詩の中に見られる証拠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 01:56 UTC 版)
「シェイクスピア別人説」の記事における「詩の中に見られる証拠」の解説
正統派の学者も反ストラトフォード派の学者も、自分の学説の論拠としてシェイクスピアの詩作品を取り上げている。 正統派の学者は、ソネット135番の最初の数行こそ別の作者(少なくともウィリアムという名でない人物)が存在したという説に対する強力な反証であると主張する。 Whoever hath her wish, thou hast thy Will(sic),And Will to boot, and Will in overplus;More than enough am I that vex thee still,To thy sweet will making addition thus.他の女をさしおいて、あなたは自分のWillを手に入れた。おまけのWillに、余りのWill。あなたを邪魔してばかりの私など、あなたの優しい心にはお荷物だ。 — ソネット135番 意志や心を表す"will"とウィリアムの愛称である"Will"をかけた語呂合わせは、"And then thou lovest me, for my name is Will"(「そうすればあなたは私を愛することになる、なぜなら私の名前が"Will"だから」)というオチの付けられるソネット136番でも続けられている。フィクション内における遊び心という訳であるが、"Will"という名前が織り込まれていることから以下の2つの可能性が考えられる。 著者の名前はウィリアムで、心の"will"と自分の愛称の"Will"をかけた語呂合わせを作中に入れてみたかった。 著者の名前はウィリアムではないが、そう思わせるために詩的意匠を凝らす必要があった。 オックスフォード派の人々が、シェイクスピア作品の真の作者は貴族であり、戯曲のような通俗的大衆演芸に手を染めていることを知られたくなかったために身分を隠しておいたのだと主張するのに対し、正統派研究者はそうした議論が詩作品に関しては当てはまらないと指摘する。というのも、シェイクスピアの『ルークリース陵辱』や『ヴィーナスとアドーニス』のように古典的主題を扱った長編物語詩作品は、「たんに人気があるだけ」の戯曲とは異なり、遥か以前から立派な芸術として認められていた貴族の文学だったためである。エリザベス朝時代の貴族にとって詩作の才能を備えていることはむしろ望ましいことであり、匿名で出版しなければならない理由がないということである。これに対するオックスフォード派の反論は、『ソネット集』の内容は物語詩と同様に、明らかに著者が筆名を用いざるをえなくなるような個人的かつ政治的な醜聞に触れているというものである。作者がこうした細工をして正体を隠していたことを示す明白な証拠として、彼らはソネット76番を提示する。 Why write I still all one, ever the same,And keep invention in a noted weed,That every word doth almost tell my name,Showing their birth, and where they did proceed?なぜ私はいつまでたっても同じ一つのことばかり書き続けるのか、そしてなぜ自分の想像力に喪服を着せてばかりいるのか?まるであらゆる語が私の名を告げ、自らの出生や来歴を語るかのようだ。 — ソネット76番 またソネット145番もシェイクスピアの妻アン・ハサウェイの名を織り込んだ語呂合わせを含んでいるとの説もある。これは1971年にアンドルー・ガー(Andrew Gurr)によって発表された学説で、ソネット145番に出てくる"hate away"('I hate' from hate away she threw,)の語はエリザベス朝時代の発音ではハサウェイとほとんど同じになるはずだというものであり、次の行に出てくる"And saved my life,"も同様に"Anne saved my life"のように聞こえるとも述べている。 正統派の研究者は、物語詩にせよソネットにせよ、シェイクスピアの主要な詩作品はいずれもペストの流行により劇場が閉鎖された直後に出版されている点が重要だと述べている。これは仕事のなくなった劇作家が他の収入を得る道を求めて執筆したものと考える根拠にはなるが、劇場が封鎖されていたのと偶然にも同じ時期に匿名の貴族が突然多くの詩を書き出した理由を説明するものではないということである。
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