植物性食料の利用拡大と定住化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 08:36 UTC 版)
「土器」の記事における「植物性食料の利用拡大と定住化」の解説
煮炊きをすることは、さらに渋み抜きやアク抜き、解毒作用、殺菌作用においても絶大な効果を発揮し、キノコや山菜・堅果・根菜など、従来、あまり食材とみなされなかったものの多くが食用可能となった。ことに、温暖化によって落葉樹林が拡大した更新世の終わりにあっては、山林で豊富に採集できるドングリやトチノミなどの堅果類の利用には煮沸によるアク抜きが欠かせないものであったし、ヤマイモなど根茎類に含まれるデンプンの消化を助けるためにも煮沸は必要であった。また、植物を焼いて食べる場合、特に「葉もの」や「茎もの」などは火加減が難しく、焦げたり、灰になったり、食べる前に燃え尽きてしまったりすることも少なくない。煮炊き料理は、こういう失敗や無駄を減じ、さらに栄養豊富なスープ(煮汁)をも摂取することができる。煮沸によって水自体も安全で衛生的なものに変化した。もとより、水や食物の貯蔵にも土器が重宝したことは言うまでもない。 煮炊きの開始によって、人びとの食生活は革命的な変化を遂げた。今日では、人骨に残された窒素や炭素同位体の比率の分析によって、その人の生前の食料事情が詳細に判るようになっており、小林達雄によれば、サケ・マスや海獣(アザラシやトド)に恵まれた北海道地方においては動物性たんぱく質の摂取量が全体の約7割を占めるものの、関東地方にあっては貝塚を伴う遺跡であってさえ、動物・植物の比はほぼ半分ずつであり、中部地方の山岳地帯では植物性の食べものが全体の6割を超えている。植物性食料の利用拡大は、数字のうえでも、ある程度立証されている。 こうした、植物食の拡大充実は、食生活の安定のみならず食糧獲得の活動をより安全で確実なものとした。すなわち、生業(なりわい)の面でも、狩猟や漁撈に加えて植物採集の比重が大きくなっていったわけである。このことは、動物を追って移動する生活から、旬の時期を見計らって採集することのできる定住生活へと向かう契機となったものと考えられる。おそらくは、人びとが一箇所に長逗留することを繰り返すうちに、定住的生活の方がむしろ有利であることを悟ったものと推測されるのである。反面、割れやすく、重くかさばる土器は移動生活には不向きで、その多用は必然的に定住化を促すものでもあった。 狩猟や漁撈が依然として人びとにとって重要な生業であったことは、弓矢の発明や石鏃の改良、釣針や銛の改良・開発などが同時的に進行していったことからもうかがわれる。しかし、一方では、陥穴(おとしあな)を利用する待ち伏せ的な狩猟やエリなど定置漁具を用いた漁撈など、狩猟や漁撈の中身も定住生活と調和する性格のものが増えていった。
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