蜘蛛
『蜘蛛の糸』(芥川龍之介) 血の池地獄に落ちた悪人カンダタは、生前、蜘蛛を助けたことがあった。極楽のお釈迦様が、救済の機会を与えようと、1すじの蜘蛛の糸を下ろす。カンダタは糸にすがって登るが、大勢の罪人たちも後について登って来る。カンダタは「糸はおれのものだ」と叫ぶ。糸が切れ、カンダタは血の池に落ちる〔*→〔天国〕2の『ペーテル聖者の母』(グリム)KHM221に類似する〕。
『耳袋』巻之7「河怪之事」 竹藪の茂る淵で釣りする男の足指に、蜘蛛が繰り返し糸を巻きつけ、ついに足首の半分以上に糸をかける。男が糸を杭の木に移して見ていると、水中と藪との間で「良しか」「良し」との問答があり、杭の木が半分に折れる。
★2.蜘蛛に化す。
『変身物語』(オヴィディウス)巻6 機織り上手の娘アラクネが首をくくり(*→〔わざくらべ〕1b)、ぶらさがる彼女の身体に、女神ミネルヴァ(=アテナ)が魔法の草汁をかける。アラクネの髪は抜け、鼻も両耳も落ち、身体全体が縮んで蜘蛛になる。今も彼女は腹から糸を吐き、機織りに励んでいる〔*この神話にもとづいた『荒絹』(志賀直哉)では、機織り部屋から姿を消した少女荒絹を捜して長い糸をたどり、山の洞窟の奥に、蜘蛛のごとき姿となった荒絹を見出す、とする〕。
★3.蜘蛛の教え。
『江談抄』第3-1 唐の帝王の前で、吉備大臣が難読の野馬台詩を読まされる。読む順序がわからないでいたところ、蜘蛛が1匹、文書の上に落ちてきて糸を引き続けるのを見、それにしたがって読み終えた。
『神道集』巻2-6「熊野権現の事」 天竺・苑商山(をんしやうざん)の喜見上人が『法華経』を説いていた時、蜘蛛が糸を引き回して「鬼時谷という谷で、善財王の王子が12頭の虎に養われている。引き取って善財王に奉れ」と書きつけた。喜見上人は王子を捜し、3年間養育した後に、7歳になった王子を善財王のもとへ送り届けた〔*類話の『熊野の御本地のさうし』(御伽草子)では、蜘蛛の糸ではなく虫喰いが文字の形になる→〔文字〕1〕。
『日本永代蔵』巻4-2「心を畳込む古筆屏風」 貿易商の金屋が破産し、定めなき身の感慨にふける。蜘蛛が杉の梢に糸をかけようとして3度失敗するが4度目に成功し、糸にかかる蚊を食物として、巣を広げる。これを見た金屋は発奮し、再び商売の工夫をする。
『日本書紀』巻13允恭天皇8年2月 「蜘蛛が巣をかけるのは、愛人が訪れる前兆」という俗信があった。衣通郎姫は允恭天皇を恋い慕い、ある夜、蜘蛛が巣をかけるのを見て、「我が背子が来べき夕(よひ)なりささがねの蜘蛛のおこなひ今夕(こよひ)しるしも」と詠じた。その時天皇はすでに側まで来ており、この歌を聞いて衣通郎姫を愛しく思った。
*蜘蛛のふるまいを見て、船を発明する→〔船〕5の『自然居士』(能)。
髪の毛の中のクモ(ブルンヴァン『消えるヒッチハイカー』) 髪の毛を逆立ててフワっと大きくしている女の子がいた。彼女は、けっして髪をくずさず、梳かず、洗わず、たっぷりスプレーをかけていた。ある日、1匹の黒蜘蛛が女の子の頭に落ち、髪の中に卵を産みつけた。卵から黒蜘蛛の子が孵(かえ)り、彼女の頭を食い破ったので、彼女は死んでしまった。
『蜘蛛』(遠藤周作) 雨の夜、タクシーに乗り合わせた青年が、くすね蜘蛛の話をしてくれた。くすね蜘蛛は灰色の足の長い蜘蛛で、人間の皮膚に卵を産みつける。卵から孵(かえ)った幼虫は、人間の血を養分として成長する。やがて皮膚に赤黒いブツブツの腫物がいっぱいでき、つぶすと、蜘蛛の幼虫がうごめくのが見える。「私」は話を聞いて不快になる。青年がタクシーを降りた後、座席を1匹の灰色の足の長い蜘蛛が走って行った。
*蜘蛛の妖怪→〔糸〕8の『土蜘(つちぐも)』(能)・〔七人・七匹〕3の『西遊記』百回本72~73回・〔化け物屋敷〕の『狗張子』巻7-2「蜘蛛塚のこと」。
蜘蛛と同じ種類の言葉
Weblioに収録されているすべての辞書から蜘蛛を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から蜘蛛を検索
- >> 「蜘蛛」を含む用語の索引
- 蜘蛛のページへのリンク