通達 法的位置付け

通達

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/24 05:38 UTC 版)

法的位置付け

通達の法的位置付けは、発翰者や宛先などによりいくつかに分かれる。

行政機関内部の通達

国が下部機関へ発する通達は、内閣府であれば内閣府設置法第7条第6項、それ以外の省庁であれば国家行政組織法第14条第2項に規定する省庁の長が所管機関・職員に対して発する訓令通達に当たる。地方公共団体が下部機関へ発する通達も同様に地方自治法第154条に規定する職員への指揮監督権限に基づくものである。(通達自体の発翰者が局長や課長であっても、行政機関の長から委任された職権を基づくものである。)

下級官庁への通達

国から地方公共団体への通達は、1999年以前は地方分権化一括法による改正前の地方自治法第150条に基づく機関委任事務に関する指揮命令に当たるものであった。2000年4月1日より施行された地方分権一括法により機関委任事務が廃止されたことで、地方公共団体に対する指揮監督権の行使としての通達という概念はなくなった。また一連の地方分権改革においては、国と地方公共団体の関係を上下・主従の関係から対等・協力の関係に転換することが目的とされ、通達という名称についてもこの趣旨に則り廃止された。

これに伴い、それまで指揮監督権に基づき拘束力のあるものとして発出されていた通達のうち、法定受託事務に係る処理基準として、引き続き拘束力を有する必要があるものは、地方自治法第245条の9に基づく処理基準であることを明示して存続することとし、かつその内容も目的を達成するために必要最小限のものでなければならないとされている。また従来から技術的な助言又は勧告[24]として出されていた通達については、法的拘束力のない参考文書として位置付けられるが、時代にそぐわないものも多い。その内容の整理が行われ名称も通知等と改められた。

ただし、これ以後も国の通知は無条件に遵守されるべきとの認識に変化はなく、時にトラブルを生じることがあった。例えば2018年に起こった「ふるさと納税高額返礼品騒動」は通達をめぐる珍騒動である。これは、技術的助言として発出された平成30年4月1日総務大臣通知「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」に対して一部の地方公共団体が従わなかったため、下級官庁の反逆に激怒した総務省が様々な恫喝や懲罰を行った末に、自治事務である住民税の寄付金控除について総務省の許可制に制度改正されたものである。

また、これとは別に個別法により国や都道府県が下級官庁に指導権限が付与されていることがある。例えば市区町村の消防署が行う危険物の規制に関する事務は自治事務であり、国は技術的助言を行うのみであるが、消防組織法第37条に消防庁長官の指導権限が付与されているため、必要があれば危険物の規制を含めた消防業務に関して指導することができる。

民間団体への通達

行政機関から民間団体に直接通達が行われることもある[25]。これは、特に認可法人は行政機関との強い支配関係にあることから、示達形式の通達と同様の体裁が用いられるものであるが、法的には行政手続法第2条第6号の行政指導に該当するものである。

法的効力のない通達

上記のほか、明確な法的根拠がなく発出される通達も多くある[26]。これらはしばしば「依頼」「周知」という形式で発出されたりもするが、実際には行政機関同士の「以心伝心」「阿吽の呼吸」により、通達の趣旨通りに遂行されることが求められるものである。

このような通達行政は、円滑な行政運営に寄与する場合もあるが、責任の所在が分からない(上級官庁は「周知しただけで指示したわけでない。」、下級官庁は「上の意向があったため従った。」)極めて日本的な意思決定プロセスを生むこととなっている。


注釈

  1. ^ 法律の解釈を指定する通達について、裁判所はこれに拘束されず、またこれを取消すことを請求する訴えは許されないとした判例として、最高裁判所第三小法廷判決昭和43年12月24日民集22巻13号3254頁(判例情報。2014年8月27日閲覧)がある。
  2. ^ 最高裁判所第一小法廷判決平成16年1月15日民集58巻1号226頁(判例情報。2014年8月27日閲覧)ほか判例多数。なお、同判決は、外国人に対する国民健康保険の適用について「在留資格を有しない外国人が国民健康保険の適用対象となることは予定されていない」とされた旧厚生省が出した通知(通達に相当するものであった)に関する違法性が争われた案件についてのものであるが、処分当時に不法滞在の外国人については国民健康保険の対象外とした判断を示した地裁レベルの判決が1件あっただけであり、本件各通知と異なる見解に立つ裁判例はなかったというのであるから通知をだした国の担当者に過失があったということはできないとして国家賠償を否定している。
  3. ^ 最高裁判所第一小法廷判決平成19年11月1日民集61巻8号2733頁(判例情報。2014年8月27日閲覧)。この判決では、原爆二法の適用について被爆者が外国に出国することにより健康管理手当等について失権するとした402号通達について、被爆者についていったん具体的な法律上の権利として発生した健康管理手当等の受給権について失権の取扱いをするという重大な結果を伴う定めを内容とするものであり、これに従った取扱いを継続するに当たっては、その内容が原爆三法の規定の内容と整合する適法なものといえるか否かについて、相当程度に慎重な検討を行うべき職務上の注意義務が存したものというべきであるとしたうえで、「同法が適用されるための要件として被爆者が日本国内に居住関係を有することが要求されているものと解することはできず、したがって、日本国内に不法入国した在韓被爆者についても同法の適用がある」とするとした第一審判決が出され、通達を改めるに際し、他の社会保障関係立法では居住地が国外に変更になることにより失権する場合にはその旨の明示の規定が通常であるところ原爆二法にはそのような規定がないことなどに照らして、なおその取扱を継続する通達を発出し、継続することは違法であり、過失が認められるとして国家賠償を認めた。
  4. ^ 一片の通達によって実質的に新たな課税を行うことは租税法律主義に反しないかが争われたものとして、最高裁判所第二小法廷判決昭和33年3月28日民集12巻4号624頁(判例情報。2014年8月27日閲覧)、いわゆる「パチンコ球遊器課税事件」がある。これは、旧物品税法(昭和15年法律第40号、昭和16年法律第88号により改正)第1条第1項は課税対象物品の一つとして「遊戯具」を掲げていたものの、パチンコ球遊器についての明記はなく、1950年(昭和25年)までは一部の例外を除きこれに物品税が課されていなかったところ、1951年(昭和26年)に国税局長官等が管下の下級税務官庁に「パチンコは遊戯具であるから物品税を賦課せよ」との趣旨の通達を発するに至り、爾後この通達に基づいて物品税が課税されることになり、原告がその処分の無効等を求めていたものである。これについての判決として最高裁は「論旨は、通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであつても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであつて、採用し得ない。」とし、上告を棄却した。
  5. ^ 法人税法基本通達の前文では「この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。」と記され、運用上の注意喚起がなされている(法人税基本通達の制定について”. 国税庁 (1969年5月1日). 2014年8月27日閲覧。)。

出典

  1. ^ 法律解釈指定通達取消請求(昭和43年12月24日最判)
  2. ^ 田中二郎ほか「座談会 官庁通達・行政通達の本質について」税経通信第11巻9号
  3. ^ 例えば、昭和32年7月15日建設事務次官・国家消防本部長・警察庁次長連名通達「道路の上空に設ける通路の取扱等について」は、「発住第37号」「国消発第860号」「乙備発第14号」の3つの文書番号を持っている。
  4. ^ 例えば、昭和48年2月26日設計者計画局不動産管理業室長通達「土地又は建物の取引における契約申込証拠金について」
  5. ^ 例えば、昭和36年3月23日総務課長通達「人事発令の伝達要領に関する通達」の発翰者は「陸上幕僚長代理の命により総務課長」となっている。
  6. ^ 例えば、平成19年6月15日人事課長通知「法務省における幹部公務員の略歴の公表について(依命通知)」は、「本省局部課長・本省所管各庁の長」に宛てられている。
  7. ^ 例えば平成29年9月21日内閣府事務次官通知「公文書管理法に基づく行政文書の取扱いについて(通知)」は、他省庁の「各行政機関事務次官等」に宛てられている。
  8. ^ 例えば、平成12年8月28日最高裁判所事務総長通達「証拠等関係カードの様式等について」は簡易裁判所を宛先とせず、地方裁判所から簡易裁判所に通達するよう命じているが、これは最高裁判所の威信を損ねないためである。
  9. ^ 例えば、平成29年4月1日総務大臣通知「地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)の一部改正について」は、内容に直接関係のないはずの都道府県知事宛てに通知した上で、「貴都道府県内市区町村に対してもこの旨周知されるよう」と命じている。
  10. ^ 例えば、平成15年7月10日国土交通省総合政策局長通達「不動産流通の円滑化について」は、関係業界団体の長に宛てて「貴団体加盟業者に対する周知徹底及び指導」「消費者の理解」を命じており、個別事業者や国民への周知・指導責任を業界団体に丸投げしている。
  11. ^ 『行政法Ⅰ 行政法総論〔第6版〕』(有斐閣、2015年)
  12. ^ 北野弘久『税法学原論 第六版』(青林書院、2009年)
  13. ^ 清永敬次『税法〔第七判〕』(ミネルヴァ書房、2007年)
  14. ^  山本守之『租税法要論』(税務経理協会、1998年)
  15. ^ 品川芳宣『租税法律主義と税務通達』(ぎょうせい、2003年)
  16. ^ 昭和45年7月1日国税庁長官通達「所得税基本通達の制定について」は最も有名な通達であり、特に行政学においては通達の研究=所得税基本通達の研究と言っても過言でない。そのため「基本通達」は通達全体の分類概念としてしばしば用いられるが、実際は税務分野以外ではほとんど用いられていない。
  17. ^ 例えば、昭和37年1月29日通商産業省企業局長通達「割賦販売法の施行について」、平成13年1月6日国土交通省総合政策局不動産業課長通知「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方
  18. ^ 平成20年8月14日厚生労働省健康局生活衛生課長通知「公益法人制度改革に伴う「墓地経営・管理の指針」の解釈等について(通知)」
  19. ^ 平成24年8月31日厚生労働省医政局医事課長通知「医師法第20条ただし書の適切な運用について」
  20. ^ 平成30年3月30日国土交通事務次官通達「平成30年度国土交通省所管事業の執行について」
  21. ^ 平成20年5月9日内閣府男女共同参画局推進課長通知「配偶者からの暴力被害者の取扱い等に関する証明書の発行について」
  22. ^ 昭和58年7月29日文部事務次官通達「学校法人の管理運営の適正確保について」
  23. ^ 平成18年8月1日厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知「地域生活支援事業等の実施について」
  24. ^ 「技術的な助言又は勧告」とは、客観的に妥当性のある行為又は措置を実施するように促したり、又はそれを実施するために必要な事項を示したりすること[1][リンク切れ]。技術的とは、恣意的な判断又は意思を含まないという意味である。
  25. ^ 例えば、平成14年10月1日文部科学事務次官通知「私立大学における入学者選抜の公正確保等について(通知)」は、各大学と学校法人に直接通知されている。
  26. ^ 例えば昭和27年4月4日内閣官房長官通知「公用文改善の趣旨徹底について(依命通知)」は、内閣府の各省庁に対する序列優位に基づき示達したものであるし、平成28年6月29日厚生労働省医政局長通知「病院における吹付けアスベスト(石綿)等使用実態調査に係るフォローアップ調査及びアスベスト(石綿)含有保温材等使用実態調査の実施について(依頼)」は、国の調査への法的協力義務のない地方公共団体に対して任意協力を求めたものである。
  27. ^ 公用文改善の趣旨徹底について”. 文化庁. 2019年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月10日閲覧。
  28. ^ 底質の暫定除去基準について”. 環境省. 2019年3月10日閲覧。
  29. ^ 「懸垂物安全指針」について”. 国土交通省. 2019年3月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月10日閲覧。





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