黄泉比良坂とは? わかりやすく解説

黄泉比良坂

作者城島明彦

収載図書恐怖がたり42夜―携帯サイトの怖い話
出版社扶桑社
刊行年月2007.7
シリーズ名扶桑社文庫


黄泉比良坂

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/21 04:02 UTC 版)

東出雲町の黄泉比良坂・伊賦夜坂

黄泉比良坂 、黄泉平坂(よもつひらさか)は、日本神話において生者の住む現世と死者の住む他界黄泉)との境目にあるとされる坂、または境界場所。

古事記』では「黄泉比良坂」、『日本書紀』では「泉津平坂」または「泉平坂」、『出雲国風土記』では「黄泉之坂」などと表記される[1][2]

『古事記』の叙述

内容

『古事記』には黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)の記述が2カ所に登場する[3]

一つはイザナギイザナミによる国生みの途中で、イザナミが火の神(カグツチ)を生んで亡くなり黄泉の国へ行ってしまったため、イザナギがイザナミに会うため黄泉国に向かった後のシーンである[3]。イザナミはイザナギに対して、黄泉神と話し合いたいので、しばらく私を見ないでくださいと言った[4]。しかし、イザナギは長く待たされたため火を灯して中を見たところ、イザナミは変わり果てた姿となって全身からを生じており、これに恐れおののいたイザナギは逃げ出した[3][4]。イザナミは「私に恥をかかせた」と激怒し、ヨモツシコメにイザナギの後を追わせたが[3][4]、イザナギは最後には千引の石(千人もの大勢を動員して引くほどの石)を黄泉比良坂に引いて塞いだ[3][4]。詳細は黄泉を参照。

もう一つがオオクニヌシが妻のスセリビメとともにスサノオから与えられた試練を克服して根の国から脱出するシーンである[3]。詳細は大国主の神話#根の国訪問を参照。

『古事記』では黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)について「出雲国之伊賦夜坂也」としており、島根県松江市東出雲町揖屋には黄泉比良坂の伝承地がある[4]

研究

『古事記』の黄泉国については、本居宣長の『古事記伝』に始まる地下世界であるとする説と、松村武雄神野志隆光など水平方向にある別の世界とみる説に大きく分けられるが、これらとはまったく違うイメージとする説もある[4]

「ひら」は断崖絶壁のような「崖」を意味するという説もある[3]。「ひら」は縁(へり)であり境界を意味するという説や斜面上の坂を意味するという説もある[4]

坂についても傾斜地としての坂ではなく「境」の意味であるとする説もある[4]

『日本書紀』の叙述

内容

日本書紀』の本文では言及がない。ただし、『日本書紀』では本文間で「一書云」の形で異伝が語られている[2]

神代紀上巻第五段の一書第六では『古事記』とほぼ同様のイザナギとイザナミの応酬が描かれ、イザナミの埋葬のモチーフに関する記述はないものの[5]、「泉津平坂(ヨモツヒラサカ)」の記述がある[6]

また、神代紀上巻第五段本文と第六段本文の間にある一書第十には「泉平坂」(よもつひらさか)で言い争っていたイザナミとイザナギのもとに菊理姫が現れる記述がある(菊理姫は何かを語ったとなっているが何を語ったかに関する記述はない)[2]

なお、一書第六の注には「或所謂泉津平阪 不復別有處所 但臨死氣絕之際 是之謂歟」とある。これは死の瞬間を泉津平阪という土地に例えたもので、実際には泉津平阪は存在しない、としている。

研究

『日本書紀』神代紀上巻第五段の一書第六をめぐっては、『釈日本紀』など上代の文献では『古事記』や『出雲国風土記』の記述を引いて実在の坂として捉えられた[6]。一方、一条兼良日本書紀纂疏』によって一書第六の全体は地勢としての坂を意味するが、「泉津平坂」の記述のある条では生死の境界を示す表現であるとして異質性が指摘されるようになった[6]

また、一書第六の注の記述は、『日本書紀』編纂が『古事記』よりも後であることを考慮に入れれば、日本人の死生観に変化が現れつつあったことを示唆しており、これは元来の日本古代の死生観にはなかったものと解釈されている。

ゆかりの場所

『古事記』では黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)について「出雲国之伊賦夜坂也」としており[4]、先述の島根県松江市東出雲町揖屋には1940年(昭和15年)に佐藤忠次郎によって石碑が建立された[7]。同地には「千引きの磐座」と呼ばれる岩がある[7]。近くには、イザナミを祀る揖夜神社もある。2010年日本映画瞬 またたき』では、亡くなった恋人に会いたいと願う主人公が訪ねる場所のロケ地として使われた[8]

江戸時代1717年(享保2年)に書かれた『雲陽誌』によると、松江市岩坂の小麻加恵利坂にもイザナギが雷神に桃の実を投げた伝説がある[3]

脚注

  1. ^ 山田 純「気絶之際の「泉津平坂」」『日本文学』第63巻第10号、2020年、62-66頁。 
  2. ^ a b c 山田純「書紀によると世界は-天孫降臨と歴史叙述-」『文学研究論集(文学・史学・地理学)』第21巻、明治大学大学院、2004年9月30日、127-141頁。 
  3. ^ a b c d e f g h 森田喜久男. “「ヨモツヒラサカ」を越えた神々”. 松江市. 2024年4月21日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i 梶川信行、鈴木雅裕「<研究へのいざない>教室で読む古事記神話(六)-追往黄泉国から見畏而逃還まで-」『語文』第167号、2020年、36-。 
  5. ^ 酒井陽「黄泉の国と死者の国 -記紀神話の「黄泉の国」は死者の赴く世界か-」『千葉大学日本文化論叢』第2巻、千葉大学文学部日本文化学会、2001年3月20日、1-12頁。 
  6. ^ a b c 山田 純「気絶之際の「泉津平坂」」『日本文学』第63巻第10号、2020年、62-66頁。 
  7. ^ a b 三石学. “世界遺産熊野花の窟と比婆之山~比婆山学×出雲学×熊野学~”. 庄原市. 2024年4月21日閲覧。
  8. ^ 黄泉の国への入り口『瞬 またたき』公式サイト

関連項目

ローマ・ギリシャの冥界との入り口
  • プルートニオン英語版 - 冥界への入り口の総称。多くが毒ガスの噴出する場所である。
  • Aornum英語版
  • Avernus英語版

外部リンク


黄泉比良坂

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/20 09:43 UTC 版)

不思議のダンジョン 風来のシレン3 からくり屋敷の眠り姫」の記事における「黄泉比良坂」の解説

初挑戦時は無敵状態でスタートする

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黄泉比良坂(よもつひらさか)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/04 07:57 UTC 版)

超人墓場」の記事における「黄泉比良坂(よもつひらさか)」の解説

裁きの門」と呼ばれる聖なる完璧の山正門から、超人墓場への間を繋ぐ通路。ここの番人完璧超人始祖完璧・参式”(パーフェクト・サード)ミラージュマンであり、神代から何万年超人墓場出入りする者の審査務めている。また、正門闘技場の奥にある扉は超人墓場への入り口になっているが、この先はミラージュマンが作り出した幻影空間構築されており、これに気付かない者は一生さまよい続けて真の超人墓場辿り着くことは無い。この幻覚は主の絶命後も維持され続けるが耐久性消滅する

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「黄泉比良坂(よもつひらさか)」を含む「超人墓場」の記事については、「超人墓場」の概要を参照ください。


黄泉比良坂(よもつひらさか)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 22:43 UTC 版)

ペルソナ4」の記事における「黄泉比良坂(よもつひらさか)」の解説

黒幕であるイザナミ作り出した世界トゥルーエンディング迎え条件満たした場合のみ入れ真のラストダンジョン。赤い幾何学的なパーツ構成され鳥居参道思わせる道が続き人外の存在作り上げたため、他の世界にはある「人の心の迷い」を反映した不完全・不安定な部分がまったく存在しない主人公稲羽市来て最初の頃、イザナミ夢の中で接触干渉してきた際にもこの世界見ているが、その時深い霧覆われていてほとんど視界利かない

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「黄泉比良坂(よもつひらさか)」を含む「ペルソナ4」の記事については、「ペルソナ4」の概要を参照ください。

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