根による取り込み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 04:16 UTC 版)
「栄養素 (植物)」の記事における「根による取り込み」の解説
根は植物の地上部を支えるとともに、その支持体から栄養素と水分を吸収する。支持体は、土壌や水耕栽培用養液、あるいは水生植物であれば水、特殊な例では気耕栽培システム により霧状の養液が充満した空気中である。吸収する栄養素は部位によって異なるが、ほとんどの必須栄養素の取り込みは根毛細胞のプロトンポンプで行われている。根毛のプロトンポンプは、水素イオン (H+) を負に荷電した土壌粒子へ供給し、その際に生じるエネルギーにより、無機塩のカチオンである栄養素を植物体へと送り込む。特にカリウムの吸収には根毛が大きく寄与する。しかし、すべての栄養素の取り込みに関わるわけではなく、カルシウムやケイ酸の吸収にはほとんど寄与しない。根毛以外の根の部位も栄養素を吸収し、例えばリン酸は先端が、ケイ酸は基部が取り込む。 根は、表皮細胞と接した、(土壌)溶液に溶けた栄養素を吸収する。外の溶液中から表皮細胞へと栄養素を取り込む機構は主に次の3つである。 単純拡散 O2、CO2、NH3といった非極性分子の濃度勾配に従って起こる、輸送タンパク質を介さず細胞膜上の脂質二重膜を貫通する拡散運動。 受動輸送(促進拡散) 輸送タンパク質による、高い濃度側から低い濃度側への溶質または溶質中のイオンの速い移動。植物内部の水ポテンシャルによって調節されており、これが土壌中のそれより負のとき、栄養素である無機塩の濃度が植物内部でよりも土壌で高いことになり、植物への流入につながる。 能動輸送 エネルギーを消費して輸送タンパク質が行う、低い濃度側から高い濃度側へのイオンや分子の移動。植物の細胞膜は、細胞内外でイオン濃度が平衡であるとき-100mVから-150mVの負の電位差を持つ。ここで負は細胞内側、正は外側である。この膜電位は、主にプロトンポンプとカリウムチャネルによるイオン輸送が釣り合うことで生じていると考えられている。 一次能動輸送 エネルギーの供給源にアデノシン三リン酸を利用する能動輸送。 二次能動輸送 プロトンやカリウムイオンなどの荷電イオンの細胞内外の濃度差によって生じる電気化学ポテンシャル差から生じるエネルギーを利用する能動輸送。 表皮細胞へと取り込まれた栄養素は中心柱の導管へと運ばれる。そこまでの経路にはアポプラスト経路とシンプラスト経路の2つがある。アポプラスト経路とは、細胞と細胞との隙間や、細胞壁の中を通る経路である。しかし、成熟した根では内皮にカスパリー線があり、これが水と水に溶けた栄養素の流入を遮断する。実はこのことが植物の栄養素の吸収量の調節を助けている。根端ではカスパリー線が未発達なので中心柱まで入れるが、導管もまた未発達である。このため、根端でのアポプラスト経路から直接導管に入る植物栄養素は少ないと考えられている。一方、シンプラスト経路とは、表皮細胞に取り込まれて細胞間の原形質連絡を通って移動する経路である。原形質連絡は、隣接する植物細胞間を隔てる細胞壁を貫く筒状の構造体である。 取り込まれた植物内部の栄養素は、その植物で最もその栄養素を必要とする場所へと運搬される。例えば、栄養素の供給は下葉(古葉)へよりも若い葉へと優先的に行われる。そのため、あらゆる必須栄養素の不足障害は、不足している栄養素の植物体内の移動が容易であるとき、最も古い葉から顕著に現れる。しかし、すべての栄養素の可動性は等しくなく、窒素、リン、カリウムは可動性であるが、他の要素に関しては可動性の程度がさまざまである。可動性が低い栄養素の不足障害は、不足栄養素が古い葉から移動せずに留まるため、古い葉ではなく若い葉で先に現れる。この障害症状の違いは、不足している栄養素の特定に重要である。
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