負傷した場合に備えて
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/02/09 01:35 UTC 版)
大型動物猟に使役する場合には、大型動物との格闘により猟犬が負傷する場合もある。たとえ鳥猟や小型動物猟などであっても、急峻な地形の猟場では滑落などにより足を骨折するなどの負傷を猟犬が負う場合もある。メスジカやメスイノシシ等のような、一見すると猟犬を直接負傷させうる突起物を持たない獲物であっても絶対に油断は禁物である。手練のシカの場合、猟犬が足場の悪い場所に誘い込まれて谷底へ蹴り落とされる場合があり、メスイノシシでも手足に噛み付かれれば敢えなく骨折させられる恐れがある。特にそのメスが仔連れの場合、母は仔を守る為であれば、猟犬と刺し違える覚悟で立ち向かってくるであろう事を、狩猟者は努々忘れては成らない。 猟犬の受傷に於いて、高所からの滑落以上に致命的なものは、クマの爪やオスイノシシの牙、或いはオスジカの角で腹の下から杓り上げられる事による、頚部や腹部への深い裂傷である。特に腹部に腹膜が割けて腸が露出する程の重傷を負った場合、一般の裁縫用具や釣り針とテグス、或いは先端を鋭利に尖らせた細い針金や大型のホチキスでも良いので、一刻も早く露出した腸を押し戻し、傷口を縫合する応急処置を済ませなければ成らない。犬は自ら傷口を舐める事で痛みに耐えようとする習性があり、この際に自らの腸が垂れ下がって居ると、本能からこの腸を自ら食い千切ってしまい(雌犬が出産の際に自ら仔犬の臍の緒を食い千切る行為と同じ様なものである)、結果としてこれが致命傷となる可能性が高いからである。道具の不備や猟犬が暴れて単身では抑え込むことが困難などの理由により、その場での縫合が難しい様であれば、エリザベスカラーかそれに類する物を首に括り付けたり、それすら無い場合には可哀想でも猟犬の手足やマズルを紐で縛り上げたり、毛布や衣服などで胴体を簀巻きにする等して身動きが一切出来ない状態にした上で、一刻も早く動物病院に搬送する事である。 大量出血を伴う創傷の場合には、脚の場合には紐や止血帯を用いて創傷の上部位を締め上げたり、胴体などの場合で千切れた血管が探り当てられた時には鉗子で血管を押えた上で縫合糸で血管も含めた傷口全体を強く巻きつけることで応急止血を行い、一刻も早く動物病院に搬送する。 こうした事態に備えて日頃から信頼できる獣医が所属する動物病院を探し、万一の際には(たとえ診療時間外であっても)速やかに入院や治療が行える信頼関係や受け入れ体制を病院側と構築しておくことが重要である。また、出猟の際にはファーストエイドキットを携帯することや、日頃から犬の生態的特徴や負傷に対する治療法などをハンターが習熟しておくことも必要である。深い谷底に落とされた場合に備えて、十分な長さのロープや、動けない猟犬を担ぎ上げる為の大きなリュックサックや背負子を備えておくのも良い方法である。 近年では、欧米を中心に頚部や腹部をケブラーやナイロン等の頑丈な生地で被う事で大型獣からの受傷を和らげる(刺傷こそ出来るが、横方向に引き裂かれて大きな裂傷に至る事が予防される)、猟犬用の防牙ベストの普及も進んできており、イノシシなどの危険な大型獣と相対する猟犬に対しては、腹部などへの致命傷の予防の為にも、こうした犬用防具の導入を十分に検討すべきである。鳥猟や小動物猟で用いる猟犬の場合でも、自然環境に紛れ込み易い暗褐色等の毛色を持つ猟犬は、巻狩りの際に猟友から誤射を受ける恐れがある為、橙色などの高視認色の生地(防牙性は余り高くない薄手の生地が用いられる事が多い)が用いられた犬用狩猟ベストの装着は有用である。
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