法人税と国際競争力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 01:24 UTC 版)
経済学者の岩田規久男は「1990年以降のグローバル経済の発展により、企業はグローバルな視点で立地を決めるようになっており、法人税は企業立地選択の大きな費用の一つになっている」「グローバル経済の下では、長期的には法人企業は法人税率が高い国から低い国に生産拠点を移動させようとする。結果、法人税率が高い国では、国内雇用の減少による賃金低下を通じて、労働者の法人税負担割合が増大する」と指摘している。 伊藤元重は「法人税率を1%ポイント引き下がると、国・調査期間・分析手法によって結果にばらつきはあるが、おおむね2-4%程度の投資の拡大が見込まれるとされており、ある程度の投資誘発効果が見込まれる」と指摘している。 経済学者の國枝繁樹は「法人税率を下げれば国外から資本が流入する。欧州ではアイルランド、アジアでは香港・シンガポールのような経済規模の小さな国では、そのメリットが大きい」と指摘している。一方で國枝は「日本・アメリカのように経済規模の大きな国では、GDPの規模で考えれば、税率を下げることで資本が流入し、税収が増えるということには、なかなかつながらない」と指摘している。 投資活動の抑制について、経済学者の野口悠紀雄は「投資によって利益が増加すれば法人税は増加する一方で、借り入れの利子が損金算入されるため法人税は減る。結局、借り入れで投資する場合、2つの効果が相殺して法人税負担は変わらなくなる」と指摘している。 国際的な企業誘致競争の1つとして、欧州域などでは法人税率の引き下げ(同時に消費税の引き上げ)競争が進んでいるが、WTOでは「有害な税の競争」だと問題を指摘しており、国際社会における枠組みについて議論されている。 国税である法人税自体はイギリスのが日本より0.3%ほど高いが、事業税や住民税など地方税も含めた実質的に企業が負担する税率である法定実効税率と比較するとイギリスの方が11%も低いなど世界の各国は企業の国外流出を防ぎ、外国の優良企業を呼び込もうと減税競争をしている。各国が法人税減税を行うのは企業が投資先の国を選ぶ時代であり、一時的に法人税収が減っても企業・工場誘致することで国内経済活性化と企業の国内投資も促進で中長期的には税収も伸びるためである。法人税の引き下げ、円安、規制改革、設備の自動化などで日本製造製品の国際競争力が強くなったことで、2015年以降から多くの日本企業が製造本国回帰し始めている。 大田弘子は、法人税は大きな転換が迫られているとしており、 企業活動が多様化しているため、国際的な戦略が求められていることから、税が企業の選択に歪みを与えないようにする必要がある。 企業が容易にグローバルな経済活動を行う時代であるため、税において国際水準を意識しなければならない。 企業のグローバルな展開によって、徴税が困難になっているため、国際的な取り決めが重要性を増している。 と指摘している。大田は「法人税の負担は、税率だけではなく『税率』と『課税ベース』で決まる」と指摘している。 なお、野口悠紀雄は、法人税制等は国によって異なるため、課税所得を分母にとる法定実効税率の指標比較はあまり意味がないとしている。
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