水月湖の年縞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/03 20:59 UTC 版)
水月湖は、福井県三方上中郡若狭町にある三方五湖の一つで、面積4.06km2(五湖中最大)、周囲9.85km、最大水深38.0mの汽水湖である。水月湖は水深が深く湖内に直接流れ込む大きな河川がなく、その流入などで湖底の堆積物がかき乱されることがないため、年縞が1枚ずつきれいに積み重なっている状態が保たれている。年縞の厚さは1年で約0.7ミリメートルである。また、湖底に酸素が乏しく生物がほとんど生息しないことで、年縞がありのまま残っていたこと。さらに好条件となった背景には湖周辺の断層の影響で、湖の底面が低下する沈降現象が続いており、湖底に毎年堆積物が積もっても、湖が埋まらないという特異な条件が揃っており、水月湖の年縞は「奇跡の堆積物」と呼ばれている。福井県年縞博物館では、年縞をステンドグラスにしたものが展示されている。 この水月湖の調査は1991年(平成3年)から開始された。2006年(平成18年)に始まったボーリング調査では湖底の堆積物は70m以上の深度まで及ぶため、技術的に1本の連続した試料として掘り出すことが不可能であった。このため、最終的に別々な4カ所の穴からそれぞれ長さ1m程度のコア(芯)を掘り出し縞模様のパターンマッチング(採取場所の異なる複数の短いコアを連続にする為の作業)を行い1本の土の層に復元する事で総延長70mにも及ぶコアが掘削された。これは過去約16万年分の連続した土を採取できたこととなり、その1mmの抜けもない完全連続したこのコアサンプルは「SG06」(水月湖06年の略号)と呼ばれる。以降、日本、イギリス、ドイツなどの共同研究チームが分析を進めて放射性炭素14、炭素12の比率を調べることで、最終氷期以降のの11,200年- 52,800年前にわたる過去約5万年間の放射性炭素年代測定を行ない、その研究成果を学術雑誌『サイエンス』誌に発表した。過去に例を見みない、誤差が約5万年で170年程度という精度の高さから、この水月湖の年縞からのデータは2012年(平成24年)7月13日にフランスのユネスコ本部で開催された世界放射性炭素会議総会(International Radiocarbon Conference)で地質学的年代決定での事実上の世界標準となった。水月湖の年縞を基準として、放射性炭素年代測定の結果を西暦に当てはめるこの国際較正曲線を「IntCal13」と呼称している。 世界的な気候変動の変遷・メカニズム解明、大陸から飛来する風砂塵、日本海で生じた津波、周辺地域の地震研究など様々な分野の研究に用いられ、今後も他分野への利用が期待されている。 具体的には、日本列島関連では鬼界カルデラや姶良カルデラにおける巨大噴火、ナウマンゾウ絶滅、出土した土器や人骨の時期、海外ではネアンデルタール人絶滅時期の推定など、地質学や考古学、古生物学、人類学の研究に広く役立てられている。
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