終身刑 終身刑の概要

終身刑

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 15:48 UTC 版)

刑期が終身にわたる自由刑であり、仮釈放がない限り原則として終身服役する刑種である[3]。これは刑期を定めない、あるいは刑期の上限を定めないという絶対的不定期刑を意味するわけではなく、刑期の終わりが無い、つまり刑期が一生涯にわたるものを意味する[4][5][6]

ただし、仮釈放制度との関係で無期刑と終身刑の関係について区別する整理と同一とする整理が見られる。前者は無期刑と終身刑を区別して仮釈放があるものを無期刑とし仮釈放がないものを終身刑とする整理であり、後者は無期刑と終身刑は概念的には同一でこれらと仮釈放制度との組み合わせが多様に存在するという整理がある[3]。国際的文脈では無期刑と終身刑は概念的には同一でこれらと仮釈放制度との組み合わせが多様に存在するという整理のほうが混乱を生じにくいとされている[3]。例えば英語では「Life(一生涯の) imprisonment(拘禁)」との語が充てられているが[7]、英語のlife imprisonmentやドイツ語のlebenslange Freiheitsstrafeには仮釈放の制度が伴う場合とそうでない場合の双方が含まれているためである[3]。Life imprisonmentは訳語としては「無期懲役」「無期刑」「無期拘禁」「無期自由刑」などと訳されている[8][9][10][11][12][13]

行刑理論

分類

終身刑(無期刑)には仮釈放のない絶対的終身刑(絶対的無期刑)と仮釈放のある相対的終身刑(相対的無期刑)がある[3]

各国の刑法典や仮釈放法典を見れば、「仮釈放の資格が認められる最低の期間」は日本より長い場合が多いものの、多くの国において、すべての無期刑(終身刑)の受刑者には仮釈放の可能性が認められており[注 1]、たとえば、大韓民国刑法72条1項[14]は10年、ドイツ刑法57条a[15]、オーストリア刑法46条5項[16]は15年、フランス刑法132-23条[17]は18年[注 2]、ルーマニア刑法55条1項[18]は20年、ポーランド刑法78条3項[19]、ロシア刑法79条5項[20]、カナダ刑法745条1項[21][注 3]、台湾刑法77条[22]は25年、イタリア刑法176条[23]は26年の経過によってそれぞれ仮釈放の可能性を認めている。一方で、アメリカイギリス、オランダ、中国などにおいては絶対的終身刑(絶対的無期刑)が存在している[注 4]。これら諸外国の状況について、法務省は国会答弁や比較法資料において、「諸外国を見ると、仮釈放のない無期刑を採用している国は比較的少数にとどまっている」とかねてからしばし説明してきたが[24]、この事実は現在でもあまり周知されていない状況にある。

絶対的終身刑(絶対的無期刑)を採用している国でも減刑や恩赦等の余地を残している場合が多い[3]。また児童の権利に関する条約により、犯行時に18歳未満であった場合は絶対的終身刑(絶対的無期刑)は禁止となっている。

欧米における終身刑

アメリカ

アメリカに23ある死刑廃止州では絶対的終身刑(Life Imprisonment Without Parole)が最高刑となっている[3]

イリノイ州
イリノイ州では2011年1月に死刑廃止法案が議会で可決され絶対的終身刑が最高刑となった[3]
テキサス州
テキサス州では2005年に死刑を存置しつつ絶対的終身刑が導入された[3]

イギリス

イギリスでは1969年の死刑廃止により終身刑が最高刑となった[3]

イギリスの終身刑には特定の罪(謀殺罪)に対して必要的に言い渡される必要的終身刑(Mandatory Life Sentence)と裁判所の裁量によって言い渡される裁量的終身刑(Discretionary Life Sentence)がある[3]

イギリスでは終身刑に終身服役命令(Whole Life Order)が付されなかった場合、最低服役期間(Minimum Term=Tariff)が設定される[3]。最低服役期間経過後は仮釈放委員会(Parole Board)が仮釈放について判断する[3]


注釈

  1. ^ ただし、これはあくまで「可能性」であり、制度上将来的な仮釈放が前提として保証されているわけではない。
  2. ^ ただし、場合によっては22年まで延長することができる。また、15歳未満の児童を殺害し、その前後または最中に強姦などの行為を行った者にはこれを最大30年まで延長でき、また仮釈放を認めない旨の決定もできるという特例がある。ただし、後者の場合でも30年を経過した時点で裁判所組織の頂点に位置する破棄院に医学の専門家による鑑定を申請し、この決定を取消すことができる。
  3. ^ ただし第1級殺人および再度の第2級殺人の場合である。第2級殺人の場合は、仮釈放申請の資格を得る期間を裁判所が10年から25年の範囲内において決定するものとされている。
  4. ^ たとえば、中国刑法81条は、無期刑の仮釈放条件期間を10年としているが、1997年の刑法改正により、「暴力犯罪および累犯により無期懲役または10年以上の有期懲役に処せられた者に関しては、仮釈放を許すことはできない」とする規定が設けられているし(不得假釋无期徒刑)、オランダにおいては有期刑の受刑者にしか仮釈放の可能性を認めていない。米国においては、多数の州において、仮釈放のない無期刑(Life imprisonment without parole)が存在し、また、英国においても、量刑ガイドライン附則21章により、「極めて重大な謀殺であると認められる事案について、生涯仮釈放資格を得ることができない旨の言渡しをすることができる」と規定されている。
  5. ^ 前述の坂本の記事によれば、国家が負担する受刑者一人当たりの年間予算は50万円であり、高齢化すれば嵩んでくる受刑者の医療費も、また死後の埋葬料も全額国家負担の必要が生じるなどに関して、具体的な議論が必要であるとしている。また、元検察官河上和雄毎日新聞の論説において「(死刑廃止に伴う)絶対的終身刑は、脱獄の為(ため)に人を殺しても死刑にならないから、刑務官を殺す可能性もある」と主張している。
  6. ^ そこでは「仮釈放を許す処分は、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない」と規定されている。更生保護法の施行以前は「仮釈放、仮出場及び仮退院並びに保護観察等に関する規則」32条が同様の規定を置いていたが、そこではこの4つを「総合的に判断」するものとされていた。
  7. ^ そうした誤認と実際の運用状況との乖離が高まったため、法務省は、2008年12月以降、無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について詳細な情報を公開するようになった。
  8. ^ それを認めない場合、仮釈放制度をともに廃止するか、無期刑受刑者を仮釈放できるまでの期間を30年に引き上げるかの選択となる。ここで後者を選択する場合、無期刑と30年の有期刑で仮釈放を許可できる最短期間に20年の差異が生じ、仮にこの差異を解消しようとすると、「3分の1」という有期刑の仮釈放の条件を引き上げることが考えられるが、その場合短期の刑を含む有期刑全体の整合性を考慮する必要が生じ、議論はもはや無期刑だけの問題にとどまらなくなり、刑事拘禁政策全体の議論となる
  9. ^ なお、有期刑の上限を引き上げる際の法制部会等の議論の経緯においては、20年という有期刑の上限が国民感情に照らして不適切であるという趣旨表明に加え、無期刑と20年の有期刑との間に仮釈放が可能となる期間に連続性が欠けているため、それを解消するためにも30年まで有期刑の上限を延長し、連続性を持たせるべきであるとの趣旨表明がなされている。

出典

  1. ^ 法務省>法務省の概要>各組織の説明>内部部局>保護局>「無期刑受刑者の仮釈放に係る勉強会>「無期刑受刑者の仮釈放に係る勉強会」の報告書」の報告書について
  2. ^ 大辞泉「終身刑
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 第59回人権擁護大会シンポジウム第3分科会死刑廃止と拘禁刑の改革を考える 基調報告書 p.174-175 日本弁護士連合会(2016年10月6日)
  4. ^ 無期刑及び仮釈放制度の概要について
  5. ^ 「条解刑法」弘文堂(第2版、2007年12月)p.27。ISBN 978-4-335-35409-0。清原博「裁判員 選ばれる前にこの1冊」自由国民社(初版、2008年12月4日)p.153。ISBN 978-4-426-10583-9。司法協会「刑法概説」(第7版)p.155。
  6. ^ 大辞泉「無期懲役
  7. ^ 平成21年3月改訂版法令用語日英標準対訳辞書」p.282
  8. ^ 法務省刑事局「法律用語対訳集-英語編」p.179
  9. ^ ベルンド・ゲッツェ「和独法律用語辞典」成文堂(2007年10月)p.379。ISBN 978-4-7923-9166-9
  10. ^ 直野敦「ルーマニア語分類単語集」大学書林 (1986年08月) p.144
  11. ^ 山口俊夫編「フランス法辞典」東京大学出版会(2002年3月)p.715。ISBN 978-4-13-031172-4
  12. ^ 法務省刑事局外国法令研究会「法律用語対訳集-フランス語編」p.190
  13. ^ 稲子恒夫「政治法律ロシア語辞典」ナウカ出版(1992年2月20日)p.302。ISBN 9784888460279
  14. ^ 大韓民国刑法典」(韓国語)
  15. ^ ドイツ刑法典」(ドイツ語)
  16. ^ オーストリア刑法典」(ドイツ語)
  17. ^ 法務大臣官房司法法制調査部 「フランス新刑法典」法曹会(1995年)
  18. ^ ルーマニア刑法典」(英語)
  19. ^ A・Jシュヴァルツ著/西原春夫監訳「ポーランドの刑法とスポーツ法」成文堂(2000年5月)。ISBN 978-4-7923-1525-2
  20. ^ ロシア刑法典」(英語)
  21. ^ カナダ刑法典」(フランス語)
  22. ^ 台湾刑法典」(台湾語)
  23. ^ イタリア刑法典」(イタリア語)
  24. ^ たとえば、第165回国会法務委員会第3号第154回国会 参議院 法務委員会 第9号 平成14年4月11日、2008年6月5日付朝日新聞「あしたを考える」掲載の法務省資料。
  25. ^ 朝日新聞2008年6月5日掲載の保岡興治法務大臣の発言。他にも、たとえば、朝日新聞2008年6月8日の『耕論』の中で元刑務官で作家の坂本敏夫が「(仮釈放のない終身刑の受刑者は)仮釈放の希望もなく死を待つだけの存在であり、彼らの処遇は死刑囚並に難しく、刑務官の増員がなければ対応は困難」と主張し、精神面からも対応困難な受刑者を増やすだけとしている。
  26. ^ 法務省保護局の資料による。
  27. ^ 法務省 (October 1973). 昭和48年版犯罪白書 第二編 犯罪者の処遇 第3章 仮釈放及び更生保護 第1節 仮釈放 2 仮出獄 II-85表 無期刑仮出獄者の在監期間(昭和45年~47年) (JPG) (Report). 2020年4月12日閲覧
  28. ^ 令和3年版犯罪白書矯正統計年報および法務省保護局の資料による。
  29. ^ 日本弁護士連合会 (2018年5月). “裁判員の皆さまへ 知ってほしい刑罰のこと” (PDF). pp. 6-7. 2020年4月18日閲覧。
  30. ^ 1985年5月31日付中日新聞社会面による。
  31. ^ 前掲法務省資料による。
  32. ^ “NHKが追った『日本一長く服役した男』61年ものあいだ刑務所にいた囚人の最期” (日本語). 日刊サイゾー. (2020年10月14日). https://www.cyzo.com/2020/10/post_255314_entry.html 2021年1月11日閲覧。 
  33. ^ “日本一長く服役した男” (日本語). NHK. https://www.nhk-ondemand.jp/program/P202100245000000/ 2021年12月25日閲覧。 
  34. ^ 山中理司 (2020年3月22日). “マル特無期事件”. 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)のブログ. 2020年5月14日閲覧。
  35. ^ 殺人で終身刑の受刑者を2週間釈放、「子をもうけるため」 AFP(2018年1月26日)2018年1月26日閲覧


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