退行催眠への批判と応答
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/21 23:22 UTC 版)
前世の記憶は虚偽記憶の一種であるという批判があり、かつて催眠によりありもしない記憶が作られた例が多くあった。多くの前世療法家は「過去性の記憶」と実際の歴史との符号を調査していない。そのため、前世療法を利用する人には批判的な観点も必要であるともされている。 また「前世」を想起することで、被験者の現在の心理的疾患が治癒されるケースがあり、それを前世の根拠とする主張がある。しかし心理的原因の疾患では、原因そのものに触れなくても症状が消えることは多いので、疾患の治癒だけで前世の記憶が正しいと考えるには不十分であるという主張もある。 しかし、中には史実と一致して、かつ本人の知るはずの無い正確な記憶を話す事例も存在する。1990年にはシカゴ在住の女性が、16世紀のスペイン女性の生涯を詳細に物語るというケースがあった。後のスペインの公文書館に所蔵されている資料による調査が行われ、彼女の記憶は正確なものであることが判った。またイアン・スティーヴンソンによる生まれ変わり現象の研究では、被験者が知らない言語を、前世退行による真性異言により話し始めるケースが2例紹介されている。2人の被験者が生後にその言葉を学んでいた可能性はほぼ棄却されている(しかし、スティーヴンソンは退行催眠によって本当の前世の記憶が蘇ることは稀にしかない、とも語っている)。 ジョエル・ホイットンの実験によれば、退行催眠により現れた記憶を「前世」のものと仮定することで、子供が生まれながらに持つ言語的なまりや恐怖症、癖や異様な性癖などの特徴が発生した原因を矛盾なく説明できるという。(イアン・スティーヴンソンも同様の見解を示している。)ホイットンの事件では、被験者が過去の時代の歴史的背景について、不気味なほど正確な描写をし、被験者自身が全く知らないとする言語を話す者も現れたという。例として、ある35歳の科学者が無意識に発した言語は古代スカンジナビア語であったことが言語学的に確認された。この被験者は既に絶滅した言語となった紀元前メソポタミアのササニド・パーラディ語を無意識下で書くこともできた。 詳細は「真性異言」を参照 前世記憶について、それを思い出す人の前世は大抵、国王や貴族など高貴な身分であり、召使などの低い身分のものであることはない、といった批判がある。そうしたケースでは、前世記憶は願望が投影された虚偽記憶である事になる。ジョン・レナードは「中でも最も人気の高いのはクレオパトラで、男性の場合は大抵、古代エジプトのファラオという形を取る」と批判している。霊媒であったダニエル・ダングラス・ホームは「私は12人のマリー・アントワネット、20人のアレキサンダーに拝謁を賜っているが、過去生で街角の只のおじさんだったという人には一度もお目にかかったことがない」と揶揄している。 しかし、ヘレン・ウォンバックが行った実験では、被験者の90%が小作人や労働者、農民や狩猟採集民である過去生を思い起こしていた。貴族である前世は10%にすぎず、有名人である前世は(数千件のデータのうち)一例もなかった。ただし、貴族が10%というのは、人口比から言ってまだ異常である。また被験者は歴史上の詳細について驚くほど正確であり、例として1700年代の記憶を呼び起こした人々は、歴史上の家具の形の変遷や衣服・食べ物の変化などについて正確な描写をした。こうしたケースでは少なくとも上記の批判は当てはまらない。 催眠状態がもたらす「記憶の歪み」はしばしば批判の対象となってきた。この現象についてブライアン・ワイスは以下の見解を示している。「ゆがみについては、例えば、ある人を子供時代まで退行させて、幼稚園のことを思い出すよう指示すれば、当時の先生の名前や自分の服装や壁に貼ってあった地図、友達のこと、教室のみどり色の壁紙などを思い出すかもしれない。そして、そのあとでいろいろ調べてみると、幼稚園の壁紙は本当は黄色だったこと、緑色の壁紙は小学校一年生の時のことだとわかった」「しかし、だからといって、その記憶は間違ったソースから来ている記憶とは言えない。同じように、過去世の記憶は一種の歴史小説といった性格をもっており、お話はファンタジーや創作、ゆがみ等が一杯あるかもしれないが、その核心はしっかりした正確な記憶であり、それらの記憶はみんな役に立つもの」であるとしている。
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