運動麻痺と脊髄髄節と神経根
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/15 09:10 UTC 版)
脊髄は各々の神経根の出る高さに応じて31の髄節に分けられる。内訳は第1〜8頸髄(C1〜C8)、第1〜12胸髄(T1〜T12)、第1〜5腰髄(L1〜L5)、第1〜5仙髄(S1〜S5)および尾髄(Co)である。各々の髄節は一定の部位の筋肉を支配しており、髄節(前角)から神経根(前根)が出て、椎間孔から脊柱管の外へ出て前枝と後枝に分かれる。椎間孔を出るまでが神経根であり、そこから出て分枝する前枝と後枝は末梢神経に属する。脊髄は脊柱管の中にあり、上方は延髄の錐体交叉の下端から始まり、下方は脊髄円錐になり、第1〜第2腰椎レベルの高さで終わる。脊髄、脊椎(柱)、神経根は発生学的に分節構造をなし、神経根はそれに相応する脊髄髄節から出て、上下の脊椎の間(脊椎間孔)を通って脊柱管の外に出る。しかし頸髄と頚椎とは同数でないため、第1〜第7頸神経根はそれぞれ対応する脊椎の上の椎間孔から出るが第8頚椎神経根は第7頚椎と第1胸椎の間の椎間孔から出る。それ以下の神経根はそれぞれの対応する脊椎の下の椎間孔から出る。脊椎と脊髄の発育の不均衡の結果として相対的に脊髄は脊椎よりも短く(脊髄最下端は脊椎L1の高さ)、各髄節と椎体の高さにずれが生じる。このことはX線撮影やMRIでの椎体の高さから髄節の高さを決定する上で重要でその対比を表に示す。 脊髄脊椎支配筋対応する検査デルマトームC1 C1/2 C2 C2 後頭部 C3 C2/3 耳介 C4 C3/4 横隔膜 呼吸不全の有無 頸部、肩上部 C5 C4 三角筋、棘上筋、棘下筋、上腕二頭筋 肩関節の外転、肘関節の屈曲 肩下部、上腕外側 C6 C4/5 腕撓骨筋、橈側手根伸筋 手関節の背屈 前腕外側、母指、示指 C7 C5/6 上腕三頭筋、手指伸筋、手指屈筋 手関節の掌屈、手指の伸展 中指 C8 C6/7 手指屈筋 手指の屈曲 薬指、小指 T1 C7/T1 手指外転筋群 小指の外転 前腕内側 T2 T1 肋間筋、腹筋 上腕内側、上胸部 T3 T2 肋間筋、腹筋 T4 T3 肋間筋、腹筋 乳首 T5 T4 肋間筋、腹筋 T6 T5 肋間筋、腹筋 T7 T6 肋間筋、腹筋 T8 T7 肋間筋、腹筋 T9 T8 肋間筋、腹筋 T10 T9 肋間筋、腹筋 臍部 T11 T10 肋間筋、腹筋 T12 T10/11 肋間筋、腹筋 L1 T11 腸腰筋 鼠径部 L2 T11/12 腸腰筋、大腿四頭筋、股関節内転筋群 股関節の屈曲(L1〜3) 大腿内側 L3 T12 腸腰筋、大腿四頭筋、股関節内転筋群 股関節の内転、膝関節の伸展(L2〜4) 大腿前部、膝 L4 T12/L1 大腿四頭筋、股関節内転筋群、前脛骨筋 足関節の背屈 大腿外側、下腿内側 L5 T12/L1 長母指伸筋、長趾伸筋 母趾の背屈 下腿外側、足背と母趾 S1 L1 長母指屈筋、腓腹筋、ヒラメ筋 母趾の底屈、足関節の底屈 大腿後部、下腿外側、小趾 S2 L1 大腿後部、下腿内側、踵内側 S3 L1 大腿内側 S4 L2 臀部、外陰部 S5 L2 肛門周囲 Co L2 一方、神経根は脊髄の下部にいくにつれて次第に走行が滑らかになり、腰椎・仙骨レベルでは脊柱管内をほとんど垂直に下行する。この腰仙髄神経根の集まりをその外観から馬尾という。脊髄の太さは一様ではなく、2箇所の膨大部、頸髄膨大と腰髄膨大がある。前者はC4〜T1髄節(C3/4〜C7/T1椎体)に相当し、後者はL1〜S3髄節(T11〜L1椎体)に相当する。それぞれ上肢と下肢を支配するところで、この高さの神経根も太く、前角も大きい。 各髄節は一定の部位の筋肉群を支配しており、これを筋節(myotome、ミオトーム)という。多くの筋肉は上下に連なる複数の髄節、神経根(前根)の支配を受けている。これを多髄節性支配という。その主要な髄節・神経根を知ることにより、障害された筋肉の分布から髄節・神経根病変の局在を推定することができる。上肢では肘の屈曲のC5、手首背屈C6、肘伸展C7が有名である。下肢では足関節の背屈でL4〜5、母趾の背屈L5〜S1、母趾の底屈L5〜S2がよく確認される。踵立ちはL5、つま先立ちはS1、膝崩れはL1〜3と考えられる。 頸髄節・神経根と支配筋 頸部を中心とした筋肉は主にC1〜C4髄節に支配されている。代表的な筋肉は胸鎖乳突筋(C2、C3)、僧帽筋(C3、C4)、他の深頸筋(C1、C2)であり、特異的なものとしては横隔膜(C3、C4だが特にC4)がある。なお、胸鎖乳突筋と僧帽筋は副神経にも支配されているため、上位頸髄あるいは延髄のいずれの病変でも障害されうる。肩甲・上腕部の筋肉は主にC5、C6髄節に支配されている。代表的な筋肉は三角筋(C5、C6)、棘下筋(C5、C6)、上腕二頭筋(C5、C6)、腕橈骨筋(C5、C6、C7)、上腕三頭筋(C7、C8、T1)などである。前腕部の筋肉は主にC6、C7、C8頸髄に支配されている。代表的な筋肉は円回内筋(C6、C7)、橈側および尺側手根屈筋(C6、C7)、橈側および尺側手根伸筋(C7、C8)総指伸筋および長・短母指伸筋(C7、C8)、長母指外転筋(C7、C8)などである。手の筋肉は主にC8、T1髄節に支配されている。代表的な筋肉は短母指外転筋(C8、T1)、虫様筋(C7、C8、T1)、掌側骨間筋(C8、T1)、母指対立筋(C7、C8)母指内転筋(C8、T1)、背側骨間筋(C8、T1)、小指外転筋(C8、T1)などがある。 胸髄節・神経根と支配筋 胸部・腹部・背部の筋肉はT1〜T12(L1)髄節で支配されている。 腰仙髄節・神経根と支配筋 下肢帯および下肢筋は腰髄節および仙髄節に支配されている。腰髄節支配の代表的な筋肉は腸腰筋(腸骨筋と大腰筋)(L2、L3)、大腿四頭筋(L2、L3、L4)、縫工筋(L2、L3、L4)、大腿内転筋群(L3、L4)などである。腰・仙髄節支配の代表的な筋肉は大臀筋(L5、S1、S2)、中臀筋および小臀筋(L4、L5、S1)、大腿二頭筋など膝屈筋群(L4、L5、S1、S2)、前脛骨筋および足・足趾の背屈筋群(L4、L5、S1)、長・短母趾屈筋など足趾屈筋群(L5、S1、S2、S3)である。仙髄節支配の代表的な筋肉は下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋)(S1、S2)である。
※この「運動麻痺と脊髄髄節と神経根」の解説は、「麻痺」の解説の一部です。
「運動麻痺と脊髄髄節と神経根」を含む「麻痺」の記事については、「麻痺」の概要を参照ください。
運動麻痺と脊髄髄節と神経根
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 08:51 UTC 版)
「ミエロパチー」の記事における「運動麻痺と脊髄髄節と神経根」の解説
脊髄は各々の神経根の出る高さに応じて31の髄節に分けられる。内訳は第1~8頸髄(C1~C8)、第1~12胸髄(T1~T12)、第1~5腰髄(L1~L5)、第1~5仙髄(S1~S5)および尾髄(Co)である。各々の髄節は一定の部位の筋肉を支配しており、髄節(前角)から神経根(前根)が出て、椎間孔から脊柱管の外へ出て前枝と後枝に分かれる。椎間孔を出るまでが神経根であり、そこから出て分枝する前枝と後枝は末梢神経に属する。脊髄は脊柱管の中にあり、上方は延髄の錐体交叉の下端から始まり、下方は脊髄円錐になり、第1~第2腰椎レベルの高さで終わる。脊髄、脊椎(柱)、神経根は発生学的に分節構造をなし、神経根はそれに相応する脊髄髄節から出て、上下の脊椎の間(脊椎間孔)を通って脊柱管の外に出る。しかし頸髄と頚椎とは同数でないため、第1~第7頸神経根はそれぞれ対応する脊椎の上の椎間孔から出るが第8頚椎神経根は第7頚椎と第1胸椎の間の椎間孔から出る。それ以下の神経根はそれぞれの対応する脊椎の下の椎間孔から出る。脊椎と脊髄の発育の不均衡の結果として相対的に脊髄は脊椎よりも短く(脊髄最下端は脊椎L1の高さ)、各髄節と椎体の高さにずれが生じる。このことはX線撮影やMRIでの椎体の高さから髄節の高さを決定する上で重要でその対比を表に示す。脊髄髄節の局在に関しては諸説があり脊椎と脊髄の高位差に関しては1964年のDejongによるものと1979年のHaymakerのものが知られている。頚椎レベルでは脊椎、脊髄のレベルは脊髄レベルのほうが上位である。頚椎C7のレベルにC8頚髄がある。胸椎レベルでは胸椎Th10レベルに胸髄Th11と脊髄レベルのほうが下位となる。胸椎Th11レベルに腰髄L1からL3が存在する。脊髄円錐部(腰髄と仙髄)になるとズレはさらに大きくなる。脊髄円錐部は円錐上部と円錐部に分かれる。円錐上部は胸椎Th12に位置し脊髄L4からS2である。円錐部は腰椎L1に位置し腰髄S3以下である。S5以下に尾髄COがある。腰椎L2またはL3以下は馬尾となる。これらの原則は個人差が大きいので画像診断学での利用では注意が必要である。特に脊髄下端はL1/2とされるが実際にL1/2が下端となるのは30%程度である。 脊髄脊椎支配筋対応する検査デルマトームC1 C1/2 C2 C2 後頭部 C3 C2/3 耳介 C4 C3/4 横隔膜 呼吸不全の有無 頸部、肩上部 C5 C4 三角筋、棘上筋、棘下筋、上腕二頭筋 肩関節の外転、肘関節の屈曲 肩下部、上腕外側 C6 C4/5 腕撓骨筋、橈側手根伸筋 手関節の背屈 前腕外側、母指、示指 C7 C5/6 上腕三頭筋、手指伸筋、手指屈筋 手関節の掌屈、手指の伸展 中指 C8 C6/7 手指屈筋 手指の屈曲 薬指、小指 T1 C7/T1 手指外転筋群 小指の外転 前腕内側 T2 T1 肋間筋、腹筋 上腕内側、上胸部 T3 T2 肋間筋、腹筋 T4 T3 肋間筋、腹筋 乳首 T5 T4 肋間筋、腹筋 T6 T5 肋間筋、腹筋 T7 T6 肋間筋、腹筋 T8 T7 肋間筋、腹筋 T9 T8 肋間筋、腹筋 T10 T9 肋間筋、腹筋 臍部 T11 T10 肋間筋、腹筋 T12 T10/11 肋間筋、腹筋 L1 T11 腸腰筋 鼠径部 L2 T11/12 腸腰筋、大腿四頭筋、股関節内転筋群 股関節の屈曲(L1〜3) 大腿内側 L3 T12 腸腰筋、大腿四頭筋、股関節内転筋群 股関節の内転、膝関節の伸展(L2〜4) 大腿前部、膝 L4 T12/L1 大腿四頭筋、股関節内転筋群、前脛骨筋 足関節の背屈 大腿外側、下腿内側 L5 T12/L1 長母指伸筋、長趾伸筋 母趾の背屈 下腿外側、足背と母趾 S1 L1 長母指屈筋、腓腹筋、ヒラメ筋 母趾の底屈、足関節の底屈 大腿後部、下腿外側、小趾 S2 L1 大腿後部、下腿内側、踵内側 S3 L1 大腿内側 S4 L2 臀部、外陰部 S5 L2 肛門周囲 Co L2 一方、神経根は脊髄の下部にいくにつれて次第に走行が滑らかになり、腰椎・仙骨レベルでは脊柱管内をほとんど垂直に下行する。この腰仙髄神経根の集まりをその外観から馬尾という。脊髄の太さは一様ではなく、2箇所の膨大部、頸髄膨大と腰髄膨大がある。前者はC4~T1髄節(C3/4~C7/T1椎体)に相当し、後者はL1~S3髄節(T11~L1椎体)に相当する。それぞれ上肢と下肢を支配するところで、この高さの神経根も太く、前角も大きい。 各髄節は一定の部位の筋肉群を支配しており、これを筋節(myotome、ミオトーム)といい、1本の前根により支配されている筋支配の単位である。多くの筋肉は上下に連なる複数の髄節、神経根(前根)の支配を受けている。これを多髄節性支配という。その主要な髄節・神経根を知ることにより、障害された筋肉の分布から髄節・神経根病変の局在を推定することができる。神経根病変と脊髄前角病変の麻痺筋による鑑別は困難である。末梢神経障害ではしばしば単一の筋に麻痺がみられるが、前角や神経根の障害では通常複数の筋に麻痺が起こる。 上肢では肘の屈曲のC5、手首背屈C6、肘伸展C7が有名である。下肢では足関節の背屈でL4〜5、母趾の背屈L5〜S1、母趾の底屈L5〜S2がよく確認される。踵立ちはL5、つま先立ちはS1、膝崩れはL1〜3と考えられる。 頸髄節・神経根と支配筋 頸部を中心とした筋肉は主にC1~C4髄節に支配されている。代表的な筋肉は胸鎖乳突筋(C2、C3)、僧帽筋(C3、C4)、他の深頸筋(C1、C2)であり、特異的なものとしては横隔膜(C3、C4だが特にC4)がある。なお、胸鎖乳突筋と僧帽筋は副神経にも支配されているため、上位頸髄あるいは延髄のいずれの病変でも障害されうる。肩甲・上腕部の筋肉は主にC5、C6髄節に支配されている。代表的な筋肉は三角筋(C5、C6)、棘下筋(C5、C6)、上腕二頭筋(C5、C6)、腕撓骨筋(C5、C6、C7)、上腕三頭筋(C7、C8、T1)などである。前腕部の筋肉は主にC6、C7、C8頸髄に支配されている。代表的な筋肉は円回内筋(C6、C7)、橈側および尺側手根屈筋(C6、C7)、橈側および尺側手根伸筋(C7、C8)総指伸筋および長・短母指伸筋(C7、C8)、長母指外転筋(C7、C8)などである。手の筋肉は主にC8、T1髄節に支配されている。代表的な筋肉は短母指外転筋(C8、T1)、虫様筋(C7、C8、T1)、掌側骨間筋(C8、T1)、母指対立筋(C7、C8)母指内転筋(C8、T1)、背側骨間筋(C8、T1)、小指外転筋(C8、T1)などがある。 胸髄節・神経根と支配筋 胸部・腹部・背部の筋肉はT1~T12(L1)髄節で支配されている。 腰仙髄節・神経根と支配筋 下肢帯および下肢筋は腰髄節および仙髄節に支配されている。腰髄節支配の代表的な筋肉は腸腰筋(腸骨筋と大腰筋)(L2、L3)、大腿四頭筋(L2、L3、L4)、縫工筋(L2、L3、L4)、大腿内転筋群(L3、L4)などである。腰・仙髄節支配の代表的な筋肉は大臀筋(L5、S1、S2)、中殿筋および小殿筋(L4、L5、S1)、大腿二頭筋など膝屈筋群(L4、L5、S1、S2)、前脛骨筋および足・足趾の背屈筋群(L4、L5、S1)、長・短母趾屈筋など足趾屈筋群(L5、S1、S2、S3)である。仙髄節支配の代表的な筋肉は下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋)(S1、S2)である。
※この「運動麻痺と脊髄髄節と神経根」の解説は、「ミエロパチー」の解説の一部です。
「運動麻痺と脊髄髄節と神経根」を含む「ミエロパチー」の記事については、「ミエロパチー」の概要を参照ください。
- 運動麻痺と脊髄髄節と神経根のページへのリンク