自走の必要性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/04 01:29 UTC 版)
野戦で砲兵が扱う大砲は、人間あるいは牛馬による牽引で移動するが、射撃陣地到着後に牽引状態から射撃状態に移行し、射撃後は移動するために牽引状態に戻す時間が生じるため迅速な陣地変換はできなかった。また、大砲は生物による牽引が困難なほど大型化していったため自動車によって牽引されるようになった。弾道を電波で探知・計測する対砲兵レーダーが発達すると発射位置が特定されるようになり、射撃後は速やかにその場を離れなければ砲やミサイル、空爆による反撃を受ける危険性が高くなった。これを避けるために数発砲撃した後に素早く移動するための機動性として自走能力が必要となっている。このため、陣地展開から射撃、再移動へのプロセスの時間短縮が重視されており、ドイツのPzH2000を例に挙げると、8発を発射する砲撃任務を、射撃準備に30秒、射撃に1分、撤収に30秒と、わずか2分間で完了できる。 152mmから155mmの榴弾砲が搭載され、口径については大口径化する傾向がありフランスのカエサル、スウェーデンのアーチャー、セルビアのB-52など一見すると反動が少ない小口径砲が適正に思われる装輪式自走砲においても大口径化の傾向が当てはまる。射程は通常の榴弾で約15kmから約30kmだが、ロケット推進弾などを使用することで射程が50kmに達するものもある。また、誘導砲弾を用いることで移動する物体を砲撃することができる。通常の榴弾砲と同様に放物線を描いて曲射するため仰角が大きく取れるようになっており、逆に直接射撃能力は自衛戦闘時には必要になるが比較的安全な後方から間接攻撃によって交戦する前提の自走砲ではあまり重視されていない。装甲も重機関銃弾の直撃や周囲へ弾着する榴弾から飛散する破片や爆風に耐えられる程度の場合が多い。 また、長距離の目標へ向けてどれだけ多くの砲弾を短時間で投射できるかも重要で、射撃管制装置の進化により短時間に大量の連続射撃を行うバースト射撃能力が求められている。バースト射撃能力の例として、ロシアの2S19では、持続射撃時には毎分2発の砲撃を行うが、バースト射撃の際には毎分8発の砲撃を行うことが出来る。このほか、最新型の自走榴弾砲では単一の砲から発射された複数発の砲弾が同一目標にほぼ同時に着弾するように高仰角から少しずつ仰角と装薬量を小さくしながら連射するMRSI(Multiple Rounds Simultaneous Impact:多数砲弾同時着弾)砲撃を可能としている。MRSI射撃が可能な自走榴弾砲としては、南アフリカのG6-52やドイツのPzH2000、スロバキアのズザナ、スウェーデンのアーチャーなどが挙げられる。 ただし、上記のようなバースト射撃能力やMRSI射撃能力などを持つ自走榴弾砲は高価な上に重量も大きくなるため、調達数が制限されたり輸送機による空輸に支障が出たりするようになった。このため近年では自走砲の原点に立ち返って迅速な移動に焦点を絞りチェコのダナやイスラエルのATMOS 2000のようにトラックの荷台部分に榴弾砲を搭載する自走榴弾砲も登場するようになった。トラック利用型の自走榴弾砲は装輪式故に自走速度は速いが不整地踏破能力が低く、軽量故に射撃の反動で車体が激しく揺れ連射性能が低く、支えられる重量は装軌式より軽いため防御力が低いが、低コストなのが利点である。機能面では、車体後部に車体の動揺を抑制する駐鋤(スペード)を備え、砲塔は360度全周旋回式が殆どな装軌式に対して装輪式は車体の横転防止に限定旋回式がほとんどで、半自動装填装置の搭載が多い装軌式に対して装輪式は完全自動装填装置の搭載が多い。
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