科学的根拠と効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/07 16:12 UTC 版)
「インプラントの光機能化」の記事における「科学的根拠と効果」の解説
光機能化は、方法論的には、波長、強度、時間が最適化された複数の紫外線領域の光で処理する技術とされ、処理されたチタン表面あるいはインプラント表面は、水が流れない状態、いわゆる、疎水性から、水が直ちに広がる状態、すなわち超親水性へと変化する(図1参照)。 図1 チタンに見られる生物学的老化に伴う親水性の低下、そして、光機能化による超親水性の再生。チタンディスクに10ミクロンリットルの水を滴下したときの写真。作成直後には超親水性を示すチタン表面は、時間経過に伴い、徐々にその能力を失い、28日後には、疎水性と変化する。しかし、消失した親水性は、光機能化を施すことによって再び発現する。 インプラント治療とは、虫歯や歯周病などで歯を失った後、あるいは関節疾患や骨折の後に行う治療の総称で、チタン製のインプラントを該当する骨の部位に埋入し、そのインプラントが再建のためのアンカー(支柱)の役割を担う。例えば、デンタルインプラントの場合、あごの骨に埋入されたインプラントが周囲の骨と接着するのを待ってから、その上に歯を作成する。整形外科の関節再建の目的のインプラントであれば、片側に人工関節がついており、骨側に埋入される対側のインプラント部分が骨と接着し、安定していなければ、人口関節は機能することができない。従って、インプラントと骨が、いかに強固に接着するか、換言すると、いかに強い骨結合をもたらすかが、これらの治療法の成功の鍵を握る。 光機能化されたインプラントには、処理されていないものに比べて、骨形成を担う細胞(骨芽細胞)や必要なたんぱく質が早く付着し、周囲の骨の形成を早めることがわかっている(図2参照)[4-9]。 インプラントへの骨の接着様式に関して、これまで常識であった包囲率が45-65%の状態を骨結合と呼ぶのに対し、光機能化されたインプラント周囲に骨が形成される様式は、包囲率が近似100%とに達することから、超結合(スーパーオッセオインテグレーション)と定義されている[1][2][6][10-13]。また、骨結合の過程には相反的に働く軟組織の被覆などの抵抗現象が、可及的に抑えられることからも、超電導という科学用語に見られるように「超」という接頭語をつけたとも言われる。インプラントを骨に埋入してからの初期の段階において、光機能化インプラントは、そうでないものと比較して、2.5倍から3倍以上の骨との接着強度を示すことが実証されている[4][13][14]。 図2 骨芽細胞を通常のチタンと光機能化したチタン面にそれぞれ培養して3時間後の顕微鏡写真。光機能化チタン面上には、圧倒的に多くの細胞が付着しており、また細胞突起を進展させ、機能状態も亢進している様子が観察される。 光機能化のメカニズムについては、チタン表面の超親水性の発現のほかに、生物学的老化(後述)に伴って付着したチタン表面の炭化水素が分解・除去されること、さらには、表面電荷の最適化が挙げられている[6][8]。これらの3要素すべてが満たされてはじめて光機能化と呼ばれる骨結合の増強効果が得られる[1][2]。例えば、高い親水性だけでは、チタンの骨結合能力を向上させる十分条件とはならない。 光機能化の効果について検証と発信を行っている光機能化バイオマテリアル研究会によると、光機能化として定義されているすべての要素、条件をすべて満たし光機能化の効果として基礎的にも臨床的にも検証されている機器は、現在のところセラビーム®アフィニー(ウシオ電機社製)のみである。チタン表面に照射する波長の適正化が十分でない光源では、光機能化による十分な効果は得られないことも分かっている。
※この「科学的根拠と効果」の解説は、「インプラントの光機能化」の解説の一部です。
「科学的根拠と効果」を含む「インプラントの光機能化」の記事については、「インプラントの光機能化」の概要を参照ください。
- 科学的根拠と効果のページへのリンク