米国における動向
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/13 15:16 UTC 版)
「ソフトウェア特許」の記事における「米国における動向」の解説
複雑なソフトウェアを起動できる処理能力が高いコンピュータは、1950年代以降に出現され始めた。しかしながら、アメリカ合衆国特許商標庁(USPTO)においては、特許法 (35.USC) 第101条に、特許される発明として「新規かつ有用な方法、機械、製品若しくは組成物、又はそれらについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は、本法の定める条件及び要件に従って、それに対して特許を受けることができる。」旨の規定があるように、特許を受けることができる発明を、方法 (process)、機械 (machine)、製品 (manufacture)、組成物 (compositions of matter) の4つのカテゴリーに限定してきた。このため、ソフトウェア自体は発明の成立性を満たすものとは考えられてこなかった。 たとえば、ディアディア事件 (Diamond v. Diehr, 450 U.S.175,209 USPQ 1(1981)) の判例でも、自然法則 (law of nature)、物理現象 (physical phenomena)、抽象的アイデア (abstract idea) 等については、いずれも特許対象に含まれないものとされ、「科学的事実」や「数式」についても特許が与えられないことは、その他判例法上も確立した見方であった。これは、従来において、ソフトウェア工学の基本的な技術の大部分が特許可能性を有してこなかったことを意味している。 1982年、プロパテント政策下で、アメリカ合衆国は特許訴訟の控訴審のために、新たに連邦巡回区控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)を設立した。この裁判所では、証拠不十分な弁護の適用可能性を弱め、無効であると証明されない限り、特許が有効なものであったと推定することで、特許権の有効性の確認を容易に行わせるようにした。それによって、1990年代初めまでに、ソフトウェアの特許性が徐々に確立されていくことになった。1996年、USPTOはFinal Computer Related Examination Patent Guidelinesを出している。 また、インターネットと電子商取引の拡大は、多くのソフトウェアやビジネス方法に関する発明(ビジネスモデル特許)の出願を増大させ、一般的に特許にならないと信じられていた対象に特許が認められることになった。そして、1998年には、大きな影響を及ぼす判決が出された。連邦巡回裁判所のステートストリートバンク事件控訴審判決において、従来のビジネス方法の適用除外を否定し、「有用かつ具体的な有形のアプリケーションである場合、ソフトウェアに基づくシステムによって実施されるビジネス方法プロセスは特許可能である」旨の判示がなされた影響は大きかった。 続いてAT&T事件控訴審判決において、従来の数学的アルゴリズムの適用除外を否定し、通信ビジネスにおけるシステム特許の事例においても、同様に特許成立性が認められた。これによって、ビジネス手法をソフトウェアによってシステム化した発明であっても、三つの要件、有用性 (useful)、具体性 (concrete)、明確性 (tangible) を満たしていれば、特許成立性を満たすことが明確化された。 (ステートストリートバンク事件控訴審判決 (State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc., 149 F.3d 1368, 1374-75, 47 USPQ2d 1602 (Fed. Cir. 1998).) 、AT&T事件控訴審判決 (AT&T Corp. v. Excel Communications, Inc., 172 F.3d 1352, 50 USPQ2d 1447,1452 (Fed. Cir. 1999).) )。 しかしながら、ワンクリック特許をはじめ、多くのソフトウェア特許には、産業界や世論の厳しい意見が投げかけられている。これを受けて、米国の特許庁では審査を厳しくする運用がなされ、現在ではビジネス方法に関するソフトウェア特許の特許率は10%程度にまで減ってきている。また、マイクロソフト社も、ソフトウェアの特許権は、不必要な法廷紛争を増やし、多くのコストの原因であることから、ソフトウェア産業界の損失を増やす原因であるとコメントしている。
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