爆風対策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 05:51 UTC 版)
戦艦の主砲発砲時のブラスト圧は、甲板上の人間や搭載航空機などに甚大な被害を与えるため、対策が実施された。大和型戦艦の46cm主砲は特に凄まじく、長門型戦艦の毎平方cmあたり3.5kg(砲口から15m離。2門斉射)に対し、毎平方cmあたり7.0kgである。航空機破壊が0.5-0.8kg、人間が意識朦朧となるレベルが1.16だった。実験では航空機が破壊されるほどで、試算の結果、主砲発射の衝撃波は甲板上のどこにいても人体に致命傷を与える圧力と判明した。大和型が艦載艇と艦載機を艦内に収容出来るように格納庫を配置したのはこの為である。計画時より爆風対策で艦載艇と航空機の格納庫を設けた例は、大和型だけである。 実際に武蔵の公試時に、モルモットを入れた籠を複数配置して主砲発射を行ったところ、爆風で半数以上の籠は跡形も無く吹き飛ばされており、残った籠の中のモルモットも爆圧により形を留めぬほどになっているなど、無事であったものはほとんどなかった。従って、主砲発射時には甲板上で体を露出している者(主に増設の機銃及び高角砲の要員)に対して主砲射撃指揮所から操作するブザーを鳴らすことで退避警告をしていた。1回目で甲板乗員は艦内に退避、2回目の長音の鳴り終わりと同時に発砲するという手段を執っていた。ただし、艦橋最上部防空指揮所の監視兵は退避しなかった。「武蔵」の射撃訓練に立ち会った左近允尚敏(海軍大尉、航海士)は、艦橋トップにいて主砲爆風を体感し、帽子を吹き飛ばされるところだったと回想している。また公試運転で主砲爆風実験に立会った兵員は「檻に入れた犬・猿が全部死んだ。ただ主砲が右舷を向いて発砲した時に左舷甲板にいれば平気だった」と述べている。トラック泊地での演習では、爆風に晒される兵は最初に耳に綿をつめ、その上に耳栓をして、さらに飛行帽子をすっぽりかぶって両耳を覆い、鉄兜をかぶって防御した。 爆風楯付き高角砲、機銃 高角砲・機銃には爆風楯が付けられたが、増設機銃・高角砲の一部には施されていない。むき出しの機銃に配置された兵員は、上記のブザーと共に衝撃に弱い機銃の照準器を取り外し、艦内に待避していた。そのため、対空戦闘では主砲発射に伴う要員の待避、爆煙による視界悪化、再配備(これには照準器の取外し、再装着の時間も含まれる)の空白の時間が出来てしまい、隙ができる可能性があった。また艦橋等よりはね出して設置された機銃、射撃指揮装置、探照装置の台座下部も構造支持材むき出しではなく、カバーで整形されているが、これもまた爆風で台座がまくれあげられないようにするためであった。 レイテ湾海戦における武蔵沈没時の戦闘では、戦闘時の騒音と興奮でブザーが聞き落とされ(あるいはブザーを鳴らし忘れ)、機銃員が避退せぬまま主砲が発射されて、死傷者が生じたという目撃証言がある。同海戦では大和でも主砲爆風による負傷者が出た。また沖縄特攻時にも、主砲が艦長の許可を得ずに発射された可能性がある。(詳細は後述)
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