根の不変性の崩壊と概念の変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/20 05:36 UTC 版)
「根の説」の記事における「根の不変性の崩壊と概念の変化」の解説
一方、デュマとその弟子たちによって不変とされていた根が化学変化を起こす例が多数発見された。1834年、デュマがエタノールを塩素と反応させたところ、クロラールが生成した。これは不変と考えられていたエチル根に塩素がとりこまれ変化したことを示していた。しかし、これは大きな反響は呼ばず根の説はしばらくはそのまま存続することになる。それどころか、デュマ自身がこの実験結果の重要性には気づいていなかった。1837年にデュマはリービッヒと共同で有機化学も無機化学と同じように根によって説明できることを宣言する論文を発表している。 むしろ置換反応の重要性に気づいていたのはデュマの弟子のオーギュスト・ローランであった。ローランは1836年にナフタレンのハロゲン置換体の研究から、分子の骨格部分(核)にある水素がハロゲンに置換されても物質の性質に影響をほとんど及ぼさないとする核の説を発表した。 その後、デュマ自身も置換反応の重要性に気づいた。1839年に酢酸を塩素化してトリクロロ酢酸を得、ここでローランと同様に水素とハロゲンは置換されても物質の性質にほとんど影響しないという立場に変わった。そしてデュマは新たに根の説に変わる型の説を提唱した。 このころ根の説の創始者であったリービッヒはすでに農芸化学の分野へと転向しており、根の説を積極的に擁護しようとする立場から離れていた。電気化学的二元論の支柱として根の説を採用したベルセリウスも多くの置換反応の例を前に根の説を変更せざるを得なくなった。 そこでベルセリウスはデュマの弟子であったシャルル・ジェラールが1839年に発表した説を採用した。ジェラールの説は有機化合物は2つの根が結合したもので、複分解反応はその根の交換によるというものであった。ベルセリウスは化合物の性質において重要な根とそうでない根に分け、化合物の性質において重要な根は不変であるが、そうでない根は置換反応を起こすことができ、置換を起こしても化合物の性質に大きな影響は及ぼさないとした。 例えば酢酸はベルセリウスによれば CH3•1/2C2O3•1/2H2O という形で表される。メチル根 CH3 の部分は重要でない根であり置換反応を起こしても酸という性質には影響しない。一方 C2O3 (当時の考えではシュウ酸に相当する)の部分は酸としての性質を表す部分であり変化しない。このようにして根の不変性は放棄され、特定の性質を示す根という現在の官能基に相当する概念がここで導入された。
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