運動麻痺が起きるメカニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/15 09:10 UTC 版)
運動麻痺を随意運動障害と考えると、随意運動の経路である皮質脊髄路、すなわち錐体路を理解するとメカニズムの説明ができる。大脳中心前回(一次運動野)に存在する神経細胞が興奮することで随意運動ははじまると考えられている。1次ニューロンの軸索は放線冠、内包後脚、中脳の大脳脚を通過する。延髄下部に存在する錐体交叉にて左右の線維が交叉し、脊髄にて2次ニューロンにシナプスチャンジし、前角細胞を興奮させる。1次ニューロンを上位運動ニューロンといい、2次ニューロンを下位運動ニューロン(α線維)という。下位運動ニューロンは末梢神経として感覚線維と併走し神経筋接合部に至り、筋線維を興奮させる。この経路のどこかが障害されれば運動麻痺は起こりえる。神経診断学では問診と身体所見によって障害部位を決定できると考えている。感覚障害などの随伴症状や身体所見にて障害部位を絞り込み、画像検査にて確認を行う。障害部位の予測なしに画像検査を行うと非特異的な変化との区別が困難な疾患が多い。 上位運動ニューロン下位運動ニューロン神経筋接合部筋肉筋萎縮 認めない 遠位筋優位 認めない 近位筋優位 筋トーヌス 亢進(痙性麻痺) 低下(弛緩性麻痺) 正常から低下 正常から低下 深部腱反射 亢進 低下から消失 低下から消失 低下 病的反射 認める 認めない 認めない 認めない 筋線維束性収縮 認めない 認める 認めない 認める 針筋電図 正常 神経伝導速度 正常 筋原性 神経伝導速度 正常 低下 正常 正常 反復刺激誘発筋電図 正常 正常 異常 正常 テンシロンテスト 陰性 陰性 陽性 陰性 通常は障害部位は1か所と考え、診断を進めていく。上位ニューロン障害として脳血管障害、下位運動ニューロン障害としては頸椎症が頻度としては多い。上位運動ニューロン障害では脳神経外科、神経内科、下位運動ニューロン障害、筋疾患では整形外科、神経内科と専門とする診療科も異なる。なお、特殊な例としては上位運動ニューロン障害、下位運動ニューロン障害の混在する疾患としては筋萎縮性側索硬化症などがあげられる。神経診断学をすべて行うと非常に専門的となるため、病歴から脳血管障害が疑われた場合は痙性運動麻痺、腱反射の亢進、表在反射の消失、病的反射(バビンスキー反射、チャドック反射)の出現、膝クローヌス(間代)、足クローヌスといった錐体路徴候のみ診察し、頭部CTにて出血評価、出血がみられなければ頭部MRI(とくに拡散強調画像)といった手順で救急室では行う。というのは脳出血ならば緊急手術の適応の評価、脳梗塞ならば血栓溶解療法の適応など緊急を要する選択をしなければならないからである。 脳神経も運動線維を含み、麻痺は起こしえる。脳神経は分類学上は末梢神経であり視神経、嗅神経以外はグリア細胞はシュワン細胞である。顔面神経麻痺がマネジメントとして非常に重要である。脳血管障害によるもの以外では顔面神経麻痺の原因としてはベル麻痺が多い。ベル麻痺は29%に後遺症が残り、致死的ではないものの機能予後はよいとは言えない。口角が下がり、水を飲むとこぼしてしまい、寝る時も眼瞼を閉じることができないなど非常に機能予後が悪い。ストレスが発生に関与しており、春先に非常に多い。原因としてはヘルペスウイルスの関与が考えられており、抗ウイルス薬とステロイドの使用によって後遺症を残すリスクを軽減できることが知られている、そのため救急室でもこれらの薬の処方ができることが望ましく、不慣れならば翌日の耳鼻科受診を促すような配慮が望ましいと考えられている。
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