自然選択の例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 23:46 UTC 版)
キリン 有名な例がキリンの首であろう。高いところの葉を食べるのに有利だったから長い首を持った個体が生き残った、と説明される。ただし、選択圧は一つだけとは限らない。長い首は辺りを見回すのにも有効である。一方で、それを維持するための負担がある。首を支えるには大きな体が必要で、そのためには食料も多く必要になる。脳まで血液を送るための強靱な心臓と、逆に鬱血しないための脚の特殊な構造が必要であるが、これらは首を長くしない方向の選択圧である。キリンは600万年かけて4mの首を持つに至ったが、一年あたりで言えば1,000分の6ミリにすぎない。ダーウィンフィンチで見られるように、選択圧は双方向に働き、長くなったり短くなったりしながら今のキリンになったとする。 ダーウィンフィンチ 1970年 - 80年代に観察された自然選択の例。長い乾期によってダーウィンフィンチが主食にしていた木の実が少なくなると、堅い実を食べるのに適した大きな嘴を持った個体が選択的に生き残った。その後、大雨で食料が増えると、大きな嘴を持つ個体は(体の維持などの点で)不利となり、全体の平均的な体格は縮小する傾向を示した。単純に体格や嘴の平均値が変化するだけではなく、性選択の影響も同時に受け、複数の小グループに収斂する様子も観察されている。さらに2010年代現在においては、人間のゴミ捨て場で残飯を漁るのに適した嘴を持つ個体が増加している。 オオシモフリエダシャク(英: Peppered moth, Biston betularia) オオシモフリエダシャクはアジア・ヨーロッパ・北アメリカなどに分布する夜行性の蛾。19世紀に観察された、自然選択の有名な実例であり、工業暗化という言葉でも知られる。19世紀後半から、ヨーロッパの工業都市が発展するにつれて、その付近に生息するガ(蛾)に暗色の個体が増加した。19世紀半ばから50年間で、黒色個体の数は2%から98%にまで増えたとも言われ、この現象はアメリカでも見つかっている。工場の煤煙で樹木が黒ずんだため、白い個体が黒い個体より多く捕食されたことによると説明される。その後環境が回復すると白い個体が再び増加した。かつては異論があったが、現在ではさらに厳密な検証が実施され、この黒い個体の増減が間違いなく自然選択の実例であるとして専門家の見解は一致している。かつて検証実験の方法に批判的であったジェリー・コインも、鳥による捕食を通じた自然選択の実例であることを認めるに至っている。 昆虫の薬剤抵抗性(薬剤耐性も参照のこと) 1987年5月にアーカンソー州で見られた綿花につく蛾はピレスロイドの散布で6%しか生き残れなかった。数世代を経たあとの同年9月には61%の蛾が生き残った。有機リン酸系、ピレスロイド、DDTなどに抵抗性を持つ蛾、ハエ、蚊が見つかっている。世界各地で発見されているDDTに耐性を持つハマダラカは、1960年代にアジアかアフリカのどこかで誕生した一匹の突然変異体の子孫ではないかと考えられている。昆虫の殺虫剤への抵抗はダーウィン自身も指摘していた。 グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症 グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症は、酵素の欠損により起こる遺伝子疾患の1つである。赤血球がもろくなることにより溶血性貧血などを引き起こすが、一方で赤血球の破壊によりマラリア原虫が増殖できず、マラリアの発症を抑えるため、マラリアの蔓延地域では自然選択で有利であるという特徴も持つ。なお、同じくマラリア原虫に抵抗性がある遺伝子疾患として、ヘモグロビンの異常による鎌状赤血球症とサラセミアがある。
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