現代の運指
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/16 09:17 UTC 版)
ファゴットの運指法は、他のオーケストラの木管楽器の運指法よりも、奏者によって大きく違いがある。複雑な機構と音響学のため、ファゴットは良い音質(イントネーション)のための単純な運指を(特に高音域で)欠いている。逆に、高音域のためより優れた運指も豊富にあるが、これらは一般的により複雑でもある。典型的にはこういった音に対するより単純な運指は、代替またはトリル用の運指として使われ、ファゴット奏者は最適な音質のためには「完全な運指」または実行可能なより複雑な運指のいくつかを使用する。使用する運指はファゴット奏者に決定権があり、特定のパッセージについては、奏者に馴染むような新しい代替運指を探すために色々実験することもある。 これらの要素は、ファゴット奏者の間で「完全な」運指と代替運指の両方に大きな違いをもたらし、さらに、どのような音を求めるかという文化的な差、リードの作られ方、チューニング周波数の地域差(よりシャープな運指あるいはよりフラットな運指を必要とする)といった要因にも影響される。ファゴット奏者の奏法は特定の地域ではある程度統一されているが、世界的な規模では奏法が異なるため、2人のファゴット奏者が特定の音について運指が全く違うこともありうる。これらの要因により、ユビキタスなファゴット奏法は部分的にしか記号で表わすことができない。 左手親指は9つのキー[B♭1、B1、C2、D2、D5、C5(B4も)、組み合わせてA4を出す2つのキー、ウィスパーキー]を操作する。ウィスパーキーはF2からG♯3までとその他の特定の音を出す時に押さえるべきである。これは省略できるが、音程が不安定になる。左の親指キーで追加の音を作り出すことができる。テナージョイントのウィスパーキーの上のD2キーとボトムキーは一緒にC♯3とC♯を作り出す。E5とF5を作り出すためにも同じボトムテナージョイントキーが一緒に使われる。D5キーとC5キーは一緒にC♯5を作り出す。A4を作るためのテナージョイントの2つのキーを少し修正したブーツジョイントの運指と共に使うと、B♭4が作り出される。ウィスパーキーは、楽器の高音域全体の幾つかのポイントで、望むように音質を変化させるために他の運指と一緒に使用することもできる。 右手親指は4つのキーを操作する。一番上のキーはB♭2とB♭3を出すために使われ、またB4、F♯4、C5、D5、F5、およびE♭5でも使うことができる。「パンケーキ・キー」とも呼ばれる大きな円形のキーはE2からB♭1までの最低音域の全ての音で押さえられる。また、ウィスパーキーと同様に、音をミュート(弱音に)するための追加の運指でも使用される。例えば、ラヴェルの『ボレロ』では、ファゴットはG4でオスティナート(執拗反復)を演奏するように求められる。これは、G4の通常の運指で簡単に演奏できるが、ラヴェルはミュートのためにE2キー(パンケーキ・キー)を押すように指示している(これはビュッフェシステムを念頭に置いて書かれたものである。ビュッフェ式でのGの運指はBbキーを含む - ヘッケル式では「フランスの」Gと呼ばれることもある)。右手親指によって操作される次のキーは「スパチュラキー」と呼ばれる。これは主にF♯2とF♯3を出すために使われる。一番下のキーを使う機会は少ない。これはA♭2(G♯2)とA♭3(G♯3)を出すときに、右手の薬指を他の音からスライドさせるのを避けるために使われる。 左手の4本の指はそれぞれ2つのポジションを使い分けることができる。人差し指で通常操作されるキーは、主にE5のために使用され、また、低音域でのトリルにも使用される。その主な割り当ては、上の音孔(トーンホール)である。この孔は完全に閉じることもできるし、指を下げることによって部分的に閉じることもできる。この孔を半分塞ぐ技術はF♯3、G3、およびG♯3をオーバーブローするために使われる。中指は通常、テナージョイントの中央の音孔に留まる。また、E♭5もために使われるレバー(トリルキーでもある)にも移動できる。薬指は、ほとんどのモデルにおいて、1つのキーを操作する。ファゴットの中には、主にトリルのためにトーンホールの上に別のE♭キーを持つものもあるが、多くはない。小指はベースジョイント上の2つのサイドキーを操作する。下側のキーは通常C♯2のために使われるが、テナー音域の音をミュートまたはフラッターリングするために使うことができる。上側のキーはE♭2、E4、F4、F♯4、A4、B♭4、B4、C5、C♯5、およびD5のために使われる。このキーはG3をフラットさせ、A440といった低い音程でチューニングする多くの場所では標準的な運指である。 右手の4本の指はそれぞれ少なくとも1つの割り当てを持つ。人差し指は1つの孔の上に留まる。E♭5を演奏する時に、ブーツジョイントの最上部にあるサイドキーが使われるのは除く(このキーはDではシャープするにもかかわらず、C♯3トリルにも使われる)。中指は周りにリングがある孔の上で静止したままで、右手の小指がレバーを押すとこのリングや他のパッドが持ち上がる。薬指は下の薬指キーの飢えに静止したままである。ただし、上側の薬指キーは、一般的にはB♭2とB♭3のために、ブーツジョイントの前面にある一番上の親指キーの代わりに使用することができる。このキーはオーボエに由来しているが、一部のファゴットには備わっていない。これは、親指運指が実質的に普遍的なことが理由である。小指は3つのキーを操作する。最も後ろ(最も奏者に近い)キーは、低音域のほとんどで押される。このキーでF♯4を作ることもできますし、G4、B♭4、B4、C5を作ることもできる(後者の3つの音では、音程をフラットさせ安定させるためにもっぱらこのキーを用いる)。右手の小指用の一番下のキーは主にA♭2 (G♯2) とA♭3 (G♯3) のために使われるが、D5、E♭5、およびF5を改善するために使うこともできる。最前面のキーは、親指キーに加えて、G♭2とG♭3を作り出すために使われる。多くのファゴットでは、このキーは親指キーと異なる音孔を操作し、わずかにフラットしたF♯を生み出す(「重複したF♯」)。ある奏法では一方を両方のオクターブのための標準として、もう一方を実用性のために使用するが、別の奏法では低音のために親指キーを、高音には薬指を使用する。
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