LM曲線とは? わかりやすく解説

IS-LM分析

(LM曲線 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/17 04:18 UTC 版)

IS-LM分析

IS–LM分析(アイエスエルエムぶんせき)または IS–LMモデル (IS–LM model) とは、国民所得利子率を用いて市場と貨幣市場の同時均衡を分析することである。また、短期における価格硬直性を仮定している。ハンセン=ヒックスモデルとも呼ばれる。

縦軸に利子、横軸に国民所得をとり、財市場の均衡条件を表す IS 曲線と貨幣市場の均衡条件を表す LM 曲線を描くと、IS 曲線と LM 曲線の交点として財・貨幣同時均衡状態における国民所得と利子率が求められる。

IS 曲線の通らない点では財市場は不均衡状態にあり、IS 曲線の左側(下)の領域は財の超過需要、右側(上)の領域は財の超過供給状態にあること示す。

LM 曲線の通らない点では貨幣市場は不均衡状態にあり、LM 曲線の左側(上)の領域は貨幣の超過供給、右側(下)の領域は貨幣の超過需要状態にあることを示す。

IS–LM とは、I:投資 (Investment)、S:貯蓄 (Saving)、L:流動性選好 (Liquidity Preference)、M:貨幣供給 (Money Supply) のことで、IS と LM はそれぞれ財市場と貨幣市場が均衡しているときに釣り合うもの同士を示している。

歴史

IS–LM 分析は、1936年9月にオックスフォード大学で開かれた計量経済学会にその萌芽を見ることができる。ロイ・ハロッドジョン・ヒックスジェイムズ・ミードらはジョン・メイナード・ケインズ『一般理論』数理モデルとしてまとめることを試み、論文を執筆していた。ハロッドの草稿を見たヒックスは IS–LM モデルを考えつき、1937年にそのアイデアを論文 Mr. Keynes and the Classics: A Suggested Interpretation [1] として発表した。なお当初は "LM" ではなく "LL" の略語が用いられていた。

ヒックスは後に IS–LM モデルがケインズ理論の重要な点を見逃していることを認め、IS–LM モデルや一般の均衡理論に対して、適用範囲の非常に限られた "classroom gadget" であると批判した[注 1][2]。 第一の問題は、ケインズはその枠組みを超えることを試みているにもかかわらず、実物部門と金融部門を完全に分離して扱っていることであり、 加えて、流動性選好は不確実性の存在があってはじめて意味を成すにもかかわらず、均衡モデルは不確実性を無視していることも問題とした[注 2][2]。 現代のマクロ経済学者の多くは IS–LM モデルを現実の経済を理解するための最低限の近似でしかないと考えている。

IS–LM モデルが不完全なモデルであることは広く認められていることだが、教育的な道具として、マクロ経済学者がより詳細な方法で解決を試みるような問題に対し、その理解を促す目的で使われている。 実際、ニュー・ケインジアンリアルビジネスサイクル理論が台頭した結果、IS–LM モデルは多くの学部生向けのマクロ経済学の教科書では紹介されているが、ほとんどの大学院生向けの教科書では省かれている[3]

IS 曲線の導出

ケインズの交差図。

IS 曲線は投資関数 I (r) に対する現実支出 Y と計画支出 E の均衡条件によって決まる。均衡条件は、縦軸を総需要、横軸を国民所得にとったグラフ上での 2 つの支出曲線 Y, E の交点として視覚化される (ケインジアンの交差図)[4]IS 曲線の導出は以下の通り[4]

ケインズの仮定では、短期生産(所得)の水準は家計企業政府の支出計画により決まるとされている。このとき計画支出 E

IS曲線

IS 曲線(アイエスきょくせん、IS curve)は、財市場[注 3] の均衡を達成する国民所得 Y と利子率 r の組み合わせが描く曲線である。財市場の均衡とは、財市場における有効需要と供給が一致することを指す。

有効需要は以下の形で与えられる。

LM曲線

LM曲線(エルエムきょくせん、LM curve)とは、貨幣市場の均衡を達成する国民所得 Y と利子率 r の組み合わせを表した曲線である。貨幣市場は貨幣の供給[注 4] と貨幣の需要で成立している。

マネーサプライ預金)は中央銀行が管理している貨幣(マネタリーベース)の供給量ではなく、銀行の信用創造(貸出行動)の活発度に依存して決定される。

一方で貨幣の需要は、財を購入する時に使うための取引需要 (transactions demand) や、債券保有による損失を防ぐために債券よりも貨幣として保有しようとする投機的需要Speculative demand, または資産需要)で構成される。

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    出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/27 02:26 UTC 版)

    IS-LM分析」の記事における「LM 曲線」の解説

    LM曲線(エルエムきょくせんLM curve)とは、貨幣市場均衡達成する国民所得 Y と利子率 r の組み合わせ表した曲線である。貨幣市場貨幣供給貨幣需要成立している。 貨幣供給量中央銀行管理している貨幣マネタリーベース)の大きさだけでなく、銀行信用創造貸出行動)の活発度にも依存して決定される一方で貨幣需要は、モノを買う時に使うための取引需要 (transactions demand) や、債券保有による損失を防ぐために債券よりも貨幣として保有しようとする投機的需要Speculative demand, または資産需要)で構成されるL = L 1 + L 2 {\displaystyle L=L_{1}+L_{2}} :貨幣需要量 = 取引需要 + 投機的需要 取引需要 L1 は国民所得 Y の増加関数であり、 L 1 = L 1 ( Y ) , {\displaystyle L_{1}=L_{1}(Y),} a ≤ b   ⇒   L 1 ( a ) ≤ L 1 ( b ) , {\displaystyle a\leq b~\Rightarrow ~L_{1}(a)\leq L_{1}(b),} 投機的需要 L2利子率 r の減少関数である。 L 2 = L 2 ( r ) , {\displaystyle L_{2}=L_{2}(r),} a ≤ b   ⇒   L 2 ( a )L 2 ( b ) . {\displaystyle a\leq b~\Rightarrow ~L_{2}(a)\geq L_{2}(b).} 従って貨幣需要 L は国民所得 Y と利子率 r の関数である。 L = L ( Y , r ) {\displaystyle L=L(Y,r)} 貨幣市場均衡条件M s = L ( Y , r ) {\displaystyle M^{\mathrm {s} }=L(Y,r)} :実質貨幣供給量 = 貨幣需要量 なので、貨幣需要具体的に取引需要投機的需要表せばM s = L 1 ( Y ) + L 2 ( r ) {\displaystyle M^{\mathrm {s} }=L_{1}(Y)+L_{2}(r)} となる。 国民所得 Y が増えると、取引需要による貨幣需要 L1(Y) が高まる。このとき貨幣供給量 M s 一定の下で貨幣需給一致貨幣市場均衡)させるためには、投機的需要による貨幣需要 L2(r)減少させることが必要となる。これは債券価格下落し利子率 r が上昇することによって達成される貨幣供給量需要国民所得および利子率変化量変数名前に Δ を付して表せば、 Δ M s = 0 {\displaystyle \Delta M^{\mathrm {s} }=0} :貨幣供給量一定 Δ M s = Δ L 1 ( Y ) + Δ L 2 ( r ) {\displaystyle \Delta M^{\mathrm {s} }=\Delta L_{1}(Y)+\Delta L_{2}(r)} :貨幣受給均衡条件 より次の関係が得られる。 Δ L 2 ( r ) = − Δ L 1 ( Y ) . {\displaystyle \Delta L_{2}(r)=-\Delta L_{1}(Y).} 需要関数単調性から、国民所得増加したとき (ΔY > 0)、取引需要増加し、 Δ L 1 ( Y ) = L 1 ( Y + Δ Y ) − L 1 ( Y ) > 0 for     Δ Y > 0 , {\displaystyle \Delta L_{1}(Y)=L_{1}(Y+\Delta Y)-L_{1}(Y)>0\quad {\mbox{for}}~~\Delta Y>0,} 利子率増加したとき (Δr > 0)、投機的需要減少する。 Δ L 2 ( r ) = L 2 ( r + Δ r ) − L 1 ( r ) < 0 for     Δ r > 0. {\displaystyle \Delta L_{2}(r)=L_{2}(r+\Delta r)-L_{1}(r)<0\quad {\mbox{for}}~~\Delta r>0.} いま、国民所得増加しているので、貨幣受給均衡を保つためには、利子率 r が上昇しなければならない。 Δ L 2 ( r ) = − Δ L 1 ( Y ) < 0. {\displaystyle \Delta L_{2}(r)=-\Delta L_{1}(Y)<0.} このときの利子率 r と国民所得 Y の組み合わせを表す Y –r グラフ上の曲線が LM 曲線である。LM 曲線は、特別な場合除いて右上がり曲線となる。言い換えると、貨幣市場均衡する場合利子率 r(Y)国民所得 Y の増加関数になる。 特別な場合例えばある国の経済流動性の罠に陥っている状況では、LM 曲線がフラットになっている結果としてマネタリーベース増加金利上昇喚起しない。この状況下では紙幣増刷起因するインフレーション発生しない。 仮に経済が LM 曲線の左側にあるならば、利子率が高いため貨幣投機的需要少ない、もしくは国民所得水準が低いため貨幣取引需要少ない。そのため貨幣超過供給発生している。反対に経済が LM 曲線の右側にある場合は、貨幣超過需要発生している。 なお貨幣需要利子弾力性大きいほど、LM 曲線の傾きはより水平に近づく実質貨幣供給量名目貨幣供給量/物価)の増大は、LM 曲線を右方シフトさせる

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