裁決委員への不信と改革の是非
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/07 08:57 UTC 版)
「審議 (競馬)」の記事における「裁決委員への不信と改革の是非」の解説
中央競馬において、審議を行う裁決委員は、全員騎手経験の無いJRAの職員である。この一つの事実は様々な側面から論じられ、「裁決不信」の一因となっているか、もしくはその根拠として挙げられている。 レース騎乗経験のない「非専門家」により裁決が行われている現状は、度々各所で指弾されている。しかし、単に騎手経験者を裁決委員として登用すればよいというほど単純な問題ではないとも指摘される。日本経済新聞社が運営する競馬サイト「サラブネット」によれば、これは内厩制の大きな弊害の一つであって、騎手相互や調教師、厩舎関係者の人間関係が濃密すぎることに原因があるのだという。ほとんどの調教師は騎手から転身した者であり、騎手はほとんどが競馬学校の同門である。競馬学校の先輩・後輩・同期としての絆、あるいは騎手生活・厩舎生活の中で形成された様々な人間関係が、体育会的な「縦の関係」を生み出すと述べている。さらに、同じ騎乗依頼仲介者(エージェント)を雇うフリー騎手同士が"ライン"などと呼ばれることも多いことを挙げ、近年顕著になったフリー騎手の増加が人間関係を希薄にしたわけでもないと指摘したうえで、「こうした土壌では、一部の論者が主張する騎手経験者の裁決委員への起用も難しい」と結論づけている。加えて、JRAアドバイザーとして裁定委員(裁決への抗議に対する最終決定を行う委員)となった岡部幸雄元騎手も「色眼鏡で見られる」と裁決参加に否定的な考えを示したことや、欧州競馬には「地元の名士」のような素人裁決委員が多いことにも触れ、必ずしも騎乗経験のない者による裁決が諸問題の根源となっているのではないことが示されている。 また、裁決の中立性についても議論される。これについてはJRA側も多少の解決策を講じている。具体的には、裁決委員が出した裁決への抗議に対する最終審理機関である裁定委員会について、これまではJRA法務部(裁決委員が属する審判部とは異なる部署)の職員のみで構成されていたものを、2009年より外部委員3名(競馬のレースに関する専門的な知識や経験のある人からJRA理事長が委嘱した者)を裁定委員に加えることとした。これによってある程度の改善が見られた。裁定委員に対して裁決への不服申し立てを行ったことのある幸英明騎手は、「より話を聞いてくれるようになったし、ほとんどの場合で正しくジャッジしてくれている」と肯定的評価を下している。しかしながら、外部委員3名が加わったとはいえ、裁定委員会がJRAの一組織であることに変わりはなく、裁決の完全中立を求める者たちが主張する裁決プロセスの外部化(JRAからの切り離し)には程遠い。前述のサラブネットは、外部化が進まない原因を再び競馬関係者同士の濃密な人間関係に求めている。例えば、中央競馬の騎手を養成するための競馬学校そのものがそもそもJRAの一機関であることに触れ、競馬関係者の強固な結束がある以上は裁決機関の外部化も難しいとしている。 上述のような改革が困難な中、最も速やかに行えて即効性が高いと期待される解決策は審議の透明性の確保である。現在は非公開となっている審議と裁決の過程を公開して、第三者の傍聴を認めることが一部で要求されている。これによって、裁決自体の質が上がることはなくとも、地に堕ちたファンからの信頼を取り戻すことは可能であるといわれている。
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