録へ
口承でのみ伝わっていた神話を、文字の形で記録に留め、神々や英雄たちの関係や秩序を、体系的に纏めたのは、ホメーロスより少し時代をくだる紀元前8世紀の詩人ヘーシオドスである[8]。彼が歌った『テオゴニア』においても、その冒頭には、ヘリコーン山に宮敷き居ます詩神(ムーサ)への祈りが入っているが、ヘーシオドスは初めて系統的に神々の系譜と、英雄たちの物語を伝えた。このようにして、彼らの時代、すなわち紀元前9世紀から8世紀頃に、「体系的なギリシア神話」がヘレネスの世界において成立したと考えられる[9]。
無論、それは地域ごとで食い違いや差異があり、伝承の系譜ごとで様々なものが未だ渾然として混ざり合っていた状態であるが、しかし、オリュンポスを支配する神々が誰であるのか、代表的な神々の相互関係はどのようなものであるのか、また世界や人間の始源に関し、どのような物語が語られていたのか、それらは、ヘレネスにおいてほぼ共通した了解のある、或るシステムとなって確立したのである。
しかし、個々の神や英雄は具体的にどのようなことを為し、古代ヘレネスの国々にどのような事件が起こり、それはどういう神々や人々・英雄と関連して、どのように展開し、どのような結果となったのか。これらの詳細や細部の説明・描写などは、後世の詩人や物語作者などの想像力が、その詳細を明らかにし、ギリシア神話の壮麗な物語の殿堂を飾ると共に、陰翳に満ちた複雑で精妙な形姿を構成したのだと言える[10]。
ギリシア悲劇の作者たちが、ギリシア神話に奥行きを与えると共に、人間的な深みをもたらし、神話をより体系的に、かつ強固な輪郭を持つ世界として築き上げて行った。ヘレニズム期においては、アレクサンドレイア図書館の司書で詩人でもあったカルリマコス[11]が膨大な記録を編集して神話を敷衍し、また同じく同図書館の司書であったロードスのアポローニオスなどが新しい構想で神話物語を描いた。ローマ帝政期に入って後も、ギリシア神話に対する創造的創作は継続して行き、紀元1世紀の詩人オウィディウス・ナーソの『変身物語』が新しい物語を生み出しあるいは再構成し、パウサーニアースの歴史的地理的記録やアプレイウスの作品などがギリシア神話に更に詳細を加えていった。
体系的記述
ギリシア神話を体系的に記述する試みは、紀元前8世紀のヘーシオドスの『神統記』が嚆矢である。ホメーロスの叙事詩などでは、すでに聴衆にとっては既知のものとして、詳細が説明されることなく言及されている神々や、古代の逸話などを、ヘーシオドスは系統的に記述した。『テオゴニア』において神々の系譜を述べ、『仕事と日々』において人間の起源を記し、そして現在は断片でしか残っていない『女傑伝』において英雄たちの誕生を語った。
このような試みは、紀元前6世紀から5世紀頃のアルゴスのアクーシラーオスやレーロスのペレキューデースなどの記述にも存在し、現在はすでに湮滅して僅かな断片しか残っていない彼らの「系統誌」は、古代ギリシアの詩人や劇作家、あるいはローマ時代の物語作家などに大きな影響を与えた[12]。
古代におけるもっとも体系的なギリシア神話の記述は、紀元1世紀頃と考えられるアポロドーロスの筆になる『ビブリオテーケー(3巻16章+摘要7章)』である。この体系的系統本は、紀元前5世紀以前の古典ギリシアの筆者の文献等を元にギリシア神話が纏められており、オウィディウスなどに見られる、ヘレニズム化した甘美な趣もある神話とは、まったく異質で荒々しく古雅な神話系譜を記述していることが特徴である[13]。
神話の資料
文献資料と著者
古代ギリシアには文字がなかった訳ではなく、ミュケーナイ時代にすでに線文字Bが存在していたが、暗黒時代にあってこの文字の記憶は失われた。しかし紀元前8世紀頃より、フェニキア文字を元に古代ギリシア文字が展開し生まれる[14] [15]。ギリシア神話はこの文字で記録された。また後にはローマの詩人・文学者がラテン語によってギリシア神話を記述した。
- 古代ギリシア詩
- 系譜学者たち(紀元前6世紀 - 紀元前5世紀頃)
- アルゴスのアクーシラーオス [著作は湮滅]
- レーロスのペレキューデース[16] [著作は湮滅]
- 古典劇作家詩人
- 古典悲劇詩人
- アイスキュロス Αίσχύλος (紀元前525年頃 - 紀元前456年)
- 『ペルシア人』『縛られたプロメーテウス』『テーバイ攻めの七将』「オレステイアー三部作」
- ソポクレース Σοφοκλῆς (紀元前496年頃 - 紀元前406年)
- 『アイアース』『アンティゴネー』『オイディプース王』『エーレクトラー』『コローノスのオイディプース』
- エウリーピデース Εὐριπίδης (紀元前480年頃 - 紀元前406年)
- 『メーデイア』『ヒッポリュトス』『アンドロマケー』『トロイエの女』『ヘカベー』『バッコスの信女』『イオーン』『オレステース』。
- 古典喜劇詩人
- アリストパネース Ἀριστοφάνης (紀元前448年頃 - 紀元前380年)
- 『アカルナイの人々』『騎士』『蜂』『鳥』『女の平和』『蛙』『ウンモフ』
- 歴史学者
- ヘーロドトス Ἡρόδοτος (紀元前485年頃 - 紀元前420年頃) - 歴史学者 『歴史』(全9巻)
- ヘレニズム期
- カッリマコス Καλλίμαχος (紀元前310年頃 - 紀元前240年頃) - 詩人、アレクサンドレイア図書館司書、文献学者
- ロードスのアポローニオス Ἀπολλώνιος Ῥόδιος (紀元前295年?/270年頃 - 紀元前215年)
- 詩人、アレクサンドレイア図書館司書、『アルゴナウティカ』(全4巻)
- シケリアのディオドロス Διόδωρος Σικελιώτης, Diodorus Siculus (紀元前1世紀頃) - 『歴史叢書』(全40巻、うち15巻が伝存)
- ローマ帝政期
考古学的資料
ギリシア神話のありようを知るには、近代になって発達した考古学が大きな威力を発揮した。考古学では古代の遺跡が発掘され研究された。
これらの遺跡において、装飾彫刻や彫像、また神々や人物が描かれ彩色された古壺や皿などが見つかった。考古学者や神話学者は、彫刻の姿や様式、古壺や皿に描かれた豊富な絵を分析して、これらがギリシア神話で語られる物語の一つの場面や出来事、神や英雄の姿を描いたものと判断した。絵は意味を含んでおり、(学者によって解釈が分かれるとしても)ここより神話の物語を読み取ることが可能であった。
他方、発掘により判明した考古学的知見は、文献に記されていた事象が実際に存在したのか、記述が妥当であったのかを吟味する史料としても重要であった。更に、文献の存在しない時代についての知識を提供した。19世紀末にドイツのハインリッヒ・シュリーマンは、アナトリア半島西端のヒッサルリクの丘を発掘し、そこに幾層もの都市遺跡と火災で滅びたと考えられる遺構を発見してこれをトロイア遺跡と断定した。彼はまたギリシア本土でも素人考古学者として発掘を行い、ミュケーナイ文化の遺構を見いだした[17]。
20世紀に入って後、アーサー・エヴァンズはより厳密な発掘調査をトロイア遺跡に対し行った。またクレーテー島で見いだされていたクノッソスなど、文明の遺跡の発掘も行われ、ここで彼は三種類の文字(絵文字、線文字Aと線文字B)を発見した。線文字Bは間もなく、ギリシア本土のピュロスやティーリュンスでも使用されていたことが見いだされた。20世紀半ばとなって、マイケル・ヴェントリスがジョン・チャドウィックの協力のもと、この文字を解読し、記されているのがギリシア語であることを確認すると共に、内容も明らかにした。それらはホメーロスがうたったトロイア戦争の歴史的な像を復元する意味を持った[18]。また数々の英雄たちの物語のなかには、紀元前15世紀に遡るミュケーナイ文化に起源を持つものがあることも、各地の遺跡の発掘研究を通じて確認された[19] [20]。
- ^ "Introduction, Greek Mythology" Encyclopaedia Britanica CD version, 2005。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 p.5。
- ^ 『古代ギリシア文学史』pp.5-7 古代ギリシア人は、ギリシア本土に前二千年紀に南下して後、ミュケーナイを中心に紀元前16世紀頃よりミュケーナイ文化を築き始め、紀元前13世紀にはこの文化は東地中海を席巻した。しかし紀元前12世紀に、ドーリス人を代表とする別系統のギリシア人が南下を始め、アテーナイとアルカディアを残す領域を征服した。先住のギリシア人は小アジアに逃れ、そこにアイオリスとイオーニア方言の領域を造った。ドーリス人を代表とする西ギリシア民族のこの進出によりミュケーナイ文化は凋落し、ギリシアの暗黒時代が訪れる。
- ^ 『ムーサよ、語れ』p.28 他方、考古学的発掘では、トロイア遺跡丘第七a層の都市が紀元前13世紀半ばに火災で壊滅したことが確認されている。この年代は文献学の立場からのトロイア戦争の時期と一致する。『イーリアス』と『オデュッセイア』以外にも古く叙事詩が存在したことが知られており、ミュケーナイ時代の出来事の遠い反響とも言える。英雄叙事詩は暗黒時代を通じて口承で伝えられ洗練され、紀元前9世紀または8世紀のホメーロスの二大作品として世に知られることになる。
- ^ 『ムーサよ、語れ』pp.27-29 とはいえ、ミューケナイ王朝はワカナと呼ばれる帝王を頂点として、オリエント風の官僚組織を備えた一種の専制国家であったことが線文字Bの解読を通じて知られている。遠いミュケーナイ時代の事件は伝わったが、物語の枠組みとしては、暗黒時代を通じて育成されて来た新しいポリス的国家の自由に充ちた気風がホメーロスの叙事詩では表現されている。帝王アガメムノーンに反抗する若き戦士アキレウスの人間像は、ミュケーナイ時代のものではありえないのである。
- ^ 『神統記』訳注26, pp.127-128、同書・解説 pp.157-160。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』pp.19-20。
- ^ ヘーシオドスは文字を知っており、彼の作品は朗唱されただけではなく文字記録の形を最初から持っていたとする説がある。松平千秋『仕事と日』解説 pp.188-189。ただしこの説の真偽は不確かである。しかし、彼の作品はホメーロスの叙事詩とは異なり吟唱詩人が詠い伝えたものではない。そのような記録が残っていない。ヘシーオドス自身が文字化したのではなくとも、彼の詩は早期に文字化されていたと考えられる。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』 pp.22-23。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』 p.23。
- ^ 『古代ギリシア文学史』pp.222-223 カリマコス、カッリマコスとも書く。彼は貧しく生まれたが苦学し、プトレマイオス2世に認められ、アレクサンドレイア図書館の司書となった。「司書」というのがどのような役割か判然としないが、公職かそれに準じるものと考えられる。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』p.6。
- ^ アポロドーロス、まえがき、pp.5-6。
- ^ 『ムーサよ、語れ』 p.13、訳注10。
- ^ 『世界の歴史5・ギリシアとローマ』 pp.65-69。
- ^ Classical Dictionary p.1157 ペレキューデースの名を持つ神々の系譜記録者は二人いた。紀元前7世紀-6世紀の哲学者シューロスのペレキューデースと紀元前5世紀のアテーナイのペレキューデ-スである。呉茂一はレーロスのペレキューデースの名をあげている(呉茂一『ギリシア神話』p.6)。高津春繁はシューロスの哲学者を挙げている(『ギリシア文学史』p.92)。系譜学者は「レーロスとアテーナイのペレキューデース」という記述もあり、シューロスの哲学者としばしば混同されるともされる(Companion to Classical Literature p.430)。
- ^ 『世界の歴史5・ギリシアとローマ』 pp.25-28。
- ^ 『世界の歴史5・ギリシアとローマ』 pp.28-31。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 p.74。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 pp.73-74 グリマルは、このように古い起源を持ち、かつ全ギリシア中に伝承が存在する英雄伝説・物語圏として、代表的に六個を挙げている。1)アルゴナウタイ遠征譚、2)テーバイ伝説圏、3)アトレウス家伝説圏、4)ヘーラクレース伝説圏、5)テーセウス伝説圏、そして6)オデュッセウスの物語である。
- ^ アポロドーロス、まえがき、pp.8-9。
- ^ アポロドーロス、まえがき、pp.8-9。
- ^ ヘーシオドス『神統記』。
- ^ ヘーシオドス『神統記』。
- ^ 『ギリシア文学を学ぶ人のために』p.38 ヘシオドスがうたう三代の王権の推移は、紀元前二千年紀のオリエントにおいて、アッカドの『エヌマ・エリシュ』やヒッタイトの『クマルビ神話』などで語られている。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』p.19。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』p.34。
- ^ オルペウス教の教義について触れた文書としては、1)アリストパネースの『鳥』に含まれるパロディ。2)「デルヴェニ・パピュルス」。3)アテナゴラスの伝える説。4)ヒエロニュモスとヘラニコスによる宇宙誕生譚。5)『二四の叙事詩からなる聖なる言説』。6)ロードスのアポローニオス『アルゴナウティカ』所収のオルペウス説、等がある(レナル・ソレル『オルフェウス教』)。
- ^ 『オルフェウス教』pp.45-57。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』p.66。
- ^ 『ギリシアの神話-神々の時代』pp.3-9 当時のギリシア人は世界は円盤の形をした平面であり、このもっとも外側を、海流が円環をなして果てしなく流れ続けているという像を持っていた。この最果ての海流がオーケアノスである。母なるテーテュースは女性だということが分かるだけで詳細は不明である。
- ^ ヘーシオドス『神統記』。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』pp.42-43。
- ^ ヒッタイトに保存されていた「ウッリクンミの歌」においては、クマルビがアヌの性器を切断する説話があり、クロノスによるウーラノスの去勢はこの話の影響を受けている可能性がある。参照:フルリ人#宗教。
- ^ 吉田敦彦『ギリシア神話入門』pp.28-31。
- ^ アポロドーロス、巻一I, 3。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』pp.24-32。
- ^ アポロドーロス、巻一I, 6-7。
- ^ アポロドーロス、巻一II, 1。
- ^ アポロドーロス、巻一V, 1-3。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』p.48。
- ^ 『世界宗教事典』 p.317。
- ^ オリュンポスの十二の神は、典型的なギリシア人に固有の神と考えられやすいが、半数が非ヘレネス起源の神である。ゼウスの后ヘーラーは、先住民の女神であり、古代ギリシア人が先住民を征服した際、両者のあいだの融和を目的として主神ゼウスの后にヘーラーを据えたと考えられる。ゼウスの第一の娘で、最高の女神とも言えるアテーナーもまたヘレネス固有の神ではない。アポローンとアルテミスの両神は、その名前が印欧語起源ではなく、前者はオリエントの神の可能性があり、後者は先住民の神と考えられる。ヘルメースも先住民の神で、アプロディーテーはオリエント起源の女神である。ペルセポネーもその名は先住民の神のものと考えられる。(『ギリシア・ローマ神話辞典』の各神の項目参照)。
- ^ 『神統記』p.30、行190-199。
- ^ ゼウスとディオーネーの娘とするのはホメーロスである。泡より生まれたとするのはヘーシオドスで、後者を、アプロディーテー・ウーラニアー(天上のアプロディーテー、Aphrodite Ourania)、前者のゼウスの娘とする場合、アプロディーテー・パンデーモス(大衆のアプロディーテー、Aphrodite Pandemos)として区別した。本来「ウーラニアー」という場合は、「東洋の神」を示唆し、他方「パンデーモス」という場合は、「市民の神」、従ってヘレネスの神の含意があった。プラトーンですでに議論となっているが、後にルネッサンスで「天の愛」と「通俗の愛」という対立で再度議論される。(『ギリシア・ローマ神話事典』 p.25)。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』 pp.261-262。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』 p.40。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』 p.128。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』 エイレイテュイアの子だとするのは伝説の詩人オレーンで、ゼピュロスの子だとするのは、詩人アルカイオスである。エウリーピデースは『ヒッポリュトス』のなかでエロースをゼウスの子と呼んでいる。またプラトーンは寓意であるが、エロースは充足の神ポロスと貧困の女神ペニアーの子であると述べている(プラトーン『饗宴』)。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』 pp.75-76。
- ^ オルペウスはギリシア神話一般では神ではないが、オルペウス教では彼は神である。アスクレーピオスは、ホメーロスにおいては人間であったが、後に医神とされ崇拝された。
- ^ 『祝勝歌集/断片選』所収「ピューティア祝勝歌四」。
- ^ ピンダロスとほぼ同時代の悲劇作家アイスキュロスの作品である『プロメーテウス三部作』においては、ゼウスとプロメーテウスの和解が語られ、ティーターンたちは解放され、エーリュシオンで浄福の生活を営むことになっている。
- ^ Classical Dictionary p.1056。
- ^ Classical Dictionary p.1056 彼女たちは洞窟やその住まいで歌をうたったり糸を紡いだりしてときを過ごし、オリュンポスの神々や男性の精霊たちは、彼女らの魅力に引きつけられ恋をした。ニュンペーのなかには慎ましやかで処女を守ることを願う者もいたが、また好色でサテュロスなどと戯れることを好む者もいた。ニュンペーは善意ある存在であったが、時にヒュラースの例のように人間の美少年を攫うこともあった。
- ^ Classical Dictionary p.1056 ニュンペーには種類があると共に、身分に近い精霊としての「格」があり、下位のニュンペーは上位の精霊に仕えることがあった(キルケーやカリュプソーは、女神でもあり、ニュンペーたちは彼らに仕えた)。
- ^ Classical Dictionary p.1056。
- ^ Grimal Dictionary pp.313-314。
- ^ Classical Dictionary p.1056。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話事典』の各項目。
- ^ Classical Dictionary p.1320。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話事典』の各項。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』p.100。
- ^ ヘーシオドス『神統記』。
- ^ 『仕事と日々』pp.24-25 クロノスは暴君とされているが、本来、豊穣・収穫の神であり、民間信仰では後世に至っても信仰されていた。
- ^ 『オデュッセイア』。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』 p.64。
- ^ 呉茂一『ギリシア神話』 p.64 オリュンポスの女王ヘーラーはヘーロースの女性形と解釈するのが妥当で、「オリュンポスの女主人」の意味となる。
- ^ 『神話学講義』p.218。
- ^ (紀元前12世紀-9世紀)
- ^ 彼らに対する儀礼・供儀は天の神に対する犠牲を焼いた煙ではなく、地下(クトニオス)の神に対すると同様に、犠牲の血を地下に献げることでもあった。後に悲劇が発達したとき、悲劇が演じられる劇場のコロスの舞台中央には地下に向けて通じる坑が掘られていた(『ギリシア神話の世界観』 p.234)。
- ^ Classical Dictionary pp.693-694。
- ^ グリマル『ギリシア神話』p.83 グリマルによると、ディオーネー女神の息子であるエーリス王ペロプスは彼の息子への不埒な振る舞いをもって、当時彼の元に亡命していたラーイオスに呪いをかけた。ラーイオスは帰国してテーバイ王となるが、ペロプスの呪いはその子オイディプースや孫娘アンティゴネーなどの悲劇を生み出した。ペロプスはオリュンピア競技祭の創始者ともされ、英雄の条件を十分過ぎるほどに満たしている。なお別の説では、ラーイオスに呪いをかけたのは、ペロプスの息子クリューシッポスとされる。
- ^ 松村一男は、『世界神話辞典』の「英雄」の章において、英雄崇拝が顕著なのは「個人としての名誉や武勇がなお意味を持」ち、「英雄の栄光」の賛美が有意味であった「古代社会」であるとし、また英雄は「高貴で悲劇的な神話存在」であると述べている(225頁)。このような把握に従い、松村はギリシア神話の英雄について記述して、アキレウスこそ英雄であり、智将オデュッセウスは今日から見れば真の英雄であるが、ギリシア神話では、悲劇性を欠いているため英雄崇拝には向いていない旨述べている(235頁)。しかし、これらの松村の言説は、一般概念としての英雄あるいは英雄崇拝を念頭しており、古代ギリシアにおける「ヘーロース」概念や「ヘーロース崇拝」の実質内容に踏み込んだ話ではない。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』p.71 エリクトニオスの名は、erion(羊毛)+khton(大地)の合成のようにも思えるので通俗語源解釈とも考えられる。
- ^ グリマル『ギリシア神話』p.74。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』p.235。
- ^ アポロドーロス、巻一VII, 2。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』pp.142-143 参照:トゥーキューディデース、巻一3章2節。
- ^ アポロドーロス、巻一VII, 3。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』pp.146, 148。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』。
- ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』。
- ^ アポロドーロス、巻一,1-2。
- ^ 『オルフェウス教』p.43。
- ^ 『古代ギリシア文学史』pp.23-25。
- ^ 『神話学講義』 pp.11-14。
- ^ 『世界宗教事典』 pp.253-254。
- ^ 『宗教学入門』 pp.145-147。
- ^ 『ギリシア人は神話を信じたか』。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』 p.13。
- ^ この規準は、現代の科学が設定している規準とは明らかに異なっている。真偽把握のパラダイムが異なるのである。しかしホメーロスもヘーシオドスも、共に彼らのうたう作品に作為的な造話あるいは様式的な虚構が入っていることは自覚していた。
- ^ グリマル『ギリシア神話』pp.6-9。
- ^ ヘーシオドスは、ヘリコーン山のムーサイたちより、「真実らしきもの」ではなく「真実」を開示されたと作品のなかで宣言している(『神統記』pp.11-12。訳注26, pp.127-128)。
- ^ 『神話学講義』 pp.13-14。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』pp.230-235。
- ^ 『ギリシア文明史』下巻 pp.145-146 紀元前4世紀末の人口調査では、アッティカの自由市民は2万1千人であるのに対し、奴隷は40万人いたとされる。
- ^ 『世界の歴史5・ギリシアとローマ』 pp.175-176 ヘーシオドスは労働を称賛したが、この時代、プラトーンやアリストテレースも含め、労働の蔑視が市民の常識となった。自由市民はポリス共同体の一員として祖国の危機にあっては兵士として戦ったが、奴隷の増大は、ポリス市民の道徳・倫理を著しく低下させた。
- ^ 『ギリシア神話の世界観』 pp.286-289。
- ^ 『ギリシア文明史』下巻 p.98。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 pp.115-116。
- ^ 『ギリシア文明史』下巻 pp.112-117。
- ^ 『ギリシア文明史』下巻 pp.118-159。
- ^ 『ムーサよ、語れ』 pp19-20。
- ^ アリストテレース『形而上学』巻A。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 p.5
- ^ 『古代ギリシア文学史』 pp.206-211。
- ^ 『古代ギリシア文学史』 p.207 アテーナイにはしかし、アカデーメイア、リュケイオン、そしてエピクーロスの園とゼーノーンによるストア派は残った。
- ^ 『古典ギリシア』 p.228, p.234。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 pp.18-19。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 p.19。
- ^ 『ギリシア神話と英雄伝説』下巻 pp.290-295。
- ^ 『世界神話事典』p.37。
- ^ 『神話学講義』pp.26-28、pp.123-135。
- ^ ユング、ケレーニイ『神話学入門』
- ^ 『神話学講義』
- ^ 『世界神話事典』pp.37-42。
- ^ 『古典ギリシア』 pp.234-235。
- ^ 『古典ギリシア』 pp.238-239。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 p.20。
- ^ グリマル『ギリシア神話』 p.20、訳注(2)によれば、ツェツェースらは膨大な注釈を記し考証を行ったが、それらは不正確で無意味なものであった。ただ、膨大な注釈や文学史の記録に彼らが引用した古代の著作の断片は貴重な史料である。時代が十世紀ほど戻るが、ヒュギーヌスの『ギリシア神話集』の訳者は、アポロドーロス以上に支離滅裂で場当たり的な話の集成について疑問を呈している。
- ^ 『十二世紀ルネサンス』。
- ^ 『ムーサよ、語れ』 pp.322-326。
- ^ 中央公論社版『世界の歴史16.ルネサンスと地中海』 pp.44-45。
- ^ 『世界の歴史16・ルネサンスと地中海』 p.199。
- ^ 『ルネッサンスの光と闇』 pp.215-216。
- ^ 『ルネッサンスの光と闇』 pp.249-252。
- ^ 「天のアプロディーテー、Aphrodite Ourania」と「大衆のアプロディーテー、Aphrodite Pandemos」の対比はすでにプラトーンの頃から議論されていたが、本来、「オリエント対ヘレネス」の対比であったものが、キリスト教文化と混じり合い、「聖愛と俗愛」のような対比にも発展する余地があった。それは古代ギリシアに起源するというより、西欧ルネサンスの持つ「光と影」に寧ろ対応する。
- ^ 『ムーサよ、語れ』 pp.326-327。
- ^ 『ムーサよ、語れ』 pp.326-328。
- ^ 『ムーサよ、語れ』 pp.328-329。
- ^ アポロドーロス、まえがき p.6。
ギリシア神話に関連した本
- マンガギリシア神話 (3) (中公文庫) 里中 満智子 中央公論新社
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