陰と影の意味の違い・使い方の解説
読み方:かげ
「陰」と「影」の意味の違いは、一言でいうと、「陰」が物にさえぎられて光が当たらない暗い部分、目立たない部分を指すのに対し、「影」はできる「かげ」の像・形に注目し、「姿」という意味を持つという違いです。読み方はどちらも「かげ」です。
■ かげ(陰・影)の語源・言葉の成り立ち・由来とは
「かげ」の語源は、「古典基礎語辞典」(編者:大野晋)によれば、陽炎(かげろう、古文では「かぎろひ」)、鏡(かがみ)などと同じです。
おおもとの意味は「光」でした。太陽や月、灯火などの光を意味し、「月影」といえば「月光」、「火影(ほかげ)」といえば「灯火の光」を意味しました。
現代の会話・文章では、「かげ」は主に、「光が物にさえぎられて暗くなった部分」「光が物に当たり、光源と反対側にできる像(シルエット)」という意味で使われていますが、どちらもおおもとの意味である「光」が由来になっています。
つまり、「かげ」には、(1)光(2)暗い部分(3)浮かび上がる像・姿、という3つの意味があり、(1)がおおもとの意味、(2)が現代よく使われる意味です。
■ 陰・影の字義から理解する意味の違い、使い分け
陰・影の漢字の違いは、陰は「光の当たらない暗く、目立たない場所」、影は「光によってできる像、姿」なのですが、漢字の字義や成り立ちを理解しておくと、正しい使い分けをしやすくなります。
「陰」の漢字は、
(1)小高い山や丘を意味する「こざとへん(こざと偏)」
(2)インという音を表す「侌」というつくり
の2つを組み合わせて成り立っています。意味の部分と音の部分とを組み合わせた「形成文字」です。
小高い山や丘を意味する部首「こざとへん」を含むことにより、「陰」の漢字は、山などによって生じる薄暗い陰の部分を意味します。
「陰」と反対に、明るい部分は「陽」とされ、セットで「陰陽」という語もあります。陽光の照らす明るい晴れの様子と対比されるのが「陰」であり、光が当たらない様子から、「薄暗く寒々しい」「人目を避けてこっそりと」というニュアンスも生まれています。人知れず貢献する様子を「陰で支える」といいます。
今日用いられる「陽キャ(陽キャラ)」「陰キャ(陰キャラ)」という語も、こうした漢字の意味・イメージに由来しています。
一方、「影」の漢字は、
(1)光を意味する字「景」
(2)彩りや模様、飾りなどに関する文字を作る「さんづくり(彡)」
の2つから成り立っています。
光を意味する「景」と模様を意味する「さんづくり(彡)」が合わさり、光でできる模様を意味する「影」の字ができました。2つの部首の意味を合わせてできた「会意文字」の仲間です。「会意文字」であると同時に、「景」のケイという読みが転じて「影」の音読みエイになったので、それぞれの部首をもとに意味・音の両方ができている「形成文字」の仲間であるともいえます。
光がさえぎられてできる暗い部分を指す点で「陰」と共通する部分もありますが、「影」の字の場合、「光によってできる模様、映し出される像」というところに意味の中心があります。ですから、「影法師」「影絵」のように、どんな形の影ができているかに注目する語に使われています。
また、光の反射などによって鏡や水面に映る姿のことも「影」の字で表します。そこから、姿じたいを「影」で表すようになりました。「面影」「撮影」などの熟語にその意味が表れています。
■ 「陰」「影」のどっちを使う? クイズで理解する
「陰」と「影」、どちらを使うか悩む場面があります。正しい使い分けをクイズ形式で理解しておきましょう。
問1・「“かげ”に隠れる」どっちを使う?
物によって見えなくなる部分に入ることを指すので「陰」を使います。→陰に隠れる
問2・「見る“かげ”もない」、どっちを使う?
見るに値する姿ではなくなってしまったことを言うので、「姿」の意味が強く、「影」を使います。→見る影もない
問3・「“かげ”から操る」、どっちを使う?
見えないところで暗躍するイメージなので、「陰」を使います。→陰から操る
■ 「陰」「影」の使い分けを示す用例・例文
「陰」を用いる例文を挙げます。
①三四郎のしゃがんでいる低い陰から見ると丘の上はたいへん明るい。(夏目漱石『三四郎』より引用)
②大きな栃の木が陰をつくって、冷めたそうな水にラムネがつけてあった。(田山花袋『田舎教師』)
③こういう日が来るまでには、どのくらいの人が陰で働いたか知れますまい。(島崎藤村『夜明け前』)
①②のように、丘や木によって暗くなっている部分という使い方、③のように、見えない、注目されないところで、という意味の使い方が見られます。
一方の「影」の例文は以下の通りです。
①するといつか僕の影の左右に揺れているのを発見した。(芥川竜之介『歯車』)
②かれらは自分たちのうしろに黒い影の付きまとっているのを知らなかった。(岡本綺堂『半七捕物帳』)
③そのたくさんの女の中の影の薄い一人の女として彼は自分を扱っているのではないか。(有島武郎『或る女』)
①は影法師のことです。②は人影、人の姿を意味しています。③では、姿が目立たない、つまり存在感が薄いことを「影が薄い」と慣用句的に表現しています。
■ 類義語:「陰」「影」と「蔭」「翳」との意味・使い方の違い
「蔭」は、特に樹木でできる陰を指しています。「緑蔭」などのように使います。また、人の庇護に感謝する際、「お蔭様」などと言うのにも使います。ただし、「蔭」は常用漢字外なので、よく「陰」で代用されます。
「翳」はもともと、車の覆いのことで、羽毛で飾った美しいものを指しました。車の覆いやきぬがさで日をさえぎることから転じ、日がさえぎられてできるかげを言うようになりました。「陰翳」という熟語があるように、「陰」の方に近い意味で、こちらも常用漢字外です。
「陰」と「影」の意味の違いは、一言でいうと、「陰」が物にさえぎられて光が当たらない暗い部分、目立たない部分を指すのに対し、「影」はできる「かげ」の像・形に注目し、「姿」という意味を持つという違いです。読み方はどちらも「かげ」です。
■ かげ(陰・影)の語源・言葉の成り立ち・由来とは
「かげ」の語源は、「古典基礎語辞典」(編者:大野晋)によれば、陽炎(かげろう、古文では「かぎろひ」)、鏡(かがみ)などと同じです。
おおもとの意味は「光」でした。太陽や月、灯火などの光を意味し、「月影」といえば「月光」、「火影(ほかげ)」といえば「灯火の光」を意味しました。
現代の会話・文章では、「かげ」は主に、「光が物にさえぎられて暗くなった部分」「光が物に当たり、光源と反対側にできる像(シルエット)」という意味で使われていますが、どちらもおおもとの意味である「光」が由来になっています。
つまり、「かげ」には、(1)光(2)暗い部分(3)浮かび上がる像・姿、という3つの意味があり、(1)がおおもとの意味、(2)が現代よく使われる意味です。
■ 陰・影の字義から理解する意味の違い、使い分け
陰・影の漢字の違いは、陰は「光の当たらない暗く、目立たない場所」、影は「光によってできる像、姿」なのですが、漢字の字義や成り立ちを理解しておくと、正しい使い分けをしやすくなります。
「陰」の漢字は、
(1)小高い山や丘を意味する「こざとへん(こざと偏)」
(2)インという音を表す「侌」というつくり
の2つを組み合わせて成り立っています。意味の部分と音の部分とを組み合わせた「形成文字」です。
小高い山や丘を意味する部首「こざとへん」を含むことにより、「陰」の漢字は、山などによって生じる薄暗い陰の部分を意味します。
「陰」と反対に、明るい部分は「陽」とされ、セットで「陰陽」という語もあります。陽光の照らす明るい晴れの様子と対比されるのが「陰」であり、光が当たらない様子から、「薄暗く寒々しい」「人目を避けてこっそりと」というニュアンスも生まれています。人知れず貢献する様子を「陰で支える」といいます。
今日用いられる「陽キャ(陽キャラ)」「陰キャ(陰キャラ)」という語も、こうした漢字の意味・イメージに由来しています。
一方、「影」の漢字は、
(1)光を意味する字「景」
(2)彩りや模様、飾りなどに関する文字を作る「さんづくり(彡)」
の2つから成り立っています。
光を意味する「景」と模様を意味する「さんづくり(彡)」が合わさり、光でできる模様を意味する「影」の字ができました。2つの部首の意味を合わせてできた「会意文字」の仲間です。「会意文字」であると同時に、「景」のケイという読みが転じて「影」の音読みエイになったので、それぞれの部首をもとに意味・音の両方ができている「形成文字」の仲間であるともいえます。
光がさえぎられてできる暗い部分を指す点で「陰」と共通する部分もありますが、「影」の字の場合、「光によってできる模様、映し出される像」というところに意味の中心があります。ですから、「影法師」「影絵」のように、どんな形の影ができているかに注目する語に使われています。
また、光の反射などによって鏡や水面に映る姿のことも「影」の字で表します。そこから、姿じたいを「影」で表すようになりました。「面影」「撮影」などの熟語にその意味が表れています。
■ 「陰」「影」のどっちを使う? クイズで理解する
「陰」と「影」、どちらを使うか悩む場面があります。正しい使い分けをクイズ形式で理解しておきましょう。
問1・「“かげ”に隠れる」どっちを使う?
物によって見えなくなる部分に入ることを指すので「陰」を使います。→陰に隠れる
問2・「見る“かげ”もない」、どっちを使う?
見るに値する姿ではなくなってしまったことを言うので、「姿」の意味が強く、「影」を使います。→見る影もない
問3・「“かげ”から操る」、どっちを使う?
見えないところで暗躍するイメージなので、「陰」を使います。→陰から操る
■ 「陰」「影」の使い分けを示す用例・例文
「陰」を用いる例文を挙げます。
①三四郎のしゃがんでいる低い陰から見ると丘の上はたいへん明るい。(夏目漱石『三四郎』より引用)
②大きな栃の木が陰をつくって、冷めたそうな水にラムネがつけてあった。(田山花袋『田舎教師』)
③こういう日が来るまでには、どのくらいの人が陰で働いたか知れますまい。(島崎藤村『夜明け前』)
①②のように、丘や木によって暗くなっている部分という使い方、③のように、見えない、注目されないところで、という意味の使い方が見られます。
一方の「影」の例文は以下の通りです。
①するといつか僕の影の左右に揺れているのを発見した。(芥川竜之介『歯車』)
②かれらは自分たちのうしろに黒い影の付きまとっているのを知らなかった。(岡本綺堂『半七捕物帳』)
③そのたくさんの女の中の影の薄い一人の女として彼は自分を扱っているのではないか。(有島武郎『或る女』)
①は影法師のことです。②は人影、人の姿を意味しています。③では、姿が目立たない、つまり存在感が薄いことを「影が薄い」と慣用句的に表現しています。
■ 類義語:「陰」「影」と「蔭」「翳」との意味・使い方の違い
「蔭」は、特に樹木でできる陰を指しています。「緑蔭」などのように使います。また、人の庇護に感謝する際、「お蔭様」などと言うのにも使います。ただし、「蔭」は常用漢字外なので、よく「陰」で代用されます。
「翳」はもともと、車の覆いのことで、羽毛で飾った美しいものを指しました。車の覆いやきぬがさで日をさえぎることから転じ、日がさえぎられてできるかげを言うようになりました。「陰翳」という熟語があるように、「陰」の方に近い意味で、こちらも常用漢字外です。
- 陰と影の意味の違い・使い方の解説のページへのリンク