人工酵素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2013/02/27 03:00 UTC 版)
人工酵素(じんこうこうそ)とは、生化学、有機化学、超分子化学で取り扱われるトピックのひとつ。例えば、酵素の機能(分子認識、選択性、触媒作用など)を持つ人工化合物や、天然にある酵素や生体分子に人工的な改変を加えて新しい性能(新たな反応性や選択性、固相表面や人工膜中への導入)を持たせたものを「人工酵素」と表す。
例
- 分子認識能と選択性を持つホスト分子と触媒作用を持つ触媒部位を結合させ、酵素的な反応を行わせるもの。ホスト分子としてはシクロデキストリンやカプセル型分子などの人工物である場合や、ペプチドやDNAや抗体など天然由来の化合物が利用される。触媒部位としては酸・塩基部位、酸化還元活性部位、遷移金属触媒部位など。
- 合成樹脂や無機材料へ、反応させたい基質に合った大きさの空孔を空けたもの。あるいは多孔性の材料を利用したもの。もとの材料がそれ自身で反応触媒能を有する場合はそのまま酵素的な反応が試される。そうでない場合は何らかの化学的な処理で反応触媒部位を持たせる方法がとられる。
- 天然に存在する酵素やアポ酵素をもとに、活性部位の配列を変えたり共有結合で新しい官能性部位を持たせたり人工的な補酵素様化合物を導入したりして、もとの酵素が持っていた性能と比べて新しい選択性や反応性を持たせたもの。
- 人工、あるいは天然由来の触媒分子を人工膜やミセル球、天然膜などの自己組織化構造へ導入し、高次系として酵素的な反応性を実現したもの。
人工酵素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/17 09:15 UTC 版)
分子構造が分子認識と遷移状態の形成に関与していることが判明して以来、酵素の構造を変化させることで人工的な酵素(人工酵素)を作り出す試みがなされている。そのアプローチ方法としては 酵素タンパク質の設計を変える方法 超分子化合物を設計する方法 が挙げられる。 前者は1980年代ごろから試みられており、アミノ酸配列を変異させて酵素の特性がどのように変化するのか、試行錯誤的に研究がなされた。異種の生物間でゲノムを比較できるようになり、異なる生物に由来する同一酵素について共通性の高い部分とそうでない部分とが明確になったため、それを踏まえて配列を変化させるのである(いわゆるバイオテクノロジー技術の一環)。1990年代以降にはコンピュータの大幅な速度向上とデータの大容量化が進行し、実際のタンパク質を測定することなく、コンピュータシミュレーションによって一次配列からタンパク質の立体構造を設計し、物性を予測することができつつある。また、2000年代に入るとゲノムの完全解読がさまざまな生物種で完了し、遺伝子情報から分子生物学上の問題を解決しようとする試み(バイオインフォマティクス技術)がなされている。そして現在、バイオインフォマティクス情報からタンパク質機能を解明するプロテオミックス技術へと応用が展開されつつある。2008年には、計算科学的な手法によって設計された、実際にケンプ脱離の触媒として機能する酵素が報告されている。 後者の超分子化合物を設計する方法については、1980年代ごろから、分子認識を行う超分子化合物(すなわち基質特異性をモデル化した化合物)の研究が開始された。当初は基質構造の細部までは認識できなかったため、分子の嵩高さを識別することから始められた。ただし早い時期から、ほかの分子と静電相互作用で結合する包摂化合物(シクロデキストリンやクラウンエーテルなど)は知られていた。そこで最初の人工酵素として、リング状の構造を持つシクロデキストリンに活性中心を模倣した側鎖構造を修飾することによって、中心空洞にはまり込む化合物に対してだけ反応する化学物質が設計された。今日では分子を認識すると蛍光を発するような超分子化合物も設計されている。 また、活性中心で生じている遷移状態を作り出す方法論は反応場理論として体系付けられている。反応場理論の1つの応用が、2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治やバリー・シャープレスらの不斉触媒として成果を挙げている。
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