法的有効性に関する議論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/12/24 01:04 UTC 版)
日本の民法上、賃貸借契約の成立要件は、賃貸人が賃借人に賃貸目的物を引き渡して使用・収益させることを約し、賃借人がその対価として賃料を(定期的に)支払うことを約することである。もっとも、契約自由の原則から、賃料以外の金員の支払を約することは禁止されるものではない。最初から貸主への「謝礼」としての意味合いで支払われることから、性質が明確であり「納得いかなければはじめから契約しなければよい」というものである。 しかし、賃貸人が事業者で賃借人が消費者である場合には、消費者契約法により規制されるため、同法10条が問題となる。すなわち、消費者契約法10条によると、1.民商法の任意規定以上に消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、2.信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの、は無効とされる。民法では当月末の賃料支払のみが定められていることからすれば、1の要件に該当するとも考えられる。しかし、2については、1以上にその該当性の判断が困難であり、さまざまな議論がなされている。仮に無効であるとすれば、賃貸人がすでに受け取った礼金は不当利得として返還する義務があることになる。 この点に関する裁判例としては、次の1件が確認される。 京都地判平成20年9月30日礼金の法的性質は、賃料(賃貸借の対価)の前払いであり、当月末を賃料支払日とする民法614条本文に比べ、賃借人の義務を加重しているから、①には該当する。しかし、礼金には賃貸借の対価としての性質があること、賃借人としてはそれが不返還であることは認識していたと認められること、他にも賃貸物件がある中で賃借人は当該物件を選択したものであること、賃借人は途中解約でも全額不返還であることは認識していたものと認められるうえ、途中解約の場合も全額不返還であることが前提となって賃料が設定されていることから、全額不返還であることについての賃貸人の期待は保護されるべきであること、2.95ヶ月分の礼金は不当に高いとはいえないことなどの理由から、②には該当するものとはいえず、当該事件における礼金約定が消費者契約10条に違反して無効であるとはいえないとした。 敷引特約については、災害のため家屋が滅失したことにより賃貸借契約が終了した場合に適用を否定した最高裁判例(最一小判平成10年9月3日民集52巻6号1467頁)があるほか、下級審では消費者契約法により無効であるとした事例がある。敷引特約の有効性に関する裁判例として以下のものがあげられる。 肯定神戸地判平成14年6月14日(消費者契約法施行前の契約に関する裁判例) - 敷引特約は、敷引額が著しく高額である等の特段の事由がある場合を除いて、有効である。賃料1か月76,000円、敷金70万円(敷引28万円)などの内容の建物賃貸借契約における敷引特約は有効である。 最一小判平成23年3月23日(消費者契約法施行後の契約に関する裁判例) - 敷引特約は、敷引額が著しく高額である等の特段の事由がある場合を除いて、有効である。なお、本件は通常損耗等の修繕を借主負担とし、その負担費用として敷引金契約上にて設定されているので、礼金とは趣旨が異なる。賃料1か月96,000円、保証金40万円(敷引21万円)などの内容の建物賃貸借契約における敷引きは有効である。 否定神戸地判平成17年7月14日判例時報1901号87頁 - 敷引特約は、関西地区における慣行であるが「信義則に違反して賃借人の利益を一方的に害するものと認められる」と述べ、消費者契約法10条により無効である旨判示した。 京都地判平成18年11月8日も同条による無効を認めた事例である。 礼金が賃貸借契約成立時に支払われる金銭であるのに対し、更新料は契約更新時に支払われる金銭である。賃貸人は賃借人が入れ替われば礼金を受け取ることができるから、更新料は賃借人交代がないことの埋め合わせの役割を果たすともいえる。しかし、借地借家法・消費者契約法に照らして、その支払義務には礼金の場合よりも判断が分かれる。更新料の支払義務に関する裁判例(下級審のものを含む)として以下のものがあげられる。 肯定京都地判平成20年1月30日 - 建物賃貸借契約に関する本件更新料は、主に賃料の補充としての性質を有する。本件更新料特約は、消費者契約法10条・民法90条により無効であるとはいえない。 東京簡判平成16年6月14日 - 店舗の賃貸借契約(賃貸期間3年)について、賃料の2か月分を更新料として請求することは認められる。 否定京都地判平成21年7月23日、大阪高判平成21年8月27日 - 建物賃貸借に関する本件更新料特約は、賃借人の利益を一方的に害する特約であり、消費者契約法により無効である。 京都地判平成16年5月18日 - 建物賃貸借に関する本件更新料特約は法定更新の場合には適用されない。 最一小判昭和57年4月15日 - 建物賃貸借に関する本件更新料特約は、法定更新の場合には適用されない。
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