第8章 災害補償
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 23:28 UTC 版)
災害補償責任は、使用者の無過失責任であり、労働者は災害の発生が「業務上」のものであることを立証すれば、たとえ使用者に故意・過失がなかったとしても補償を請求することができる。民法上の不法行為理論の修正である。 第75条(療養補償)労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。「業務上の疾病」及び「療養」の範囲は、それぞれ労働基準法施行規則別表第一の二及び施行規則第36条に掲げられているものである。規則第36条は入院、転地に伴う食費の増加等も含む趣旨であり特に贅沢療養と認められる費用以外はなるべく広く包含せしめること(昭和22年9月13日発基17号)。 労働者が就業中又は事業場若しくは事業の附属建設物内で負傷し、疾病にかかり又は死亡した場合には、使用者は、遅滞なく医師に診断させなければならない(施行規則第37条)。 第76条(休業補償)労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の60%の休業補償を行わなければならない。 第77条(障害補償)労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。 第78条(休業補償及び障害補償の例外)労働者が重大な過失によって業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい。この認定は、様式第15号により、所轄労働基準監督署長から受けなければならない。この場合においては、使用者は、重大な過失があった事実を証明する書面をあわせて提出しなければならない(施行規則第41条)。「重大な過失」とは故意に類する過失の意であって、その認定は特に厳格に行い概ね次の基準によつて取り扱うこと(昭和22年9月13日発基17号)。休憩時間中の作業、担当外作業、安全衛生規則違反の作業等による災害であっても使用者が通常黙認する慣習がある場合には認定をしないこと。 使用者が安全又は衛生に関する基準に違反してる場合は原則として認定をしないこと。 第79条(遺族補償)労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければならない。 第80条(葬祭料)労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の60日分の葬祭料を支払わなければならない。 第81条(打切補償)療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合においては、使用者は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。打切補償を支払えば、第19条の解雇制限は解除される。またこの場合、行政官庁の認定は不要である。 第82条(分割補償)使用者は、支払能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合においては、障害補償及び遺族補償については、6年間にわたり、毎年、分割して補償することができる。使用者は、分割補償を開始した後、補償を受けるべき者の同意を得た場合には、施行規則別表第三によって残余の補償金額を一時に支払うことができる(施行規則第46条)。 第83条(補償を受ける権利)補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。補償を受ける権利は、これを譲渡し、又は差押えてはならない。 第84条(他の法律との関係)この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。使用者は、この法律による補償を行った場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。労働者災害補償保険法が本法と同時に施行せられ、本法の災害補償の規定と不可分の関係に在るものであるから、事務の連絡調整について遺憾のないよう、慎重に取り扱うと共に労働者及び使用者にもその保険との関係を充分周知徹底させること(昭和22年9月13日発基17号)。労働者災害補償保険(労災保険)制度の給付内容が充実した今日では、労災保険が災害補償の大部分を担っていて、労働基準法による災害補償制度が果たす役割は小さい。 第85条(審査及び仲裁)業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議のある者は、行政官庁に対して、審査又は事件の仲裁を申し立てることができる。 行政官庁は、必要があると認める場合においては、職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。 第86条前条の規定による審査及び仲裁の結果に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官の審査又は仲裁を申し立てることができる。 第87条(請負事業に関する例外) 詳細は「使用者#請負事業に関する例外」を参照 第88条(補償に関する細目)この章に定めるものの外、補償に関する細目は、厚生労働省令で定める。
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