調節と阻害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/27 09:33 UTC 版)
「グルタミンシンテターゼ」の記事における「調節と阻害」の解説
GSの調節は原核生物でのみ行われる。GSは可逆的な共有結合修飾を受ける。12のサブユニットのチロシン残基に対し、二機能性の調節酵素であるアデニリルトランスフェラーゼ (adenylyl transferase、AT) によってアデニリル化、脱アデニリル化の双方が行われる。アデニリル化は、タンパク質の側鎖にAMPを共有結合付加する翻訳後修飾である。アデニリル化にはATPを必要とし、GSの完全な阻害には12分子のATPが必要である。ATによる脱アデニリル化は、チロシン残基に結合したアデニリル基を加リン酸分解し、ADPとして解離させる。ATの活性は、ATに結合したPIIと呼ばれる44 kDaの三量体調節タンパク質の影響を受ける。PIIもまたウリジリルトランスフェラーゼ (uridylyl transferase) による翻訳後修飾を受けるため、2状態が存在する。PIIがウリジリル化されていないときはPIIA型となり、AT:PIIA複合体はGSをアデニリル化し不活性化する。PIIがウリジリル化されているときはPIID型となり、AT:PIID複合体はGSを脱アデニリル化し活性化する。AT:PIIA複合体とAT:PIID複合体は、α-ケトグルタル酸とグルタミンによって逆方向のアロステリックな調節を受ける。グルタミンはAT:PIIAを活性化してAT:PIIDを阻害し、アデニリル化によってGSを不活性化する。さらに、グルタミン酸はPIID型からPIIA型への変換を促進する。α-ケトグルタル酸の複合体への影響は、グルタミンの正反対である。グラム陰性細菌の大部分では、GSはアデニリル化による修飾を受ける (一部のシアノバクテリアや緑藻は例外である)。 GSの阻害は、大部分がアミノ酸の結合部位に集中している。阻害剤としては、グルタミンの代謝の結果生じる、トリプトファン、ヒスチジン、カルバモイルリン酸、グルコサミン-6-リン酸、CTP、AMPがある。また、アラニン、グリシンとセリンがGSのグルタミン酸結合部位に結合し、GDP、AMP、ADPがATP結合部位に結合する。アラニン、グリシンとセリンはアデニリル化されていないGSのグルタミン酸結合部位に結合し、これら4つのアミノ酸は、それらに共通の「主鎖」の原子を利用して結合する。グルタミン酸もグルタミンの代謝産物であり、グルタミン酸はGSの基質であるとともに阻害も行い、GSの調節因子として機能する。各阻害剤は酵素の活性を低下させ、グルタミンの代謝産物がすべての部位に結合すると、GSの活性はほぼ完全に阻害される。阻害を行う入力シグナルが多数存在することで、体内の窒素レベルに応じたGSの繊細な調節が可能となっている。フィードバック調節には脳と他の組織で差異があり、脳以外のGSは、グルタミンやその誘導体によってフィードバック阻害を受けるが、脳のGSは阻害されない。 他の阻害剤としては、次のようなものがある。 メチオニンスルホキシイミン (methionine sulfoximine、MSO) MSOはグルタミン酸結合部位に結合する阻害剤である。GSに結合するとMSOはATPによってリン酸化され、不可逆的な非共有結合性の阻害を行う。S体(L-メチオニン-S-スルホキシイミン)がより高い阻害効果を持つ。活性部位にある柔軟なループ構造がMSOによって安定化され、グルタミン酸の活性部位への進入がブロックされる。 ホスフィノスリシン (phosphinothricin、PPT、グルホシネート、Glufosinate) ホスフィノスリシンはグルタミン酸結合部位に結合する阻害剤で、除草剤として用いられている。ホスフィノスリシン処理された植物は、アンモニアが蓄積し光合成が停止するため枯死する。 今日では多くの合成阻害剤が利用可能である。 大腸菌を用いた研究によって、GSは遺伝子発現も調節されていることが明らかにされた。GSのサブユニットをコードする遺伝子はglnAである。glnAの転写はエンハンサー領域に結合する特異的転写因子NRI (NtrC) に依存し、NRIがリン酸化型のとき転写は活性化される。NRIのリン酸化は、プロテインキナーゼであるNRII (NtrB) によって触媒される。NRIIがPIIAと複合体を形成しているときはホスファターゼとして機能し、NRIは脱リン酸化されてglnAの転写は止まる。 シアノバクテリアには全く異なる調節機構が存在する。上述のNtrC-NtrB二成分制御系(英語版)の代わりに、シアノバクテリアは転写調節因子NtcAを持っている。NtcAはこのクレードのみに存在し、GSや窒素代謝に関与する一群の遺伝子の発現を調節する。さらに、シアノバクテリアのGSはフィードバック阻害の感受性を向上させるための共有結合修飾が行われない。代わりに、シアノバクテリアのGSはGS不活性化因子 (GS inactivation factor、IF) と名付けられた低分子量タンパク質によって阻害され、IFの転写はNtcAによって負の制御を受けている。これらの不活性化因子はさらにノンコーディングRNAによって調節されている。低分子RNAであるNsiR4はIF7 (gifA) のmRNAの5'UTRと相互作用し、発現を低下させる。NsiR4の発現はNtcAによって正の制御を受けている。加えて、IF17の発現はグルタミンが結合するリボスイッチによって制御されている。
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