鼻
『鼻』(芥川龍之介) 禅智内供の鼻は長さ5~6寸もあって、顎の下まで垂れ下がっており、彼は苦にしていた。鼻を茹でて脂(あぶら)を取る療治をして、鼻は人並みに小さくなったが、まわりの僧俗は彼を見ると笑い、しかも笑いの中に悪意さえも感じ取られたので、禅智内供は当惑し、不機嫌になる。何日かの後、突然また鼻はもとの大きさに戻り、彼は「これでもう誰も笑うまい」と安堵する。
『鼻』(ゴーゴリ) 3月25日朝、8等官コワリョーフの鼻が突然、顔から消えうせた。その朝、床屋がパンを食べようとすると、中から鼻が出てくる。床屋は、それが顧客のコワリョーフの鼻であると知り、関わり合いを恐れて、鼻を河へ捨てる。鼻は、礼服を着て剣を吊った5等官の姿で街に現れ、馬車を乗り回すなどして市中を騒がせる。4月7日朝、突如として、鼻はまたコワリョーフの顔に戻った。
*→〔願い事〕2aの『カレンダーゲシヒテン(暦話)』(ヘーベル)「三つの願い」。
★2.鼻が長くなる。
『源五郎の天昇り』(昔話) 源五郎が拾った太鼓をたたくと、鼻が長くなったり短くなったりする。彼は長者の娘の鼻を長くし、それを「治療してやろう」と言ってもとにもどして、大金を礼にもらう。ある時、源五郎は自分の鼻がどこまで延びるか試す。鼻は天まで届き、天の川の橋杭として、鼻先が欄干に縛りつけられてしまう(長崎県南高来郡)。
『ピノキオ』(コローディ) ピノキオは人形芝居を見に行き、親方に気に入られて金貨5枚をもらう。その後、悪人に襲われて木に吊るされたところを、空色の髪の妖精に救われる。しかしピノキオは、妖精に対して「金貨はなくした」とか「飲みこんでしまった」など嘘を言い、そのために鼻が長く伸びる。ピノキオが泣くと、多くの啄木鳥(きつつき)が来て、くちばしで鼻を削ってくれる。
『源氏物語』「末摘花」 光源氏は、故常陸の宮の娘・末摘花(すゑつむはな)と関係を結ぶ。ところが彼女は、象を連想させるほどの大きな鼻の持ち主であり、鼻の先が少し垂れ、赤く色づいていたので、光源氏は驚いた。後に光源氏は自分の鼻に紅を塗り、鏡に映して見る。彼ほどの美しい顔でも、赤鼻が真ん中にあっては、たいそう見苦しいことであった。
『シラノ・ド・ベルジュラック』(ロスタン)第2幕 近衛青年隊のシラノは醜い大鼻の持ち主だったので、仲間たちは、彼の前では「鼻」という言葉を使わないように気をつけていた。ところが新入り隊員クリスチャンが、それを承知の上で、わざと「鼻柱を折る」「鼻息が荒い」「鼻であしらう」などの言葉を連発し、シラノを怒らせる(*しかしこの直前にシラノは、従妹ロクサーヌが美男クリスチャンを見て好きになり、彼からの求愛を待っていることを知ったので、怒りを抑え、2人の仲を取り持つ)→〔二人一役〕1。
『トリストラム・シャンディ』(スターン)第4巻「スラウケンベルギウスの物語」 常人の数倍もある巨大な鼻の男がフランクフルトへ行く途中、シュトラスブルグを通る。男の鼻が市民の話題になり、男が帰途再びシュトラスブルグを通る1ヵ月後を、彼らは待つ。ところが男は途中で恋人とその兄に出会い、道を変えてスペインへ向かう。シュトラスブルグ市民は、男の鼻見たさに市門を開けたままフランクフルト街道を捜し回り、その間に市はフランス軍に占領されてしまう。
★4.接吻の邪魔になる鼻。
『誰が為に鐘は鳴る』(ウッド) アメリカ人青年ロバート・ジョーダンは、スペイン内戦に参加して、市長の娘マリアと恋に落ちる。2人がはじめて接吻する時、マリアは「鼻が邪魔になるのではないか?」と心配する。しかしロバートが巧みにリードし、2人は互いの鼻がぶつからないように接吻することができた〔*ヘミングウェイの同名小説の映画化〕。
『鼻の高すぎる王子さま』(ボーモン夫人) デジール王子は顔の半分をおおうほどの鼻を持っていたが、自分では、それがちょうど良い理想的な大きさだと思っていた。しかし婚約者ミニヨンヌ姫の手に接吻しようとした時、鼻が邪魔をして、口が姫の手に届かなかったので、ようやく王子は、自分の鼻が高すぎることを認めた。
★5.鼻を斬り取る。
『武州公秘話』(谷崎潤一郎) 合戦の最中には、敵を討っても、その首を持って歩くことは難しい。そこで鼻を斬り取っておき、それを証拠として、後に首を捜し出すことがある。武蔵守輝勝は、法師丸と名乗っていた少年時、敵将を討ち、首を斬り取る余裕がなかったので、鼻だけを斬り取って逃げたことがあった。また彼は元服後、河内介であった時代、主君織部正(おりべのしょう)則重を襲ってその鼻を切り取った。これは則重を生かしたまま、みじめな容貌にして笑うためであった。
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