波及効果・景気対策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 15:58 UTC 版)
1990年代の「失われた10年間」に景気浮揚を狙って公共事業が盛んに実施されて以来、公共事業への依存が続いた結果、公共事業の生産性は大きく低下しているという問題はしばしば指摘されている。池田信夫は「100兆円以上の『景気対策』としての公共事業は、不況をかえって長期化させた。労働生産性が低い部門に労働が移動することによって、経済全体の生産性が低下した」と指摘している。 内閣府のマクロモデルによる試算では、公共投資の乗数効果の低下が指摘されている。その試算では公共投資の乗数効果は、1980年の1.67から1990年には1.31まで低下した。乗数効果の低下の要因として、車の通らない道路、飛行機の飛ばない空港、空き地の目立つ工業団地など効率の悪い公共投資を優先させたことが挙げられている。 日本の公共投資とGDPの関係を相関係数という統計的尺度で見ると、1980-95年では0.849、1996-2013年ではマイナス0.886となっている。 財政支出の増大は、クラウディングアウト効果による民間投資や消費の減少を引き起こしたり、マンデルフレミングモデルに従うと円高を招いて純輸出を減少させたりすることから、需要刺激の効果は相殺されるため、公共事業による景気対策は効果に乏しいとされる。 しかしマンデルフレミングモデルは小国開放経済モデルであると指摘されている。 エコノミストの安達誠司は「老朽化したインフラなどの社会資本の整備は国全体の生産性を高める可能性はある」と指摘している。 経済学者の若田部昌澄は「公共事業については、都市部のインフラ、新幹線・高速道路、地震対策などは必要である」と指摘している。若田部は「建設業よりも波及効果が高い可能性があるものとしては、介護、医療、環境、サービスがあり、公共事業といってもやり方はいくらでもある」と指摘している。 経済学者のラグラム・ラジャンは「(日本が)内需主導型経済へ転換するためにも構造改革は必要である。橋やダムの建設など公共事業の拡大で内需を刺激しても、根本的な解決にはならない」と指摘している。 原田泰は「政府支出の効率低下とマンデル=フレミング・モデルの両方の効果が起きていることは確かである。賢い公共投資をして、同時に金融緩和をすればよい」と指摘している。また原田は「無駄な公共事業に使うのなら、税金は極力取らないほうがいい」と指摘している。原田は「格差縮小のために無駄な公共投資を行うには、膨大なコストがかかる。むしろ、直接お金を配ったほうが安くすむ。また、負の所得税や技術習得の援助というやり方もある」と指摘している。 岩田規久男は、地方経済の自立化にも資する公共投資の例として、林業の復活のための公共投資(路網建設)、電力・ガスの区域間の連携線整備のための公共投資を挙げている。
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