日本の中高一貫校
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/11 08:07 UTC 版)
従来から存在するのは、中学校から無試験あるいはそれに近い形で併設・連携の高等学校に進学できるエスカレーター式のシステムを取り、学校運営が一体化され、もしくは連携をして6年間一貫の教育が行われている中学校および高等学校である。
また、1998年(平成10年)6月の学校教育法改正により中等教育学校が新設され、これは中学校課程に相当する前期中等教育と、高等学校課程に相当する後期中等教育を一貫して行う学校である。
概説
従来から同一の学校法人が設立する私立中学校および高等学校において、中学校と高等学校のスムーズな連携を志向して中高一貫化は行われてきた。中等教育の多様化を図った1998年の学校教育法改正で制度化されて以降、公立の中高一貫校も徐々に作られてきている。
また、一部では小中高一貫校を作ろうという動きもある(早稲田大学系属早稲田実業学校初等部・中等部・高等部、玉川学園小学部・中学部・高等部、雙葉小学校・雙葉中学校・高等学校、開智小学校・中学校・高等学校 (埼玉県)、奈良学園小学校・奈良学園登美ヶ丘中学校・高等学校、ぐんま国際アカデミー初等部・中等部・高等部、江戸川学園取手小学校・中学校・高等学校(2014年4月に茨城県取手市に江戸川学園取手中学校・高等学校に併置される形で、取手市立野々井中学校の跡地に江戸川学園取手小学校が開校)、洛南高等学校・附属中学校・附属小学校(2014年4月に洛南高等学校・附属中学校に併設される形で、京都府向日市に洛南高等学校附属小学校が開校)、日本大学藤沢小学校・中学校・高等学校(2015年4月1日に神奈川県藤沢市に日本大学藤沢中学校・高等学校に併設される形で日本大学藤沢小学校が開校)など)。なお、田園調布雙葉学園小学校・中学校・高等学校(田園調布雙葉中学校・高等学校へ入学は、田園調布雙葉幼稚園に入園、あるいは田園調布雙葉小学校に入学した者に限られる)のような完全小中高一貫校も存在する[1]ほかに、聖心女子学院初等科・中等科・高等科(聖心女子学院中等科・高等科への入学も、2014年度以後は聖心女子学院初等科に入学し、または聖心女子学院初等科の第5学年に転入学もしくは編入学した者に限られる)も完全小中高一貫校になった[2]。
歴史的な観点から見ると、旧制中学校(5年制)が、新制高校に移行する過程で併設された新制中学と連続して教育を行う、旧学制の名残りということもできる[注釈 1]。国立や私立の旧制中学校・高等女学校の多くはこの形で新制中学校と新制高等学校に移行した。一方、公立は多くは都道府県立である新制高等学校に移行し、別に市町村立の新制中学校が新設された。
本来、中等教育学校の場合は途中で外部に出ることを想定しなくてもよい(中学校卒業資格は得られ、他の高等学校に進学することは可能であるが、実際にごく少数である。)が、中学校は卒業時点で内部進学以外の進路も取れるような対応がなされていることが望ましい。
中高一貫校には、高校からも外部からの生徒募集を行う学校と、行わずに併設中学校の卒業生のみをそのまま入学させる、完全中高一貫校がある[注釈 2]。近年の傾向としては完全中高一貫校への移行が多い。完全中高一貫校は実質的には中等教育学校と形態はほぼ変わらないが、完全中高一貫校が中等教育学校へと移行する動きは見られない。その理由は、高等学校からの生徒募集を行わず、完全中高一貫教育を行う私立の中高一貫校が少なくないことが考えられる。私立の完全中高一貫校の場合、わざわざ中等教育学校に改める必要はないからである[3]。
法制面での分類
1998年の学校教育法改正に伴い、中高一貫教育が制度化された。中高一貫校は法制上、以下に分類することができる[4]。
中等教育学校
中等教育6年間を一体のものとして教育を施す学校。その中で、中学校に相当する3年間を前期課程、高等学校に相当する3年間を後期課程と呼ぶ。前期課程を修了した者には中学校を卒業した者と同じ資格が与えられ、すなわち義務教育を修了した者として扱われる。なお前期課程を修了したあと、他の高等学校や高等専門学校など(以下総称して「他校」)を受験する道は閉ざされていない[注釈 3]。一方で、併設型・連携型中高一貫教育校とは異なり、後期課程開始時点で大規模に生徒の編入を募集することは通常ない。
6年間一貫教育が可能であるため、前期課程・後期課程間で学習指導要領に指定されている内容の一部入れ替えや先取り等が教育課程の特例として認められており、これに基づき教育内容の整理・精選が可能となる。
設置例
- 東京大学教育学部附属中等教育学校(国立、2000年-)
- 宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校(公立、1994年-)
- 桐蔭学園中等教育学校(私立、2001年-)
併設型中高一貫教育校
同一の設置者が中学校と高等学校を併設し、接続して中高一貫教育を行うもの。中学校の卒業者は無試験で接続の高等学校に進学することができる(いわゆる「内部進学」)[注釈 4]。これに加えて、外部からの高等学校入学希望者に対して入学試験を行うことも可能である。
基本的に、併設されている中学校の生徒はそのまま接続高校に進学するが、他校を受験する道は閉ざされていない[注釈 5]。
中等教育学校と同様に、教育課程の特例が認められている。
統計では、国立・私立の従来からの中高一貫校はこの分類に当てはめられていない。
設置例
- 名古屋大学教育学部附属中学校・高等学校(国立、1947年-)
- 岡山市立岡山後楽館中学校・高等学校(公立、1999年-)
- 長野市立長野中学校・高等学校(公立、2017年-)
- 横浜共立学園中学校・高等学校(私立、1871年-)
完全型中高一貫教育校
中学募集のみで高校募集を行わず、6年間完全中高一貫教育を行う学校。
高校募集を行わないのみで、実質的には中学校と高等学校は併設扱いである。
設置例
連携型中高一貫教育校
そもそも学校として一体となっている中等教育学校、設置者が同一である併設型中高一貫教育校とは異なり、異なる設置者間での設置が可能である。一つの高等学校に複数の中学校、あるいは複数の高等学校に一つの中学校が対応していることもある。
連携中学校から連携高等学校への選抜は、調査書および入学試験によらない簡便な方法で実施することが可能である。また、連携していない中学校からも一般の入試で受験することができる。連携中学校から他の高等学校や高等専門学校などへの進学も可能である。
中学校の教師が高等学校で授業を受け持ったり、高等学校の教師が中学校の授業に参加し、中学校の教育内容の理解を深めたりする。また、中学校と高等学校が合同で部活動を行ったり、芸術鑑賞会を合同で鑑賞したりして生徒同士が交流を深めている。
ただし、他の高等学校などに進学する者や連携中学校以外から入学してくる生徒がいるため、中等教育学校・併設型中高一貫教育校に比べ大幅なカリキュラムの変更ができないという欠点がある。
主に、地域と結びつきの強い高等学校とその地域の中学校が連携して取り組む。
設置例
- 横浜国立大学教育学部附属横浜中学校→神奈川県立光陵高等学校
- 松阪市立飯南中学校・松阪市立飯高西中学校・松阪市立飯高東中学校→三重県立飯南高等学校
- (学校法人緑丘学園)水戸英宏中学校→(学校法人田中学園)水戸啓明高等学校・水戸葵陵高等学校
中高一貫教育制度に基づかない中高一貫校
1998年以降に制度として導入された中等教育学校および併設型・連携型中高一貫教育校は、届出等の手続が必要になる代わりに教育課程の特例が認められている。一方、教育課程の特例は認められないものの、私立や国立の中学校・高等学校を中心に、それ以前から実質的な学校運営の一体化および中高一貫教育を独自に行っている学校は多い[5][6]。実際には先取り学習などのカリキュラムが実施されていることがほとんどである。
設置例
- 筑波大学附属駒場中学校・高等学校(国立)
- 開成中学校・高等学校(私立)
- 灘中学校・高等学校(私立)
- ^ 現在の中高一貫校と修業年限が近い教育機関として旧制7年制高等学校も挙げられるが、7年制高校は旧制中学校の課程を4年制の尋常科で修めた後に3年制の高等科に学ぶ場所であり、中等・高等教育を一貫して行う点が、中等教育のみを前期・後期まとめて行う現在の中高一貫校と異なっている。学制改革に際して、7年制高校の高等科は新制大学に、尋常科は新制中高に移行したが、旧制武蔵高等学校の場合は全課程が新制武蔵中学校・高等学校・武蔵大学に改組されている。
- ^ 例として、桜蔭中学校・高等学校、女子学院中学校・高等学校、麻布中学校・高等学校、武蔵中学校・高等学校、駒場東邦中学校・高等学校、海城中学校・高等学校、鷗友学園女子中学校・高等学校、吉祥女子中学校・高等学校、浅野中学校・高等学校、栄光学園中学校・高等学校、聖光学院中学校・高等学校などがこの形を採る。
- ^ ただし他校を受験した場合、在籍元の中等教育学校の後期課程への進級権利を失う場合がある。また、成績等によっては後期課程への進級が認められず、他校を受験せざるをえない場合もある。
- ^ 学校教育法施行規則第106条により、「併設型高等学校においては、当該高等学校に係る併設型中学校の生徒については入学者の選抜は行わないものとする」と規定されている。
- ^ ただし他校を受験した場合、在籍中学校からの内部進学権利を失い、接続高校に対しても一般入試を受験せざるをえない場合がある。また、成績等によっては内部進学が認められず、他校を含めた一般入試を受験せざるをえない場合もある。
- ^ (中島直忠(1986), p. 223)によると、スペインの大学予科(日本の高等学校第3学年に相当)の履修内容は日本の新制大学の一般教養課程に相当するほか、(ドイツの教育, p. 123) によれば、ドイツのギムナジウム上級段階は、日本の高等学校段階であると同時に大学の教養課程に相当する。
- ^ 田園調布雙葉中学高等学校-よくある質問による。
- ^ 聖心女子学院初等科・中等科・高等科のHPによる。2012年11月4日閲覧。
- ^ 学研編集部編『中学受験実践ブックス 中学受験はじめの一歩から』(学習研究社、2002年10月初版発行)の「第3章 学校選び編」のうち「中等教育学校ってナニ」(pp.90-91) による。
- ^ 文部科学省. “中高一貫教育の概要”. 2013年12月28日閲覧。
- ^ 文部科学省. “中高一貫教育Q&A:趣旨・目的に関すること”. 2013年12月28日閲覧。Q3, Q4
- ^ 文部科学省. “中高一貫教育Q&A:種類・制度・入学に関すること”. 2013年12月28日閲覧。Q6
- ^ 文部科学省編『諸外国の初等中等教育』(2002年3月発行)の「ドイツ」(丹生久美子執筆)の「2 教育内容・方法」の「(5) 授業形態・組織」のうち「ギムナジウム」に基づく。
- ^ 昭和23年文部省告示第47号(学校教育法施行規則第150条第4号に規定する大学入学資格に関し高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者)(抜粋)(1948年5月31日告示)の第1号、第2号および第3号による。
- ^ おおたとしまさ著『中学受験という選択』(日本経済新聞出版社、2012年11月8日発行)の「第3章 中高一貫校の「ゆとり教育」」の「6年間思春期教育を分断してはならない」(pp.67-71) による。
- ^ 東海中学校・高等学校など
- ^ 月刊高校教育編集部編『中高一貫教育推進の手引き』(学事出版、2000年7月21日発行)の「4 中高一貫教育校の事例等」の「名古屋大学附属中学校・高等学校」(丸山豊執筆、pp.91-100)による。
- ^ 岡崎勝博, 加藤裕司, 八宮孝夫, 寺田恵一, 根本節子, 小澤富士男, 更科元子「<プロジェクト研究>中高6年間における「心の成長課程」の分析」『筑波大学附属駒場論集』第41巻、筑波大学附属駒場中・高等学校研究部、2002年3月、125-130頁、ISSN 13470817、NAID 120000838068。
- ^ Aera dot. (2023年8月3日). “中学受験の「長すぎる問題文」で誤読多発 「傍線部分にジャンプして読む」に専門家が警鐘”. news.yahoo.co.jp. 朝日新聞. 2023年8月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年8月7日閲覧。
- ^ a b 藤田 1997, p. 80.
- ^ 藤田 1997, pp. 80–81.
- ^ 藤田 1997, pp. 82–83.
- ^ a b c 藤田 1997, p. 83.
- ^ a b 藤田 1997, p. 84.
- ^ 藤田 1997, p. 88.
- ^ a b 藤田 1997, p. 86.
- 1 日本の中高一貫校とは
- 2 日本の中高一貫校の概要
- 3 高等学校入学者の扱いにおける分類
- 4 教育区分
- 5 問題点
- 6 脚注
- 日本の中高一貫校のページへのリンク