運動麻痺と大脳皮質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/15 09:10 UTC 版)
骨格筋の随意運動を発動する運動細胞が分布する大脳運動皮質(運動野)はブロードマン4野と呼ばれ、中心前回のほぼ後半と中心傍小葉の前半を占めている。各身体部位に対応する体性機能局在(somatotopy)がある。運動野を代表するベッツ細胞(巨大錐体細胞)はこの4野の第5層にある。 運動皮質の体性機能局在については1901年にDeijerineの臨床病理所見に基づき記述された。1952年にPenfieldらは脳手術中に局所麻酔下で大脳皮質の体性運動野(中心前回、ブロードマン4野)を電気刺激し、反対側の身体に生じる運動・痙攣の局在を詳細に検討し体性機能局在を小人間像(homunculus、ホムンクルス)として作成した。 大脳運動皮質(中心前回)では大脳裂(シルビウス裂)に接する弁蓋部から円錐部を経て頂上に達し、さらに内側矢状面(中心傍小葉)に至るまで、口部、顔面、上肢、体幹、下肢の順に体性機能局在が存在し、身体の逆立ち状に配列されている。 下肢はRolando野皮質の上方にあり、円蓋部の中心前回と最上部から大脳半球内側面(矢状面)の中心傍小葉にかけて位置している。 下肢に続く体幹部は相対的に狭い。 下肢・体幹に比べて手、特に母指が大きく円蓋部中央を占めている。 母指に続いて示指、中指、薬指、小指そして手の順で上方に並んでいる。各々の指の体性機能局在は独立しているようであるが、互いに重なりあい存在しているという説もある。 顔面も大きな部位を占めている。 また運動麻痺の症候と大脳皮質の関連は下記のようにまとめることができる。 単麻痺 上肢、下肢の中の一肢の運動麻痺を単麻痺という。単麻痺は末梢神経系の病変でしばしばみられる(神経叢病変、末梢神経病変)。その一方で大脳皮質病変でも単麻痺を呈することがある。その分布形式が一見末梢神経麻痺の分布に似ることから偽性末梢神経型麻痺とよばれる。このような現象がみられるのは運動皮質に前述の体性機能があるためである。 上肢の運動麻痺 大脳運動野の体性機能局在の中で手・手指が占める範囲は大きいので、限局性の大脳運動皮質病変で上肢の単麻痺、あるいは尺骨神経麻痺、橈骨神経麻痺、正中神経麻痺など末梢神経病変を思わせることがある。そのような皮質性運動麻痺の中で末梢神経障害と類似の型を呈するものは偽性末梢神経型皮質性運動麻痺と呼んでいる。この皮質性運動麻痺では、麻痺の目立たない指でも1本、1本の分離運動がうまくできず連合運動が生じ、微細な運動がしにくい。通常、麻痺筋に筋委縮がみられないという特徴を有している。 指の運動麻痺 限局性の大脳運動皮質小病変により、手あるいは手指のみに限局した運動麻痺に対して、isokated hand palsyなどとよび、様々な運動麻痺(第1指のみの麻痺、第2指のみの麻痺、手・手指全体の麻痺など)が報告されている。大脳運動皮質の体性局在のうち手に相当する皮質部位の同定が頭部MRIで可能であるとの報告があり、臨床的に活用されている。手の運動野の部位はprecentral knobと呼ばれている。 下肢の運動麻痺 大脳運動野の体性機能局在の中で下肢が占める範囲は相対的に小さいが大脳半球内側面の中心傍小葉の限局性大脳皮質病変で、総腓骨筋麻痺を思わせる偽性末梢神経型麻痺を呈したり、下肢単麻痺、下肢遠位部優位の麻痺を呈することがある。さらには病変が両側の半球に及んで、両下肢の麻痺(対麻痺)をきたすことがある、 特異な運動麻痺 運動皮質を侵す病変の多くは動脈の梗塞性病変や腫瘍性病変でその麻痺の分布は、上肢でも下肢でも近位部より遠位部が強く侵される。これに反し、脳静脈血栓症(Roland静脈閉塞)による運動麻痺分布は遠位部より近位部が強く侵される(Merwarth症候群)。
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